第14話我儘お姫様
男の子と女の子、カリムとマリカは20分くらい肉と格闘しようやく食べ終わった。
急いで食べようとしたためか途中、喉につまらせかけたので魔法で水も与えた。
「ごちそうさま。ありがとう助かった」
「どういたしまして。当然のことをしたまでだよ」
「当然のこと……ね」
「うん。でも駄目だよ悪いおじさんについていったら」
失言だった。彼らの置かれた状況をまったく考えてない私の。
「お前に俺たちの何がわかるんだよ」
「え?」
「腹が減ってたんだ我慢できないくらい」
「でもあいつについていったら何をされるか、どんな酷い目に遭うかわからないよ」
「わかってるさそんなこと!そっちの女の子のことは知らねえ。でも俺は酷い目に遭うの承知でついていこうとしたんだ!
お前にわかるか?運が悪ければ一週間まともなものが食えない時もあるんだぞ!そんな生活が半年以上も続いているんだ!もう辛いんだ……。悪魔だってわかっていてもそれに縋り付くくらいに」
「…………」
絶句した。何も言い返せなかった。
前世では両親は早くに他界し、物心がついた時には祖父に引き取られた後だった。
祖父は子供を抱きしめたりしてくれるような人ではなく、ぶっきらぼうな人だったがご飯はちゃんと食べさせてくれた。
生まれ変わってからだって食べ物に困ったことなんてなかった。
食べ物があるってことが当たり前、守られ育ててもらえることが当たり前の環境だった。
知識として恵まれない人たちがいるのは知っていた。この世界にもそういう人はたくさんいるだろうと想像も出来た。
でも、実際に目の前に現実を突きつけられるまで別の遠い星の出来事のように思っていたんだ。
「ごめん。食い物くれた恩人に対しての態度じゃなかった。俺はもう行く。さようなら」
「私も行くね。ご飯ありがとう」
「あ……」
何も声をかけられなかった。かける言葉がなかった。
わかっているのに。彼らに今後過酷な生活が待っているって。
私は彼らを引き止める術など持っていなかった。
「お嬢様、今日は帰りましょう」
私はレイに手を引かれ、トボトボと歩いて家路に向かった。
その間ずっと二人を助けるにはどうすればいいかと考えたが、何も思いつかなかった。
魔法で水も出せるし狩りだって出来る。でも食べ物を出すことなんて出来やしない。住む場所と仕事を与えることも魔法では出来ない。
魔法がどれだけ上手く出来るようになろうが私は無力だった。
今の私に出来ることがあるとすれば、父様に二人を助けてほしいと我儘を言うくらいしか出来ないのだ。
日暮れ間近、仕事を終えた父様と母様が邸へと帰宅した。
「おかえりなさい。父様。お話があります」
「ああ、ただいま。今日は街に行ったんだったね。楽しめたかい?」
「心から楽しむことは……出来なかったです」
「それは残念だ。理由を聞いても?」
「孤児に会いました。彼らは毎日生きるのが大変で、悪い人に酷い目に遭うかもしれないのにそれに縋ろうとするくらい辛い思いをしていました」
「そう……」
「それでその……お願いです!二人を助けてくれませんか?」
ヒューグレイはしばし思索に耽けて口を開いた。
「条件がある」
条件は二つ。
二人はうちの使用人として働くこと。もし二人がこれを拒否するようならば救えない。これは二人に対して出される条件。
もう一つの条件は私に対して出された。
レイとティモと共に街に行って二人を探し出し連れてくること。そしてその時、他の孤児を見ても見捨てること。
次の日また私はレイとティモと共に町へと足を運んだ。
だが町へと来てはみたものの二人が何処にいるのかなんて検討もつかない。
とりあえず昨日二人に出会った場所を中心に捜索することにした。フラフラと当て所もなく歩く私にレイも文句を言っていたティモも何も言わずに付いてきてくれた。
仕事とは言え8歳の子供の我儘にちゃんと付き合ってくれる。ありがたい。
結局この日は足を棒にして歩き回ったが二人に会うことは出来なかった。
二日目。
今日も二人と出会った場所に行くことにする。広い町を当てもなく探し回っても見つけられる気がしない。結局、二人があの場所付近に戻ってくるのを祈るしかない。
昼前、出会った場所に辿り着くとマリカがへたり込んでいた。私はレイの手を振り切って走り出した。
「マリカ?」
声をかけると俯いていた顔を上げる。そんな彼女に私は手を差し出す。
「来て」
「うん……」
マリカは一昨日から何も食べていないようだった。なのでレイに頼み屋台で中華まんみたいなものを買ってもらい与えた。
食べ終わると私はマリカの手をぎゅっと握りしめた。もう離さない。そんな風に思って強く握った。そしてカリムを見つけるために歩き出した。
