第35話得意技はお手です

 ウルマの町を旅立って約一ヶ月。私達はいくつかの町を経由しノヘナの町へとたどり着いた。

 この旅は実に順調だった。なぜかって?私が運ばれることがなかったからだ。

 いやー感動したよ。今日はここで野営だって言われてもまだ歩けるよ?って感じなんだもん。

 四年前、野営する数時間前からリオンに運ばれるって状態だったのが懐かしいよ。


 旅が快適だった理由はもう一つ。リサ姉の存在だ。

 一時期父さんを落とすために料理スキルを上げた彼女は料理上手である。

 この四年間食べ慣れたものだけど、やっぱり彼女の料理は美味しい。

 三人で旅していた時は食べられればいいんだよって感じだったからね。食の質が雲泥の差だよ。


 私もここ一年体力の余裕が出来たから料理の練習はした。

 でもさ、ちょっと才能ないみたいです。

 リサ姉と同じように作ってるのに旨味がなくなるんだよ。味がそっけないっていうかさ。

 私は作る側じゃなくて食べる側にしかなれないみたいですね。はぁリサ姉が嫁にほしい。


 そんなわけでこの旅で私がしたのは四年前と同じで、火・水・調理器具食器の作成・寝床となる小屋の建築くらいだ。

 一応狩りを手伝おうとして小型の鳥の魔物に魔法放ったら食べられる部位が消し飛びましたよ。てへへ。




「アリア、手」


 ノヘナの町の入り口でリオンが手を差し出してくる。私は反射的にその手を取った。

 いやこれ調教されたわけじゃないから!お手じゃないから!

 これは私に男が近づいてこないようにリオンとカップルを装っているんだ。


 実はノヘナに着く前に寄った町でとあることがあったんだ。

 成長して大人の身体になった私は男性からすると、とてつもなく良い香りがするらしい。そして目を見ると撫でたい抱きしめたいという衝動に襲われるようだ。

 そのせいで男が少しでいいから撫でさせてくれ!とか、ハグさせてくれ!みたいなことを言ってくることがあった。

 中にはいきなり抱きついてきた奴もいた。そいつはリオンが昏倒させた。


 私は頭を撫でられるのもハグも嫌いじゃない。

 でも触れると父さんみたいに我慢できなくなって襲いかかってくるのがわかっているため、当然断っていた。けどしつこい男もいる。

 なので最初から私には男がいるよというアピールをしてるわけだ。


 リオンという彼氏(仮)がいるとはいえ、私から漂う香りと目の能力?は消すことは出来ない。

 そのため、とりあえずは町ではなるべくフードを目深に被って歩くことになった。

 だから手を繋いでもらわないと転んだりぶつかったりしちゃう。

 この2つの理由から手を繋がざるをえないんだ。決して私は従順なメス犬ってわけじゃないんだ。


「またせたな」


 リオンと手を繋いで道の端で待っていると、道中で得た素材を換金してきた父さんとリサ姉が戻ってきた。




 宿を決めた私達は早速今後のことについて会議を始めた。


「当初の予定通り魔物討伐などの素材収集で金を稼ぐつもりだ。しかしこれを行うにあたって一つだけ問題がある」

「問題?」


 現在私達のパーティーは脳筋パーティーだ。

 攻撃力全振り防御力知識0の私を筆頭に、全員戦闘要員ばかりでサポーターがいないというのが問題らしい。

 確かに知識がある戦闘以外の補助が出来る人がいないと、貴重な植物や鉱石などのアイテムがあっても見逃してしまうかもしれないし、大物の魔物を倒してもどうやって持って帰るのってことになる。


