第36話酒場でナンパ
翌日の朝、予定通り酒場へと向かった。
冒険者ギルド横の酒場はパーティーを組むことに重きを置いたギルド直営店である。
そのため営業時間は早朝から夕方までと、酒場というよりカフェという感じにっている。
店の中に入ると朝だと言うのに多くの人がいた。
誘われ待ちで一人でいる人、すでに誘われて交渉中の人、誰を誘おうかとウロウロしている人、沢山の人がいるので男とぶつからないように注意しないといけない。
私達は四人で店の端に移動し、誘う権限をもらった私は誘われ待ちと思われる人達を眺めた。
「ねえ父さん」
「なんだ?」
「若い子居なくない?」
「サポーターは知識と経験が必要だし、怪我が原因で戦闘員から転向したやつも多いから若い娘は少ないな」
騙したなこんにゃろう!抱きつきたいと思える娘なんて見当たらないじゃんか!
ほとんどが経験豊富そうなおじさんかおばさんだ。
中にはリサ姉くらいの年齢の女性もいるけど、なんのサポートをするんですかね?って思ってしまうような格好をしたグラマーな女性だ。
腹が立ったので父さんの足を踏みつけようとした。しかし私の攻撃速度ではかわされてしまった。うぐぐ!
「怒るなよ。ほらあそこに一人だけいるぞ」
「おおっ?」
父さんが指差した先には18歳前後と思われる紫色の瞳をしたジト目が特徴の竜人娘がいた。体格は竜人族にしては小柄で髪型はローポニーテール。
彼女は他の冒険者とは違い本を読んでいる。努力家の娘みたいだ。
このまま立っていても仕方がないので早速声をかけてみることにした。
「こんにちは。ちょっといいかな?」
私が声をかけると竜娘は本を閉じて立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
「こんにちは。声をかけてくれてありがとうございます。どうぞ」
許可を得たので私は竜娘に抱きついた。
「わっ!なんなんですか貴方は!」
「え?だってどうぞって」
「隣の席へどうぞって意味で言ったんです!抱きついていいとなんて言ってません!」
「まあまあ細かいことは気にしないで良いじゃない」
「…………」
「その、すまんなうちの娘が」
「貴方の娘さんなんですか?もう少し一般常識を教えてあげてください。初対面で抱きつくなんて自由奔放に育て過ぎです」
久しぶりの女の子とのハグは最高だ。
リサ姉ほど鍛えていないせいか筋肉によるハリは無いけど、基礎訓練はしてあるのだろう。程よい柔らかさ。
柔らかさと硬さのバランスが良く、今まで抱きしめてきた中でもトップクラスの抱き心地だ。
胸がもう少しあれば100点満点の抱き心地だっただろうに、惜しい人材だ。とは言えこの娘以上の娘はそうそういないはずだ。
「決めた!この娘にする!」
「何が決めた!ですか!私はペットじゃありませんよ!」
「娘が失礼をして本当に申し訳ない。話だけでも聞いてもらえないか?」
「くっ。仕方ありませんね。せっかくお誘い頂いたんです。話だけは聞きますよ」
どうやら話は聞いてくれるようだ。
私達は落ち着いて話をするべく、酒場から出て他の料理店へと移動することにした。
料理店で席に通された私達は軽い自己紹介をした。
竜娘の名前はヴィナティラ・アークストン。17歳。
彼女は武芸に秀でた家に生まれた。しかし兄妹の中で彼女だけ戦いの才能がなかったらしい。そのためサポーターの道を選んだとのことだ。
「なるほど。あなた方は家族パーティーなんですね。内輪揉めになる可能性が低いのは良いですね。お金で揉めたくはないですし」
ラウルとリサが夫婦。
私はラウルが若気の至りで作った子でリサとは血の繋がりはない。
リオンは剣の才能を見抜いたラウルが拾ったという設定になった。
「それにまだ若いのにカナバルでトップクラスの実力者にそれを育てた男、その男より強い妻と戦力も申し分ない。とてもいいお誘いだと思いますが……」
何故だろうかヴィーが私を睨んでくる。いや元々そういう目つきなだけだった。
「アリア、そろそろ抱きついて頬ずりするのをやめてください」
「えぇーいいじゃん料理来るまでは。ああ、ヴィーの抱き心地は最高だよ。おまけに可愛いし」
「私が可愛い?アリアの目は腐っているんですか?」
「ヴィーは可愛いよ。特にそのジト目がプリティ」
「この目つきが可愛いとか貴方の感性はイカれてますね」
「もうなんで卑屈なこと言うの?可愛いよ。皆も可愛いと思うでしょ?」