カリムを探して歩く途中、悪人に連れて行かれる孤児を見てしまった。私はそれを何も出来ずに見送った。
カリムはその後もなかなか見つからなかった。時間は刻々と過ぎてゆき、あと一時間もすれば日が暮れてしまう。
カリムはもう連れて行かれてしまったのではないか。そんな風に思えてきてしまって涙が出てきた。
「あっ」
日暮れ間近となり閑散としてきた町、今日はもう見つからないかと諦めかけていた時、マリカが指差した先に元気なく座り込んでいるカリムがいた。
私は涙を拭うと彼に近寄り無理やり手を取って邸へと歩き出す。
いきなり手を取られ驚き戸惑っていたカリムだが、なにか思うことがあったのか何も言わずに付いてきた。
邸に戻るとすでに帰宅していた父様に「頑張ったね」と軽く抱きしめられた。私は頑張ってなんかいない。ただ我儘を貫き通しただけだ……。
俯いたままの私の頭をポンポンとなでた父様はカリムとマリカに問いかける。
「君たちには選択肢がある。一つはここから去って元の生活に戻ること。もう一つはうちの使用人となって私の娘のために生きて死ぬことだ」
「父様っ」
「アルテイシアは黙っていなさい。さあどうする?」
二人は顔を見合わせ、マリカは即決しカリムは少しの間考えてから使用人になることを選んだ。私のために生きることを選んだのだ。
これでは結局私があの悪人の立場になっただけではないか。本当に二人を救ったと言えるのだろうか。そんな考えが渦巻いた。
こんな選択肢しか与えてあげられずにごめんなさい
私は心の中で二人に頭を下げることしか出来なかった。
―――
「はぁ」
「……」
翌日いつもの日常に戻った私は悩みがあります聞いてくださいと言わんばかりにため息を吐いた。
先程からチラッチラッとティモに目で訴えかけているのだが無視をされている。
「チラッ」
「…………」
「チラッチラッ」
「ああもうわかったよ聞くよ……」
「私は優しい師匠を持てて幸せ者です」
「まったく調子がいい姫様だね君は」
姫様扱いされてしまった。そう言われても仕方のないことをしているから甘んじて受け入れよう。
「二人のことで相談がありまして」
「はいはいそんなこと言わなくてもわかっているよ。さっさと本題をいいなさい」
「私は二人を救うことが出来たと言えるのでしょうか?」
「そんなの僕が知るわけ無いだろう。直接聞きなよ。怖いのかい?」
「うぅ」
「客観的に見れば無理やり連れてきて私の奴隷になるか孤児に戻るか選びなさい!って言ったようなものだもんね。嫌われてるかもしれないよね」
「そんなはっきりと言わなくてもいいじゃないですか!」
「正直者でごめん」
相談した結果更に悩みが深まり、心がえぐられただけだった。
眠る前の時間、自室にいるとノックが部屋に響いた。どうぞと入室を許可をすると部屋に入ってきたのはマリカとカリムだった。
「あ、う……ど、どうしたの?」
私は一瞬でキョドった。まだ二人と話をする心の準備が出来てなかった。
「ティモさんがお嬢様が話があるみたいだから寝る前に部屋に行くようにって」
「俺も」
ティモぉぉぉ、余計なことを。やっぱあなたは優しくなんて無い。子を崖に落として育てるタイプの人だよ。
しばらく無言のまま時間が過ぎ私は意を決して話し出す。
「昨日の父様の話のことだけど、別にいいんだよ。私のために生きなくても。大人になって自立出来るようになったら出ていってもいいんだよ」
「それは大人になったら出ていけってこと?」
「ち、ちがそうじゃなくて」
「じゃあ私は出ていかない。ずっとお嬢様と一緒にいる」
「俺は……。まだはっきりとは言えないけど、そう言ってもらえたことは嬉しい。ありがとう」
「「「……」」」
話すことがなくなりまた沈黙となる。気まずい。どうも二人との距離感がわからない。友達のような接し方はなんかちょっと違うような気もするし、うーん……。
「は、話はこれだけです。じゃあ改めて明日からよろしく」
私がそう言うと二人は部屋から退出した。とりあえず伝えたいことは伝えられたしいいよね。うん。
ちょっとだけ心が軽くなった私は数日ぶりにぐっすりと眠ることが出来た。
マリカとカリムの二人がうちで働くようになって一ヶ月。マリカはエトーレに、カリムはレイに仕事を教わっている。まだまだ不慣れなことが多いため大変そうだ。
日々忙しそうにする二人だが時折笑顔を見せるようになった。それを見てようやく私は二人を無理矢理にでも連れてきてよかった。そう思えるようになったのだった。
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