第34話姉さんがママになりました
翌日の早朝、見た目が5歳くらい若返ったリサ姉と5歳くらい老けた父さんが帰宅した。
そしてリサ姉は開口一番とんでもないことを言い放った。
「リオン君に聞きたいことあるんだけど」
「なんですか?リサさん」
「昨日アリアとやっちゃった?」
「リサ姉!?」
自分たちがそういうことをしてきたからって私達まで巻き込まないでほしいんだけど!
「だってアリアってハグを餌にすれば何でも言うことを聞くでしょ?」
「確かに昨日、胸を揉んでいいから私のことをハグして寝てって言われました」
「ほら見なさい。アリアはハグを餌にすればなんだって言うこと聞く従順なメス犬なんだから、そういうことを勘ぐっても仕方ないでしょ」
「リサ姉!?そんな風に思っていたの!?酷いよ!私はメス犬じゃない!」
「どれだけ辛いトレーニングを課しても夜抱きしめてあげるだけで、リサ姉しゅきーって機嫌良くなる娘が何を言ってるのよ」
「ふぬぬぬぬ!」
「更に言うと強くハグすれば苦しいけど気持ちいいとか言うし、最近は自分の胸を揉んでニヤニヤしてるし、貴方はドM変態娘よ!」
「!?」
そんな恥ずかしい性癖のことまで言う必要ないのに!
こうなったらリサ姉の恥ずかしいことも言ってやる!
「リサ姉だって私が抱きしめた時寝ぼけて、えへへラウルぅとか言ってたくせに!」
あの時は寝ぼけたリサ姉がものすごい力で抱きしめてきたんだよね。さすがの私も圧死するかと思ったよ。
「なっ!そんなこと言ってないわよ!」
「ほう……リサがそんなことを」
「ほら認めちまいなよリサ姉。そうすれば楽になるし父さんも喜ぶよ」
「…………。そうよ。私は夢の中でもラウルとイチャイチャしてたわよ!でもそれのなにが悪いの?私達夫婦なんだから別に良いじゃない!」
「ああん。照れてるリサ姉も可愛いなぁ」
ちょっと拗ねてしまったリサ姉に私は抱きついて頬ずりをした。
それにしてもサラリと夫婦って言いましたよこの人。今度からママって呼ぶべきかな?
でも今更呼び方変える必要ないか。リサ姉はリサ姉だ。
「アリア、初めにお前に言わないといけないことがある」
リオンと私で用意しておいた料理で朝食を済ませると、父さんが神妙な面持ちで話を切り出した。
なんだろうと思っていると父さんはその場で土下座した。
「ちょ!なにしてるの!?昨日のことなら気にしてないから頭を上げてよ!」
「昨日のことじゃない。……俺はお前を引き取るとき理由を聞かれてわからないと言った。でも本当はお前の聖女の力を利用出来るんじゃないかって思ったんだ」
「それってリサ姉の体のこと?」
「そうだ。聖女の力ならリサの体を治してやれるかもしれないと思った。力を使えばお前の寿命が縮むってわかっていたのに自分の幸せのために子供の命を使ったんだ。
子供の寿命を使うなんて親として最低だと思う。だからすまなかった」
父さんもリサ姉も私に治してなんて一言も言ってない。もしかしたら言わなくても私が治すと期待していたのかもしれない。
でも結局は私が治したいと思って勝手にしたことなんだから謝る必要なんかないんだ。変なところで真面目なんだから。
まあそういうところ好きだけどさ。
「いいんだよ私を利用しても」
「だが……」
「あのね父さん。人間ってみんな自分が主人公なんだよ。だから自分の為に大なり小なり他人を利用するのは仕方ないことなんだ。
私だって父さんのこと利用してる。自由と楽しいことを得るためにさ。だからお相子だよ!」
「すまない……いやありがとう」
「ほらリサ姉。父さんを立たせて抱きしめてあげてよ。私には出来ないからさ」
「うん」
聖女の力のおかげでこの幸せそうな光景を作り出せたことに嬉しさを感じる反面、もう父さんには触れないようにしないといけないと思うと寂しさも感じた。
―――
