探偵、面倒がる
「犯人はあなたです」
探偵はそう言いながら、とある人物を指差す。
指されたそいつは狼狽えながら、いきなり失礼だとか、証拠はあるのかとか、色々言ってくるが、助手の僕でも分かる。そいつは最初から、それこそ事件が起こる前から怪しかった。そいつ以外に犯人がいるというなら逆に教えてほしいくらいだ。
探偵は肩を竦め、溜め息を一つ。
そして犯人に向けていた指を小気味良く弾き、
「それじゃ、教えてあげますよ」
犯人含め観衆に、そう自信満々に言ってやるのだった。
◆◆◆
「ざっけろよ犯人の野郎っ!」
二人掛けソファに寝っ転がり、頭を抱えながら探偵は言う。
──それは推理を披露する前の日の夜のこと。
探偵の好きなホットミルクを、傍にある座卓の上に置きながら、「どうしましたか?」なんて口では言いつつ、探偵が何を考えているのかなんて訊かなくても既に分かっていた。
探偵も探偵で、助手が分かりながらも訊ねることを知っているので、何でもない日に「こういうのを様式美って言うんだよ、助手」なんて言われたことがある。
これはくだらない言葉のやりとり。
罪を暴く罪悪感の誤魔化し行為。──ま、探偵にも罪悪感があればの話。
「どう考えたって犯人はあいつだけど、簡単には認めないだろ? だからあいつがやったトリックを皆の前でやってみせる必要があるだろ? でも、そのトリックがクソめんどいんだよ、ざけろや」
「時間が掛かる?」
「体力使う」
「協力者は必要?」
「共犯者がいたからな」
犯人はもちろん、他の人間にもバレないようにやらなきゃいけないし、本当に面倒くさい。
言葉を並び立てるだけで認めてくれればいいが、大抵の犯人は証拠を突きつけないと認めてくれない。
自分がやりましたと言わせる為には、犯人がやったトリックを見せ、そして犯人しかできなかったことを証明しないといけず。
「めんどいめんどい! 準備すんのめんどい! 段取りとか考えんのめんどい! 助手が一人でやって!」
「
「……必ず、俺がさいごまで責任持って面倒看るから」
「イ、イケボで何言ってるんですかっ! 後、どういう意味ですかっ! そんな話はしてませんよっ!」
「ダメか……」
「当たり前ですっ! だいたい、たかがトリックの準備を面倒がってる人が、人の面倒をさいごまで看れるわけないでしょ、信じられませんっ!」
「……どうしたら、信じんの?」
「え、その……誠意を、見せてくれたら……」
「……っ」
「……」
「──分かった、やるよ」
「そうして、いただければ……」
ここまでやって、探偵は重い腰を動かす。
犯人の罪を暴く明日の為に。
……桃色ふわふわな未来の為に。
腹を括った探偵は、何でああもかっこいいのか。
◆◆◆
「以上のことから、あなた以外にこのトリックを行えた人物はおらず、よって、犯人はあなた以外にありえないのですよ」
「そ、そんな……」
崩れ落ちる犯人。
額の汗を拭う探偵。
今回はかなり動き回る必要があったので、夏でもないのにかなりの汗をかいてるようだ。事前にハンカチを渡しておいて良かった。
基本インドアで、動くことを激しく嫌う探偵だが、そんなこと分からせない態度で、笑顔で、衆人環視の前に立つ。
探偵の本性を知っているのは助手だけ。
探偵の苦労を知っているのも助手だけ。
──これだから助手はやめられないんだよな。
そんなことを考えながら、犯人の語りに耳を傾けるのだった。……これが一番の楽しみだったりする。
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