第9話楽しい日々

 今日もまた三人プラス二人の保護者で遊んでいる。


「今日はこれを使って遊びます」

「丸い大きめの石に木剣に布これで何をする気だ」


 これを見て何するかわからないなんてこの世界は娯楽が遅れ過ぎですね。


「スイカ割りゲームをします!」

「スイカ?何処にスイカがあるんだ?」

「この石がスイカです」

「だったら石叩きゲームじゃないか!」

「スノウ君小さいこと気にするような子はモテませんよ」


 さあルール説明だ。

 まずその場で一回転し、約10メートル先に置いた石を目隠し状態で歩いて見事にぶっ叩いたら1ポインツ!

 しかしそれだけだと簡単すぎてしまう可能性があるので事前に俺の土魔法で歩くコース付近の地面状況を悪化させておく。

 そしてプレイヤーに対して二人の内一方が真実の指示を、もう一方は嘘の指示をする。

 最後の木剣を振り下ろすのは一回のみで、振り下ろすタイミングはプレイヤーの判断とする。

 ちなみに罰ゲームありだ。


「へえ面白そうだね。僕とマルコさんも入れてよ」

「いいですけど、師匠とマルコさんは指示なしの完全感覚でやってもらいますよ?」

「それでいいよ」

「我々レベルならその場で10回転して目を回してからやるべきです」

「マルコさん、余計なことを言うんじゃない」

「マルコさんの案に決定!」


 危ないところだった。この世界の剣士はチートみたいな強さだ。最初の条件だったら戦いにならなかったに違いない。

 ティモのことだ。簡単に勝利し、とんでもない罰ゲームを要求してきたはずだ。


「じゃあ、罰ゲームは優勝者の命令を最下位が聞くでどうだい?」

「ふん燃えるじゃないか」

「私が勝つよ」


 待て待ってくれ!なんでスノウとアンはやる気満々なんだ!この条件は危険だ。ティモが出す条件なんて飲んだら碌なことにならないはずだ。


「い、異議あり!」

「賛成多数によりアリアの異議を却下します」


 く、くそう!すでに賛成が三人でマルコさんを引き込んだとしても駄目じゃないか!

 こうしてヤバそうな条件のまま遊びが始まってしまった。




「僕からやらせてもらう」


 スノウが一番目にやることになった。

 指示役はマルコと俺。マルコは忠義に厚い騎士だ。よってマルコが真実を言っていると思うはず。

 でも残念でしたマルコは嘘つきでしたってパターンでスノウの失敗を誘う作戦だ。

 しかし想定とは裏腹にスノウはマルコの指示を一切聞かなかった。そして距離感もばっちり、見事に石を叩いた。


 スノウ1 アリア0 アン0 ティモ0 マルコ0


「ふっ」


 な、なんだあいつドヤ顔うざっ!

 スノウが自然に木剣を渡してきたため二番目は俺となった。

 指示役はアンとティモ。これはわかりやすい。絶対ティモが真実を言うパターンだ。俺は普段からアンを信用しているからな!

 しかし俺の予想は大外れ。アンが普通に真実を言っていたため見当違いのところを空振りした。

 目隠しを取った時、アンはとても悲しそうな表情をしていた。

 ああああああっ!!俺が間違っていた!無条件でアンを信じるべきだったんだ!

 ティモはそんな俺の絶望顔を見てほくそ笑んでいた。こいつマジで殴りたい。


 スノウ1 アリア0 アン0 ティモ0 マルコ0


 三番目アン。

 指示役はスノウと俺。アンはスノウより俺を信用してくれているはず。だからこそここは心を鬼にして騙させてもらう!

 ところがまたもや俺の予想はハズレ。アンは俺の指示を一切聞かず、見事に石を叩いた。

 ば、馬鹿な!なんでスノウを信用するんだ!

 俺はアンに信用されなかったことにより心に傷を負ってしまった。


 スノウ1 アリア0 アン1 ティモ0 マルコ0


 四番目ティモ、五番目マルコは危なげなく1回目をクリアした。


 スノウ1 アリア0 アン1 ティモ1 マルコ1


 不味い俺だけ0だ。なんとかしなければ。

 だがそんな思いとは裏腹に二巡目はアンを信用したら失敗。

 三巡目はマルコが真実を言っていたことは見抜けたけど距離感がなかったせいで石につまずきコケた。目隠しを取ると皆お腹を抱えて笑っていた。

 三巡目終了時点。


 スノウ1 アリア0 アン2 ティモ3 マルコ3


 四巡目五巡目、結果は言わなくてもわかるよな?だって三巡目で距離感なくてコケたんだぜ。ははっ!

 試合終了。


 スノウ2 アリア0 アン3 ティモ5 マルコ5


 なんなのこの世界の剣士!チーターじゃん!こんなん勝てんわ!

 俺は自分のセンスの無さからは目を背け、剣士がすごいってことにした。


「さて、僕とマルコさんの命令を聞いてもらおうか」

「ひぃぃぃ!ま、マルコさんは酷いことしないよね?」


 俺は出来る限り可愛い声を出し、涙目の上目遣いでマルコを見つめた。


「も、もちろんです!ではほっぺをつまむでどうでしょう」

「どうぞ!」


 ほっぺをつまむくらいで済ませてくれるとはマルコさん、あなたは紳士だ!さすがです騎士の鏡です!


