本を売る


 三年くらい付き合ってた恋人と、色々あって別れることになり、部屋に帰ってきてすぐ思ったのは、次は本が好きじゃない人と付き合おう、だった。

 ここは私一人で住む部屋だというのに、元恋人が置いていった本がそこら中にいくつもある。


 付き合って三ヶ月目くらいからずっと買って来てた文芸雑誌。

 何故か二巻だけしかないライトノベル。

 一番下が一巻、一番上が最新刊と、少しあたっただけで崩れそうになるほど、不安定に積まれた十数冊の少年漫画。

 有名な文学賞をとったハードカバーの小説が至る所に放置。

 二人で見た映画の原作の文庫本は、二人で撮った写真の傍に綺麗に並べられている。


 私はあまり本は読まない人間で、それに別れた恋人に対しては今や嫌悪感しかなく、そんな奴がもたらした物が自分のテリトリーにあるのが許せない。

 捨てるにしても、けっこうな量がある為に、部屋とごみ捨て場の往復はかなりの重労働になるはずで。

 どうしたもんかと、現実逃避にスマホをいじっていたら……とあるネットニュースが目に入る。

 不安定に積まれた少年漫画、今の時期にどうやらアニメが放送されているそうで、けっこうな人気らしく、原作漫画が書店で売り切れ状態らしい。

 モザイクの掛けられた、書店の前で落ち込む子供の写真をしばらく見た後、部屋にある積まれた少年漫画を見た。


 私は本を読まない。漫画も読まない。正直部屋にあるのが邪魔で仕方ない。

 今の時期、読みたくても読めない漫画を求める子供がいる。


 需要と供給が合っているんじゃないか。

 ──私は本を売ることにした。

 スマホで出張買い取りしてくれる業者を探し、手続きを済ませ、家に来る日取りが決まれば、売る本をまとめに掛かる。

 丁度いくつか、親から送られてきた野菜の入ったダンボールを、捨て忘れて放置してたので、きれいに拭いてからそれらに入れる。

 三箱くらいで納まった。

 約束の日、時間ぴったりに来てくれた配送業者に箱を渡して、後は査定を待つばかり。

 一人きりの、すっきりした部屋を見渡してみたが、想像してたような気持ちにはならなかった。

 これで私だけの部屋になったと満足して良いはずなのに、部屋を見ていると、何かもの足りない気がしてならない。

 ……喪失感、なのか。

 もう一度やり直したいとか、それは絶対にないと断言できるけれど。


 ──今は私、一人になってしまったんだなって。


 本のない部屋で、膝から崩れ落ちてしまった。

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