先輩とラーメン
部活帰りにラーメンを食べるのが好きだった。
正確に言えば、先輩と食べに行くのが好きだった。
『席に座る前に、この券を先に買うんだよ』
『え、そうなんですか』
『箱入りだなぁ、もう』
初めて入った時はそんな失態を見せてしまったけれど、二回目はどうにかできた、と思ったら、麺の硬さを店員さんに訊かれて戸惑ってしまった。
『え、ふ……』
『え? なんて?』
『その……』
『ふつうでお願いしますって! 私もふつうで!』
『あいよ!』
『あ……』
『ガタイ良いし声でかいし、びっくりするよね』
さすがに三回目ともなれば、今度こそ上手くできて。
先輩がよくできましたって、頭を撫でてくれて。
「……」
「お客さん、そこに立たれると他のお客さん困っちゃうから、好きな席に座って」
「は、はい」
そのラーメン屋には食券機がない。
そして傍には先輩もいない。
卒業して数年。先輩とはもうずっと会えていない。
今でも先輩は、ラーメンが好きだろうか。
席について、メニューから食べたいやつを選んで、
「す、すいません」
「あいよ! ご注文どうぞ!」
「醤油ラーメンを一つと、野菜餃子お願いします」
「餃子は五個と八個のがありますよ」
「じゃあ、八個で」
「あいよ!」
注文を終える。
緊張したけれど、どうにかできた。
あの頃は、先輩に助けてもらいながらしたんだよな、とか思い出す。
……もう、先輩に助けてもらえなくても、どうにか一人でやっていけるんだな。
「……すいません、追加いいですか?」
「どうぞ!」
「ビールもお願いします」
「あいよ!」
大人になってしまった僕は、今日も感じた悲しさを、淋しさを、お酒で流して忘れることにした。
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