「ふむ。ぷにぷにですね」


 しかも優しいソフトタッチ。母の乱暴さとは比べ物になりません。


「さあ、僕の番だ」

「うげっ」

「やっぱさ、全員に対してアリアが出来ることがいいと思うんだよ」

「お願いだから簡単なことで……」

「仕方ないね簡単なことにしてあげるよ。命令内容は……皆のほっぺにチューだ!」

「何を言い出すんだあんたは!?」

「おやおやお嬢様がそんな口調良くないな。エトーレさんに怒られるよ」

「うぐっ」


 嫁入り前の娘になんてことをさせようとしてんだこのおっさんは!いや待て俺は嫁に行くつもりはないんだかんな!

 と、とにかくだ、簡単ちゃ簡単だがいくら頬とはいえ男にキッスだとぉ……。

 くそ、皆の視線が痛い!キース、キースっていう煽りを無言で受けている気分だ。うぬぬ。

 えええい!女は度胸という言葉がある。やるしかない!


「マルコさん。頬を出すのです」

「え?私が一番目ですか!?」

「はい。さっき優しくしてもらいましたから、一番です」

「きょ、恐縮です」


 その後、二番目にアン、三番目にスノウの頬にキスをした。

 最後はさあ、はやくしたまえと言わんばかりな構えで自ら作り出した石製の椅子に座って待つティモである。

 こいつにキスするのだけは癪だ。そうだいいことを思いついたぞ。


「べろんっ。お前にくれてやるキスはねえ!」


 キマった!

 俺はキスをせず、代わりにティモの頬を舐めて唾液でベトベトにしてやった。

 む。皆時が止まったようにシンっとしている。なんだか滑った芸人みたいなことになってしまった。ちょっと恥ずかしい。


「アリア」

「はいなんでしょう」

「ここに座りなさい」


 その後俺は四人に説教されてしまった。どうやら舐めるのはかなりはしたない事らしい。

 きったね何しやがる!って反応が来ると思ってやったんだが失敗失敗。




 ―――




「ふんふん♪」


 今日は勉強はお休みの日。そして今日は邸にいるのはミュリンとトニのみ。

 なので皆には内緒で何か美味しいもの作ってとトニにねだってみたところ、はちみつかけアップルパイを作ってもらえることになったのだ。

 この世界では前の世界に比べてどうしても食生活の質が落ちる。前の世界の人からしたらたかがアップルパイだろうが、こっちでは甘いものはご馳走なのだ。鼻歌歌っちゃうくらいに。

 好きなものを好きな時に食べられるというのがどれだけ幸せなことだったのか、こっちにきて実感したよ。

 さて、出来たてアップルパイをいただこうじゃないか。


「いただきまーす。むふ、おいひぃ」


 俺が二口目のアップルパイにかぶりつこうとした時、開いていた部屋の扉のとこにスノウが立っていた。その後ろにはアンとマルコもいる。

 ノックもせずに部屋に入ってくるとは教育のなっていない王子様だ。

 だがまずい見られてしまった。このアップルパイは内緒なのだ。どうしよう。


「いつからうちにいたの?」

「アリアが鼻歌歌ってご機嫌で歩いているのを後ろから皆で眺めていたよ」

「なんで声かけてくれないの!?」


 めちゃ恥ずかしいところを見られてしまった……。


「それにしてもご両親がいない時にいいもの食べてるじゃないか」

「お願いします内緒にしてください」


 スノウに下手に出るのは癪だけど今は非常時だ仕方ない。

 もしバラされたらトニと見て見ぬ振りしてるミュリンまで怒られてしまうだろう。そしたらもう秘密のおやつを作ってもらえなくなるかもしれないんだ。


「うーんどうしようかなー、そうだ!僕は一回お泊り会ってやつをしてみたいんだよなー」

「お、お前!また襲う気か!?」

「馬鹿!そんなことしない!アンもそんな目で僕を見るな!アンも一緒に三人でだ!アンどうだ?」

「なら別に私は構わないけど……」


 く、こいつこの歳で女二人を左右の腕に抱こうとするとはなんてけしからん奴だ!

 だが今の俺に拒否権はない。せめてアンは守ってあげないといけない。寝る時は俺が真ん中だ。

 こうしてうちでお泊り会をすることになった。




 今三人は俺を真ん中に右にスノウ左にアンという感じでベッドの中にいる。

 普段俺が一人で寝ているベッドなので三人で寝るのはかなり狭いのだが、現在ぎゅうぎゅう詰めにはなっていない。何故か二人共背を向けてベッドの端っこに陣取っているためだ。


「そんな端っこじゃ落ちちゃうよ」

「うん……」


 とりあえず俺はアンを少し引き寄せた。しかし相変わらずこっちには向かない。この恥ずかしがり屋さんめ!ういやつよのぉ。


「スノウもちょっとこっちに来な。落ちるよ」

「ああ……」


 スノウは生返事をしたまま動こうとしない。


「もしかして恥ずかしいの?」

「くっ。そのとおりだ。これは思ったよりヤバい。それに僕には前科がある。あまりくっつくのは良くないと思う」


 本当に真面目になったなこいつ。今のスノウなら俺の身体にイタズラはしないだろう。そう思った俺は右腕で無理やりスノウを引き寄せた。


「うお何をする!」

「王子様をベッドから蹴り落としたりしたら打首になっちゃうだろ。だからほらちこうよれ。アンもほら」

「「…………」」


 俺は両腕で二人を抱きかかえた。

 ああ、なんかこれいいかもしれない。ハーレム作る人の気持ちがわかる気がする。

 欲を言えば俺が男でスノウが女の子だったらよかったな、そんなことを思って眠りについた。


 翌朝、腕枕をしていた両腕が痺れていたのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る