「はっきり言って私はヴィーちゃんの目つきは悪いと思うわ」
「俺もそう思う。ごめん」
「えー、リサ姉もリオンも酷いよ!父さんはそんな風に思わないよね?」
「そんなに気にならんな」
「そうですか?やはり人族からすると私の目つきは気にならないのでしょうか……」
「やはり?」
「あ、こちらの話です」
ヴィーは目つきで悩んでいるらしい。
竜人族のリサ姉があんなふうに言ってるし、目つきのせいでパーティーに誘ってもらえなかったり断られたりってのがあったのかもしれない。
「というかアリアは魔法使いとのことですけど、魔法使いって役に立つんですか?」
「酷いな!確かに私はこの中じゃ一番役立たずだけど、火力だけは高いんだからね!」
「うーん。魔法を見たことがないのでそんな事言われても信用できないと言うか。はっきり言ってアリアは人族のか弱い娘にしか見えません」
竜人は種族柄魔法使いになろうとする者はほぼ居ないということもあり、魔法使いを舐めているようだ。この脳筋種族め!
「なら魔法見せてあげるよ!」
私の実力を疑うヴィーを納得させるために食事を済ませた私達は町の外に出た。
町を出てすぐ、私は10メートルほどの手頃な木を見つけたのでこれを凍らせることにした。
「じゃやるよ。アイシクルフローズン!」
「!?」
イメージしやすいように自分で考えた呪文を気合を入れて唱えると木は秒速で氷漬けになった。
空気を含まない透明な氷の中に何かが閉じ込められているというのは結構芸術的である。
「そしてフレイムフラッド!」
私は自ら氷漬けにした木の氷を今度は炎の魔法ですべて溶かした。
すると溶けた氷でびしょ濡れになった木が突如動き出した。
木の魔物は5メートル前後のものが多いので普通の木だと思っていたけど、凍らせた木は魔物だったようだ。
木の魔物は、『ふぁ!?何が起きたんや!と、とにかく逃げるで!』といった感じで大量の根っこをワシャワシャと動かし立ち去っていった。
ムカデみたいで気持ち悪い。
「馬鹿野郎!リオンそいつを担げ!すぐにここから立ち去るぞ!」
「了解」
「うわあっ!」
「ヴィーちゃんも早く行くわよ」
「あ、はい」
皆で大慌てで町の宿に戻ると私は父さんに説教された。
「お前な、目立ちたくないんじゃなかったのか?なんであんな目立つことするんだ」
「ごめん。ヴィーに派手な魔法見せて驚かせたくてさ」
「はぁ……まあいい。ヴィナティラ、これでこいつが役に立たないわけじゃないってことはわかってもらえたか?」
「はい。十分にわかりました。アリア、バカにしてごめんなさい。だから気に入らないことがあっても私に魔法打たないでくださいね」
むむむ?カリムみたいに私の魔法にビビっちゃったのかな?これはチャンスでは。
「えーどうしようかなー」
「ちょ、本当に死んじゃいますからやめてくださいよ?」
「んーお願い事聞いてくれたら約束するよ!」
「な、なんでしょう?」
「今日から私と一緒に寝て」
「そ、それって性的なサービスをしろってことですか?アリアってそっちのけが……」
「違うよ!単純にヴィーをハグして寝たいんだよ!エッチなことなんてしないよ!」
「それならいいですけど本当にお嫁にいけなくなるようなことはしないでくださいね」
「しないしない。大事な抱き枕を酷い扱いするわけないでしょ!」
「うぅ、不安です」
まだ寝るには早い時間なので、今度はヴィーが荷運び用に飼っているという駄獣を見せてもらう事となった。
「この子です」
ヴィーがポンポンと叩いた動物はコブのないラクダみたいな動物だった。
コブなしラクダは私と目が会った時ニヤッとした気がした。なんか悪寒を覚える嫌な笑顔だ。
近づきたくはないと思いつつもこれから一緒に旅する仲間だ。とりあえず挨拶しとこうと思い傍まで行くといきなりスカートの中に顔を突っ込まれた。
「こいつなにするんだ!」
私は思い切り頭をぶっ叩いたが全く顔をスカートから出そうとしない。挙句の果てには舐めてきた。
「ひゃあっ!こいつパンツ舐めた!」
「こ、こらっやめなさい!」
ヴィーが頭を叩くとコブなしラクダは素直に指示に従った。
「ううぅ汚された……もうお嫁にいけない」
「す、すみません。まさかうちのラマがこんなことをするとは」
「アリアって動物に好かれやすいからじゃないかしら。たまに猫に擦り寄られてる時もあるし」
「猫は良いけどあんなエロ顔のやつに好かれたくないよ」
あのコブなしラクダは絶対前世ハゲデブエロオヤジだ!