「では改めて家族会議をしたいと思う」
私から少し離れた位置に座った父さんがリオンの修行の成果を話し始めた。
「恥ずかしい話だがリオンは俺より強い」
父さんが言うには二年前の時点ですでにリオンに勝てなかったらしい。
その後もメキメキと力をつけたリオンに道場主すら勝てなくなり、現在はカナバルの町でトップ3と言えるほど強くなったようだ。
竜人族ではなく魔人族ということもあり、カナバルでリオンは有名人だそうだ。
「リオンって凄いんだね」
「アリアにキスを貰ったから頑張れた」
リオンが鋭い眼光で少しだけ笑みを見せてそんなことを言ってくる。
リオンは元々キリッとした目つきだったが、剣士として修行したせいか鋭さを増した。
綺麗な瞳と合わさってジッと見つめられると心臓が飛び跳ねる。
トラと対峙してしまったチワワの気分だ。
「リオン!真顔でそんなこと言わないでよ!恥ずかしいな!」
「ハグでは恥ずかしがらないし、胸を揉んでもいいとまで言ってるくせにキスでは恥ずかしがるのね。変な娘」
そんな事言われても男とキスとか大人な関係はまだ少し恥ずかしい気持ちがあるんだ!乙女心は複雑なんだ!
「アリアのナイトになってくれないかと軽い気持ちで育て始めたんだが、想像以上に成長して驚いてる」
「私のナイトって魅了対策ってこと?」
「そうだ。お前は襲われやすいからな。でもリオンがいれば安心だ」
「ラウルがそこまで言うなんて、ちょっと手合わせしてみたいわね」
「やめておけ。今のリオンはリサの全盛期以上の強さだ。実戦から離れて久しいリサには荷が重い」
「なによ。私が何も出来ずにやられるとでも?」
「そこまでは言ってない。ただリサが傷つくのは出来るだけ見たくないんだ」
「ラウル……」
唐突に二人がイチャつき始めた。そういうのは家族会議が終わってからにしてほしいです。
「それでアリアの方はどうなった?」
「体力はついたわ。でも剣術の才能はないわね」
私に剣術の才能がないのは当たり前だ。だって戦気纏えないんだもの。
どれだけ頑張ってリサ姉に切りかかっても体の動き、剣速ともに遅すぎてまるで当たらない。
せっかく母様に結構良い剣をもらったのに宝の持ち腐れである。
普段自分で持ち歩いていても荷物になるだけなので、リサ姉に使ってもらうのがいいのかもしれない。
そんなわけで才能のない私がカナバルに剣術を習いに行っても意味がない。
男と関わりがないこの町にいたほうが安全と判断されてずっとこの町にいたという経緯がある。
「そうか。アリアは体力ついちゃったのか」
「なんで悲しそうにしてるの?体力ついたのは良いことじゃん」
「アリアをおんぶ出来ないと思うとそれはそれで残念だからさ」
「アリアの胸の感触でも味わいたかったの?リオン君はなかなかのむっつりスケベね」
「アリアって落っこちないように必死に抱きついてくるんです。アリアみたいな美少女に抱きつかれて嬉しくない男はいないですよ。それにたまに無意識で首元を舐めるんです。正直言って約得だと思ってました」
「旅の最中に堂々と男の首を舐めるなんて、さすが変態ドM犬ね」
「リオン!余計なこと言わないでよ!」
あぁ……私の性癖がどんどん皆にバレていく。
心のままに生きているから仕方ないとは言え、恥ずかしい……。
「剣術の才能が無いとは言えこの犬娘には魔法の才能があるわ。魔法使われたら私じゃ太刀打ちできないくらいに」
「さり気なく犬娘とか言わないでよ……」
「元々凄かったが更に凄くなったのか?」
「ええ。一度興味本位で風魔法の衝撃波を受けてみたんだけど死ぬかと思ったわよ。無駄に聖女の力を使わせてしまって申し訳ないことをしたわ」
あの時は本気で慌てた。
軽くやったつもりがリサ姉がかなり遠くまで吹っ飛んだのだ。殺してしまったかと思った。
パニクった私はボロボロの状態で大丈夫だからと強がりを言うリサ姉のことを泣きながら治療した。