「なのでまずこの町で女のサポーターを探そう」

「女……」

「ラウル?」

「待て待て!アリアことを考えてのことだ!男をパーティーに入れたら面倒なことになるだろ!」

「そうだったわね」


 私のせいでパーティー編成の自由度が狭まる。申し訳ない気持ちになった。


「それでパーティーメンバーってどこで誘うの?」

「冒険者ギルド横の酒場だな」


 仲間を探したい場合、冒険者ギルドの右手側の酒場では戦闘要員が集まり、左手側の酒場ではサポーターが集まるという冒険者特有のローカルルールがあるらしい。

 私達の場合はサポーターを探すので左手側の酒場に行くことになる。


「そういえば私ギルドに登録とかしてないよ」

「リオンのことを登録してあるからお前は登録する必要ないだろ。昔目立ちたくないって自分で言ってたじゃないか」

「うーそうだけどさー。気分的にさー」

「ギルドカードがほしいなら普段は俺のカードを自分の物として持っていていいよ」

「いいの?」

「もちろん。ギルドに持っていかないといけないときだけは返してもらうけどね」

「わかった。ありがとう」


 ふーん、これがギルドカードか。写真のない免許証って感じだ。

 ランクはFと書いてある。Fからスタートみたいだ。

 それと生まれ年は書いてあるけど誕生日は不明ってなってる。結構適当でもいいんだなぁ。


「このランクが低いと受けられない仕事とかってあるの?」

「基本的にはないぞ。ランクはあくまで魔物なら危険度、冒険者なら信頼度や強さを表してるだけだからな」


 このランクシステムは新人で右も左も分からないような人にこの仕事は危険だとか、この魔物は強いってわかりやすく教えるためのシステムってことかな?


「じゃあ別に高ランクになる必要はないの?」

「低ランクだと傭兵の仕事とかには影響がでかいな。Fランカーに高い金払うやつなんかいない。一応高ランクになれば冒険者ギルドが出資している施設も割引になるが雀の涙だな」

「割引ってどのくらい?」

「Aランクになれば5%、Sランクで10%だった気がする」

「10%!?大きいよそれ!全然雀の涙じゃない!そんな事言ってるから散財しちゃうんだよ!」

「細かいやつだな。普通は気にならないよな?」

「アリアが言うならそれは大きな差のはずよ。だってアリアがお買い物についてくるようになってから出費が減ったもの」

「父さんは貴族教育受けてるんだからしっかりしてよ!リサ姉がお金に困るようなことがあれば花嫁泥棒しちゃうよ?」

「今後気をつけるから俺の嫁を奪うんじゃない」


 まったく、子供がほしいならお金の管理はちゃんとしてもらいたいものですね。


「リオン。10%の恩恵を受けるために頑張ろう!」

「アリアが望むならSランク目指して頑張るよ」


 こうして頑張ってランク上げをすることとなった。


「ところでどうやったらランクって上がるの?」

「ギルドの依頼を受けてちゃんと成功するか、取ってきた素材をギルドに納品すればいい。でもそうするとギルドが間に入った分買取金額は下がるな」


 あーなるほど。高ランクで割引があるのはそれだけギルドに貢献したからってことか。

 目先の利益を取るか、長期的なことを考えてギルドといい関係を築くかの選択ってとこだね。

 私はギルドと仲良くすることを選ぼう。やっぱ大きな組織とは仲良くしておいたほうが良いと思うし。

 そして何よりランク上がれば達成感があるしね。


 会議が終わり、リサ姉と父さんは部屋から出ていこうとする。


「ねえ。たまにはリサ姉貸してよ」

「アリアって本当にハグジャンキーよね。ちょっと気持ち悪いわよ」

「そんな事言わないでよ。ねえ父さんお願い、リサ姉頂戴」

「貸してから頂戴に変わってる……。身の危険を感じるわ」

「駄目だ。リサは俺のだ。お前にはリオンがいるだろ。ほらお前が浮気しようとするから少し寂しそうだぞ」

「いやそんなことは……」

「あ、ごめん。リオンが嫌ってわけじゃないんだよ。ただたまには女性特有の柔らかさを味わいたいなってだけなんだよ」

「お前の言いたいことはわかる。リサの抱き心地は良いからな。じゃあ明日サポーターを誘う時はお前が抱きつきたい娘選んでいいぞ」

「本当!?ありがとう!」


 やったー!今から超楽しみだ!

 うへへへっへごほっごほっ!ちょい興奮してむせちゃった。


「でも無理強いはするなよ。同性に抱きつかれるの嫌なやつもいるだろうからな」


 父さんが何かを言っていた気がしたが興奮していた私には聞こえなかった。

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