第33話ハグのためなら胸を差し出す

「もしかして今の仕事しだしたのって男と関わりのない仕事だから?」

「そうよ。人間って弱いから、もしラウルがいないときに優しくされたらその男になびくかもしれない。でもこの仕事なら男と関わりがないしその心配もない。

 たとえ子供が産めなくても私の身体はラウルのなの。絶対に他の誰にもあげないんだから」


 やばいリサ姉が可愛すぎる!こんな乙女に好かれている父さんは幸せものだね。

 でも今のままじゃ二人はすれ違ったままだ。

 なら私がなんとかしてみせる!それが出来る力があるんだから。


「なんでもっと早くに言ってくれなかったの?」

「それは……」


 私は黙るリサ姉をギュウっと力強く抱きしめると、治ってと願う。

 するとリサ姉の体の周囲に白い光が帯びた。


「なにこれ温かい……。もしかして私の体を治したの?」

「外傷じゃないからわからないけど、以前治した時みたいに祈ったよ」

「何勝手なことしてるのよ。バカじゃないの?」

「バカだなんて酷いな」

「だって力使ったらアリアの寿命が縮むんでしょ?そんな気軽に使っていたら貴方死んじゃうのよ?自分の命をもっと大事にしなさいよ」

「寿命が減る?そんなの知ったことじゃないよ。私は私がしたいことをするよ」


 命は大事だとても。でも大事にしすぎたら身動きが取れなくなっちゃう。

 そりゃ出来れば長生きして幸せな人生を送りたい。明日貴方は死にますって言われたら怖くて泣いてしまうかもしれない。

 でも私は50歳まで世界を眺めるだけの人生よりも、25歳まで好きなことをする人生を取る。

 だってそのほうが生きてて良かったって思えるはずだから。


「貴方って本当に……。ありがとうアリア」

「ふふふ。お礼はハグでいいよ。さあリサ姉、貴方のハグで私を極楽浄土へ送るが良い!」

「アリアってドMの甘えん坊よね」


 リサ姉はそう言うといつもより強めにハグをした。


「うぐぐ。ぐるじい。でも、良いぃ……」

「へ、変態だわ」


 私の反応を見たリサ姉は顔をひきつらせ若干引いていた。


 それから一ヶ月くらいが過ぎた頃、朝起きたらリサ姉が飛び跳ねていた。


「アリア!治った!治ってる!私、子供産める!」

「そっか。よかった」

「ありがとう。ありがとう。うぅぅ」


 私がニコリと微笑んで抱きしめるとリサ姉は泣き出してしまった。

 私はこのリサ姉の様子を見て早く課題をクリアして父さんと再会させてあげなくちゃ!と張り切った。

 でも頑張るだけじゃ、どんなに強い気持ちがあっても無理なものは無理だった。

 だって目標の設定がどう考えても戦気を纏えること前提になってるでしょって感じなんだもの。

 だけどこの時まさかこの町に四年間もいることになるとは思いもしなかった。




 ―――




 この町に来て四年が経ってしまった。

 この四年間の地獄の修行で私は強くなりました。

 え?説明が雑だって?地道な修行内容を語ってもしょうがないでしょ?