転生したら駄獣のラクダでした。唯一の楽しみは可愛い女の子のスカートの中に顔を突っ込むことです。とか思っていても不思議じゃない。
うー、これじゃ旅の最中いつセクハラされるかわかったもんじゃない。
嫌だな。あいつと旅したくないよ。でもいなきゃいないで不便なんだろうし、はぁ……。
「本当に申し訳ないです。どうすれば許してもらえますか?」
「パーティー組んでる間はいついかなる時も一緒に寝てくれれば許す。じゃなきゃ許さない」
「わ、わかりました。わかりましたから泣かないでください」
「泣いてないよ……」
はあ、早く帰ってパンツ交換したい。
荷運び用の駄獣との顔合わせは最悪なものとなった。
寝る時間になった。
今日はコブなしラクダのラマに舐められるという嫌なことがあったので早くヴィーを抱いて幸せな夢の世界に旅立ちたい。
「さあ、約束通り早く我が布団の中に入ってきなさい」
「あの、その前に聞きたいことがあるんですけど」
「何?」
「何故リオン君がいるんですか?」
「何故っていつも一緒に寝てるからだよ」
「ええ!?い、いや町で仲良く手を繋いでましたしそういう関係なのかなとは思ってましたが、なら何故私がそこに加わらないといけないんですか!?」
「勘違いしないでよ!私とリオンは一緒に寝るだけの関係だよ!」
「体だけの関係ってことですか!?私より年下なのになんて淫らな……」
「ああんもう面倒くさいな!グダグダ言ってないでさっさと私に抱かれればいいんだ!」
「ちょ、まだ心の準備が!というかやっぱり愛し合う二人の間に入りたくないです!」
「……ねえ約束破るの?もし破るならあのラマを焼きラマにするからね」
「え?それはやめてください!彼は高かったんです!まだ元が取れてません!」
「だったら従えー!」
私は嫌がるヴィーを無理やりベッドに押し倒し欲望のままに抱きついた。
そしてリオンのことを手招きし、いつも通り後ろから抱きしめてもらったことで四年ぶりの幸せサンドが完成した。
はうぅ!これだよこれ!最高だ!
だけどまだだ!さらなる幸福を味わうために出来ることがある!
「ヴィーこっち向いて」
「そんな……こうしてるだけでも恥ずかしのに。拒否権は」
「ない」
「うぅ、私はこのまま流されて大人の階段を登ってしまうのでしょうか」
「だからエッチなことはしないって言ってるでしょ!」
嫌々ながらもこちらを向いたヴィーに私は命令した。
「ヴィーはリオンの肩を抱いて、リオンはヴィーの肩を」
「い、いくらアリアが間にいるからって男の子の肩を抱くだなんて!私まだ男の子と手を繋いだことすらないんですよ!」
「ごめんヴィナティラさん。恥ずかしいだろうけど我慢して。たぶんそのうち慣れる……」
リオンに諭されたヴィーは顔を真赤にしながらもリオンの肩付近に手をおいた。
「じゃあせーので私を押しつぶすようにギュッとして」
「わかった。ヴィナティラさん準備いい?」
「はひっ」
「せーのっ」
「はにゃあぁぁぁ」
二人が軽く力を入れてギュッとした瞬間に今日あった嫌なことはすべて吹き飛んだ。
それどことかこの瞬間だけは人生であった嫌なことがすべて吹き飛んだ。私の脳内は幸せ100%になったのだ。
あぁ神よ。天国はここにあったのですね。
こんな幸せを味わえる日が来るなんて……。生きててよかった!そしてこの幸せがしばらく続くなんて最高だ!
私は極上の幸福を味わいながら夢の世界に旅立ったのだった。
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