一応ティモからもらった風魔石を外しておいてよかった。つけたままだったらリサ姉を殺してしまっていたかもしれない。
その後、冷静になって考えるとこの時聖女の力を誰かに見られていたのではないかと不安になった。
しかし特に何事もなかったのでホッとした。
ティモ直伝の訓練をこの四年間もずっと続けた結果、成長期だった影響もあるのか魔力総量も膨大になった。
自惚れかもしれないけど今や私は人間核兵器と言ってもいいんじゃないかってくらいの腕前だ。
とは言え弱点がないわけじゃない。
威力を高めることばかり考えて訓練していたせいか私は魔力の調整がちょい下手だ。いやかなり下手になってしまった。
リサ姉を吹っ飛ばしたことでわかるように、MP10しか使ってないつもりが100使ってしまうみたいなことが多々ある。
なので仲間を巻き込む可能性がある集団戦に向かない。
しかしソロで動くには自己強化ができないせいで危険というなんとも困った状態になってしまった。
なかなか上手くいかないものだ。
「お互い子供のほうが強くなっちまったか」
「そうね……」
「でも父さんはドラゴン討伐したことがあるんでしょ?十分強いんだから気にしなくていいじゃん」
「あー、倒したと言っても俺はちょこまかと動く役でな。残念ながら俺の攻撃力じゃドラゴンは倒せないんだ」
「そうだったんだ」
ヘイト管理ってやつかな?それはそれで凄いと思うけどね。
「ラウルは私より弱いものね」
「ぐっ……まあいい。子供が親を超えていくのは良いことだ。そんなことより四年間働かなかったのでそろそろ金欠だ。今後子供が生まれることを考慮して稼ぎたいところだ」
「あら?私はラウルに貰ったお金ならまだあるわよ」
「父さん?何に使ったのかな?」
「リオンに勝てなくなって酒に溺れた時期がある」
「お酒だけでそんなにお金ってかかるのかな?」
「正直に言いなさい。怒らないから」
「お、男は我慢できなくなる時もあるんだ!いてえ!」
リサ姉は無言で一発父さんを殴った。
「いいわ。これで許してあげる。ラウルを遠ざけようとした私も悪いんだしね。でも今後そういう店行ったらどうなるかわかってるわよね?」
「もちろんだ。二度と利用しない」
「それでどうするのよ」
「ここらへんじゃ稼ぎが悪いから冒険者の町ノヘナに移動してそこを拠点にしたい」
「ノヘナか。ま、私はどこでもいいんだけどね。一生ラウルについていくだけだから」
「リサ……」
いやいやだから話の途中でイチャつかないでくださいよ。
「そうだ。旅の前にリオン君にあれ渡しときなさいよ」
「あれ?」
「忘れてた。取ってくるね」
私はしまっておいた一本の黒い剣を取り出すとテーブルの上にどかっと置いた。
「なんじゃこりゃ魔剣か?どこで手に入れてきたんだ」
「魔剣じゃないよ。私の手作りだよ」
この黒剣は私が魔力圧縮の訓練ついでに作ったものだ。
製作期間は一年以上。毎日地道に土属性の魔法で押し固めて作ったものでめちゃくちゃな硬さと切れ味を誇る剣だ。
自分で作っておいてこれがなんの物質なのかはわからない。
作る時にブラックホールのような超パワーで、物質を押し固めるみたいなイメージしたので安易にブラックダイヤソードと名付けてみた。
「ありがとう。使わせてもらう」
「俺には無いのか?」
「それ作るの大変なんだよ。だから作ってる時間なかった。ごめん」
「そうか……」
「ラウルは私を手に入れたんだから我慢しなさい!」
「ふ、そうだったな」
いやだから以下略。
「では身辺整理をしたらノヘナに向かうぞ!」
「「「おー!」」」
ここまでくるのに四年もかかった。
ようやく私の冒険が始まる!楽しみだ!
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