君はボクのもの

君の笑顔が好きなんだ。

見てるだけでこっちも笑顔になる。

幸せを感じられる。


 君は真顔だ。

 裂けた口元は笑みに見えない。

 食べ物としてしかボクを見てない。


少しドジだよね。

それにお人好し。

怪我しようが、

酷いことを言われようが、

助けた相手が助かれば満足なんだ。

このヒーロー野郎め。


 左側は全滅だ。

 左目は抉り取られ、

 左腕は肘から先がないし、

 左脚は逆を向いてる。

 残った右側で、壁伝いにボクの元へ来る。


誰かを助けることばっかり。

ボクの気持ちに気付いてくれない。

告白したら付き合ってくれたけどさ、

本当にボクのこと好きなの? って、

いつも不安だった。


 一歩、二歩、三歩、四歩。

 君の右手がそろそろボクに触れる。

 ボクを突き飛ばしたのは左手だったね。

 そこに噛みつかれて、

 引き抜こうとしたら、

 そのまま千切れちゃった。

 返してほしいけど、もう無理だね。

 そうして君は感染した。


君は謝ってくれてた。

ボクの癇癪を許してくれた。

仕方ないよね、

困ってる人がいるんだもん。

助けなきゃいけないのに、

ボクに構って、ボクを説得して、

シェルターまで連れてきてくれて。

他人なんかどうでもいいから、

傍にいてよ。

ボクだけを守ってよ。

何でそんな顔するの?

絶対嫌だからね!

君は謝って、

謝って、

謝って、

謝って

ボクを突き飛ばして、

噛みつかれた。

すぐ傍まで来てたみたい。

そいつを殴り付けながら、

無理矢理引き抜いたら、

千切れちゃって。

固まった君の隙をついて、

無理矢理シェルターの中に入った。


 君の右手がボクの肩を掴む。

 そんな力強く掴んだことなかったね。

 いつもいつもボクからで、

 君は常に受け身だった。

 だから今ね、けっこう嬉しい。


今すぐ出してくれって泣き喚くから、

一人にしないでと泣き喚いた。

一緒に死んで。

一緒に死ぬから。

君の絶望した顔がすごく良かった。

笑った顔が好きだったはずなのに。

そんな顔もできるんだと、

抱きついたら突き飛ばされる。

そして君は出ていった。

しばらくぼんやりしてたけど、

また君の顔を見たかったから、

シェルターを出た。

もちろん、危ないから武器を忘れずに。

殴った。殴った。

殴って、殴った。

君を探した。

すごく探した。

見つけた時には、君はもうその状態。

笑顔を向けてくれない。

絶望した顔もしてない。

だけど、呼んだよね?

ボクの顔を見て、

ボクの名前を呼んだよね?

なんだ、けっこう君、

ボクのこと好きだったんだ。

──だからさ、いいよ。

ボクは武器を捨てた。


 君の口が、

 ボクの首に近付いていく。

 ボクは瞼を閉じていた。

 水滴が肩や胸元に垂れる。

 血かな?

 それとも雨?

 なんて思って開けて見たら、

 君が泣いていた。

 ……。


「いいんだよ、お食べ」


 がぶっと噛みつかれた。

 変な声出た。

 すごい痛い。

 それ以上にうるさい。

 腹くくってよ、もう。

 ぺしっと頭を叩いた。

 一口、二口、三口、四口。

 首どころか肩までいってる。

 ボクは泣きながら、

 笑いながら、


「たくさんお食べ、でも少しは残して」

「一緒に歩こう、一緒に食べよう」

「それで最期はさ、」

「── 一緒に殺されようよ」


 君に言ったらさ、

 何度も首を縦に振ってくれて。

 ボクは良かったと何度も言いながら、

 変わってしまうその瞬間まで、

 君の背中をとんとん叩いた。

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