 なので華麗にスルーさせてもらいますよ。


 さて、私は14歳となり体つきは立派な女の子となった。

 女の子となった私だが心配していたような身の危険にさらされることはなかった。

 だって冗談抜きで父さんとリオンと最後に会ってから男と会話していない。


 そしてこの町の私達が住む区画は入れ替わりが激しかった。同年代の娘達はどんなに遅くても一年程度で体力づくりを終えて出ていってしまう。

 その他トレーナーともリサ姉と専属契約をしているために関わりがない。

 そのため聖女の秘密が漏れることもなかった。

 しかし良いことばかりじゃない。そのせいで私には友達が一人もいなかった。


 リサ姉が私の世界のすべて、そんな日々がいつまでも続くかと思われたけどリオンの修行が一段落ついたとかで二人が町に戻ってくることになった。

 今日は二人がリサ姉の家に来る日。

 リサ姉の家は女区画にあるけど、申請してちゃんと申請者の女が同行すれば男も入れる。

 私は今リサ姉が二人を連れてくるのをお行儀よく待っているところです。


「よお久しぶりだな」


 まるで一ヶ月ぶりくらいな軽い感じで父さんは家の中に入ってきた。

 久しぶりに見た父さんは少し老けた感じがした。確か35歳、いや36歳?になるので当然ちゃ当然なんだけど。


「会いたかったよお!」


 私は父さんがあまりにドライな対応だったので、つい何も考えずに子供の時と同じ感覚で飛びついてしまった。

 すると次の瞬間押し倒された。

 私は後頭部を強かに打ち、軽く目眩を起こしながらも馬乗りになり私の体を弄るまさぐ父さんを見た。

 父さんの瞳は私と同じ金色に変化しており、劣情を催しているような表情をしていた。


「ラウル!何してるの!」


 頭を打ち目眩がしていたせいでぼーっとしたまま抵抗出来ずにいると、父さんの顎にリサ姉のアッパーが綺麗に決まった。




「あれ?俺は何をしていたんだ?」


 数分後目を覚ました父さんは直前に自分が何をしたか覚えていないようだった。


「ラウルがアリアに襲いかかったのよ。だから私がぶん殴って正気に戻してあげたわ」

「俺がアリアに?」

「ごめんなさい。わかっていたことなのについ何も考えずに抱きついちゃったせいでこんなことになっちゃった」


 私は呪いのローブを羽織って少し離れた位置から話しかけた。


「そうか……。くそっ。なんかすげえムラムラする。すまないが話は明日だ。リサとデートしてくる」

「ちょっと何するのよラウル!」

「いいだろ。お前は俺のものだ」


 父さんはそう言うと強引にリサ姉を引っ張って夕方のオレンジ色に染まった町へ出ていってしまった。

 私とリオンはあっけにとられその場に取り残された。


「あのーリオンも私が触ったらやばいのかな?」

「俺は魔人族のせいか成長が遅いからまだ大丈夫だと思う」

「そっか」


 安心した私はリオンに近づきまじまじと観察した。

 成長したリオンはガッシリとした体つきになっていた。本当に私より1つ年下なのだろうか?

 リオンって出自がはっきりしない子だし、もしかしたら同い年か何個か年上なんじゃないか?そう疑ってしまうくらい立派な体だ。

 それとも体が人族より若干大きいのが魔人族の特徴だっけか?うーん種族ごとの特徴についてなんてあまり覚えてないや。


 そんな立派な体に成長したリオンを見て私は欲望に支配された。

 抱きしめてみたい!

 この四年間私にはリサ姉しか居なかった。

 そんな時に新しい枕になりうる存在が目の前にいたら我慢が出来るはずがない。


「アリア?どうしたの鼻息荒くして」

「ねえいいよね。リオンも別れる時無許可でキスしてきたんだし。うん許されるはずだ」


 私は自分の欲望を肯定してリオンに抱きつくと、ついでに体中を撫で回した。

 ふおおおぉ!これは見事なシックスパック!それに胸の筋肉も良いものをお持ちだ!

 リサ姉のような程よい柔らかさはなく、カッチカチの筋肉だけどこれはこれで悪くはない。

 枕に貴賤無し!硬い枕も柔らか枕も、みんな違ってみんな良いってやつです。


 リオンもなかなか良い抱き枕になりそうだ。

 とは言えさすがに硬すぎる。毎日使う抱き枕には向かない気もする。

 あ、でもこれだけ硬ければ背を預けるには良いかもしれません。

 父さんはもう私を後ろから抱けないし、今度から代わりにリオンに抱いてもらおうっと。それがいい!


 私が勝手にリオン枕の評価を済まし、ふと顔を上げるとリオンが顔を真赤にして硬直していた。


「アリア、なんでいきなり抱きついてくるの」

「そりゃリオンの抱き心地を確かめたくなって」

「いやいやなんで抱き心地を確かめる必要がある?」

「リサ姉取られちゃったし、今日は二人で寝るからだけど」

「ちょっと待て。なんで同じ布団で寝ることになってるんだ!?」

「私とリサ姉ってずっと二人で寝てたし布団一組しか無いよ」

「その場合普通は、男は床で寝ろって言うものだ!」

「私を一人で寝かせる気?リオンの鬼!」


 私はこの五年間誰かしらと一緒に寝てきたんだ。

 それに諸事情によって赤ちゃんの頃母様に抱きしめてもらっていたのだって覚えている。それを含めると人生の半分以上は誰かにハグしてもらって寝てたんだ。

 もうハグがないと寝られないんだよ!


「アリア、よく聞いてほしい。まだ生殖機能が未発達といっても俺は男なんだ。一緒の布団で寝たら我慢できず悪戯してしまうかもしれない」

「なんでそんな意地悪なこと言うの!?前一緒に寝てた時はそんなことなかったのに」

「前ってもう四年前だ!四年もあれば子供だって大人になるんだ。それにアリアからとてもいい匂いがするし、我慢出来る気がしない」

「うぐぐ……わかった。胸を揉むくらいなら許すから一緒に寝てほしい」

「なん…だと……」


 さっきも父さんに胸を揉まれてしまったし、もういいやと思った私は自慢の美乳を自分の欲望を叶えるための対価として差し出すことにした。

 この胸は一年間揉んで育てた自慢の一品だ。対価として申し分ないはずだ!


「なにさ私の胸じゃ不満?Cカップくらいの美乳なんだぞ」

「…………」

「その、さすがにそれ以上エッチなことは私も恥ずかしからやめてほしいんだけど」

「わかった、わかったから!抱きしめて寝てあげる!だからそう簡単に男に胸を揉んでいいとか言っちゃ駄目だ!」


 リオンは語気を強めて私の目を射抜くような視線で言う。


「わかった?」

「わかった。言わない」


 別に誰彼構わず胸を揉んでもいいなんて言う気無いんだけど……。

 私がコクコクと首を縦に振って了承するとリオンは大きなため息を吐いた。なんだかその姿が父さんと被った。


「リオンって父さんに似てきてない?というか明るくなったよね」

「あー、四年間毎日一緒にいたからなぁ。俺にとっても父親みたいな感じだし似たところはあるかも。それに四年もあれば嫌なことも忘れることが出来るよ」

「そっか。うん。よかった」

「なんでいきなり泣き出す!?」

「……泣いてなんかないよ」


 その後軽めの夕食をとった私達は一緒の布団に入った。

 寝付くまで私達はこの四年間であったことなど他愛もない話をして過ごした。

 結局私を後ろから抱きしめていたリオンがエッチな悪戯をしてくることはなかった。

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