間話 ラウル
俺の名前はラウル。
元ヴァルハート家という男爵家の次男だった男だ。現在は家を飛び出し冒険者をやっている。
なんで貴族を辞めて冒険者なんかやってるかって?
それは爺が人生が退屈だと感じたら冒険者にでもなれと言ったことが原因だ。
子供の頃の俺は貴族教育ってやつが大嫌いだった。つまらない。ただその一言に尽きる。
そんな俺の唯一の楽しみは妹のリリアンヌをからかうことだ。
リリは天賦の才能を持っていたためからかうのは命がけだった。一歩間違えば殴られて歯抜けの間抜け面になりかねない。
しかしそのスリルが面白い。
貴族教育でたまったストレスをリリで発散する日々は貴族学園に入学する12歳まで続いた。
学園に入ってからは退屈で気疲れする日々だった。
お行儀のいいやつ、腹に一物抱えたやつそんなのばかり。
皆が皆そうじゃないってのはわかってる。でも俺にはあまり人を見る目がなかったので判断がつかなかった。
また自分で言うのもなんだが容姿が良かったため、顔に惹かれた女が言い寄って来るのも気疲れの原因となった。
俺も男だ。可愛い娘が言い寄ってきた時は心が揺れた。
だが一度手を出したら最後。その後どんな嫌な女だったとしても責任を取らなくちゃいけなくなる。貴族ってのはそういうものだ。
そんな面倒なことになってたまるか。そう思い鋼の精神で誘惑に耐えた。
すべてが面倒になったので俺はボッチになることを選んだ。
そんな退屈ではあるが平和なボッチ生活はたった一年で終了した。妹のリリが入学してきたことによって。
こう言うとリリが騒動の原因に聞こえるが、実際のところ被害者である。
加害者は我が国の第一王子で、俺と同学年だったエデル・アレクサンダー・レジス。
エデルはリリに一目惚れしたのだ。そしてあろうことかその場で抱きついた。
当然のごとくリリはエデルをぶん殴った。リリには自国の王子だから殴らないなんて選択肢はないんだ。
普通であれば打首になる可能性すらある蛮行だ。しかし逆にエデルは更に惚れ込んだ。
それからというもの俺は強制的にエデルとつるむことになった。
始めのうちはリリの好みだとかを答えるだけだったのでそこまで面倒ではなかった。
だがリリの入学後一ヶ月くらいが過ぎた時、事態がややこしくなった。
なんとリリが別の男に惚れてしまったのだ。
リリはその性格上相談できる友達がいなかった。当然のごとく俺に相談してきた。
ヒューグレイ・フォックス。ステイル王国の伯爵家六男。
性格は温厚で女みたいな容姿をしているやつだった。
リリに頼み込まれた俺はヒューグレイとその親友ダレンともつるまないといけなくなった。
「くそっ!なんで俺がコウモリみたいなことをしなくちゃいけないんだ」
そんな独り言を呟きつつも内心面白がっている自分がいた。
しばらくして俺の中で図式が出来上がった。
エデル → リリアンヌ → ヒューグレイ → ダレン → エレーナ
好 き 好 き 応 援 好 き
こういう場合はまずダレンの恋愛から解決すべきだろうかと頭を悩ませているとリリが落ち込んだ様子で俺の部屋に突撃してきた。
何をどう解釈したか不明だが、リリはグレイがエレーナを好きだと勘違いしてしまったようだ。
このときのリリは落ち込むを通り越して半泣きだった。
俺は衝撃を受けた。だってあの暴力女が乙女の顔をしていたんだから。
とりあえず俺は事情を説明しグレイに好きな女はいないと理解させた。
「そうだったんだ。わかった。ありがとうお兄ちゃん」
するとリリは素直にお礼を言って立ち去っていった。
俺は二度目の衝撃を受けた。だって間近で恋は人を変えるってのを目撃したのだから。
その後ダレンとエレーナが婚約することになったことを除いて、大きな変化はなく時は流れた。
俺みたいに恋愛経験の無いやつが他人の恋をコントロール出来るはずがないんだ。
大きな変化があったのは俺が第五学年の時だった。
「最近君の妹さんが可愛くて仕方がないんだ」
グレイが突如そんなことを言い出した。
