不思議な部屋


 扉を開けて、閉めまして。

 また開けましたら、違う部屋。


◆◆◆


 兄と慕っていた方が亡くなった。

 重い病気を患っていたとか、危ない職に就いていたとか、そういうことは一切なく、ある日いきなり、二度と会えなくなった。

 嘘だと思いたかったけれど、状況的に、疑い続けることも、現実逃避することも許されず、生前彼がもしもの時の為にと遺していてくれた手紙を受け取ることになり、中を見た。

 真っ白なカードに文章が一行。

 色褪せた銀色の鍵が一本入っていた。


 ──好きに使っていいよ。


 どこの鍵かは書かれておらず、取り敢えず手掛かりでもと部屋に行ってみて、何とはなしに鍵穴にさしてみたら……開いた。

 ワンルームのお部屋は、家電の類いは一つもなく、そこにあるのは本棚のみ。窓のないお部屋みたいで、壁から壁にぎっちりと本棚が設置され、隙間なく本が納められていた。

 上がり込んで、適当に一冊抜き取り、ページを捲る。猫に丸飲みにされた鼠が、胃酸に溶かされる前に復讐をする話だった。

 終わりまで読んで元に戻すと、いつの間にか夕食の時間が迫っていて、仕方なくその日は帰った。


 次の日に行ってみると、本棚はなくなっていて、数多の本がフローリングの上に積み重ねられ、いくつもの塔を築いていた。

 上がり込んで、適当に一冊手に取り、ページを捲る。仲間内でジュースのロシアンルーレットをすることになり、一つだけ青汁が混入されてると言ってるけど、本当は青汁じゃなくてニコチンが入ってて、犯人はそれを恋敵に飲ませるはずが意中の相手に飲まれそうになるから、それを阻止する話。

 終わりまで読んで元に戻すと、精神的に疲れたので家に帰った。


 一週間後に行ってみると、畳の上に原稿用紙が散らばっていた。

 番号が振られているから、一枚ずつ拾って順番通りにしてから読んでいく。

 ■■■■■■はある日■■の■■を■■■■■ができな───────。

 兄と慕う彼の話。

 彼がいなくなった話。

 私は部屋を出た。


 一月後に行くと、部屋の中は空っぽで。

 ただし、押し入れの中にぎっしりとアルバムが仕舞われていた。

 中を見ると、どのページも写真と一緒に文章が書かれている。

 ■■の■■■■■■と■■■あげて、■れた。

 ■■は■■にとってただの■■■■■で。

 なのに、気付けば■■は、■■■■■が───────。

 それは彼の真実。

 彼の胸にあったもの。

 持ち出そうとしたら、何かの力で部屋を追い出された。

 もう一度開けたら、また、原稿用紙だけがそこにあった。

 今度は散らばってない。ホッチキスでまとめられ、丁寧に置かれてる。


 私はそれを読んだ。


 私はそれを読んで、それを読んだ。

 私はそれを読んで、それを読んで、それを読んだ。

 私はそれを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んだ。

 私はそれを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んだ。

 私はそれを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んだ。

 私はそれを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んだ。

 私はそれを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んで、それを読んだ。


 ──私はそれを、ずっと読み続けた。

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