ついにリリとグレイが両思いでこの恋愛戦争は終戦かと思ったが、グレイはリリに告白するつもりはないらしい。
なぜならエデルがリリに惚れいるのは周知の事実であり、グレイには王子と女の取り合いをするような度胸はなかったのだ。
二人が両思いになったのなら、エデルに身を引いてもらうのが一番いい。王子と男爵家令嬢じゃ家格があまりも釣り合わないしな。
しかし兄として貧弱な上に度胸もないような男に妹をくれてやるわけにはいかない。
頼りにならない六男坊と結婚するより、リリが望まずともエデルと強制的に結婚させたほうがいい。たとえ愛人扱いの第二王女だとしてもだ。
なのでグレイにはリリはお前のことが好きだから覚悟ができたらプロポーズしろとだけ伝えた。
これ以降俺も勉強が忙しかったこともあり、グレイとは疎遠になってしまった。
結局エデルはリリを振り向かせることが出来ず、グレイは告白する覚悟が出来ないまま卒業式になってしまった。
式典が終わるとリリが行動に移した。
「ヒュー!私に言い忘れてることがあるわよ!」
「……」
困った顔で押し黙るグレイをリリは押し倒し、無理やりキスをした。
「責任取ってくれるわよね?」
場は静寂に包まれた。だって自分から押し倒しキスしておいて責任取れって……。
やってることが極悪商人の押しつけ商法みたいなもんだ。わざと商品を客が壊すように誘導して買わせるってあれだ。
リリがやってることはそれ以上に酷い。商品を投げつけて、お前が壊した責任とって買い取れと言ってるようなものだ。
だがここまでされてようやくグレイの覚悟は決まったらしい。
「……好きです。僕と結婚してください」
グレイがプロポーズの言葉と共に今度は自分からキスをした瞬間、場は歓声に包まれた。
リリは自分が望むものを掴み取ったのだ。やり方は強引でむちゃくちゃなもんだった。
だが素直に凄いなと思った。そして羨ましいと。
そして思った。このまま用意された道を歩んでいいんだろうか。兄貴のスペアとして生きていくことで楽しいと思える日がくるのだろうか。
いいやおそらくこないだろう。
俺は面倒事を避けていた。面倒事こそが人生を面白くするためのスパイスだというのに。
こんなことなら好みの女が言い寄ってきた時に面倒だと思わずに遊んでみるのも一興だった。だが今更気づいて後悔しても遅い。
この時俺は爺に言われた言葉を思い出した。
俺は面白いことを求めておきながらいざとなると咄嗟に避けちまう人間だ。
そんな俺でも面白いことにありつくにはどうすればいいか。
避けられない面倒事が襲いかかってくる職につけばいい。
思い立ったら即行動がうちの血筋の悪いとこであり良い所だ。
俺は倒れているグレイを無理やり起こすと、いくら伯爵家でもどうせ六男じゃまともな領地もらえないだろ?と言ってヴァルリの市長は任せたと押し付けた。
グレイにとっては六男なんて立場は災難だっただろうが、押し付けることが出来た俺にとってはラッキーなことだった。
そして急いで実家に戻り冒険者になると伝えると、当分の資金を渡された。
爺が俺のために金を用意してくれていたらしい。
爺は見抜いていたんだ。こいつは貴族として生きていけねえって。
婆さんが亡くなった後どこぞに旅立ってしまった爺に心の中でお礼を言うと、親父に進められた通りまず竜人大陸で修行することにした。
三年きつい修行に耐え21歳のオールドルーキーとして冒険者人生を歩み始めた。
一年はあっという間に過ぎた。自分より年下にいろいろと教えてもらったり助けられたりすることが多く自信を失う日々だった。
そして俺は現在森で迷子中だ。普通のやつなら迷子になんかなったら焦るだろう。
でも俺は知っている。こういうトラブルがあったときこそ面白いものと出会うチャンスだということを。
さーてこの先でどんな面白いことが襲いかかってくるだろうか。楽しみだな。
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