第7話 ファンタジー世界の恐ろしさ
「仕方ないですね。手伝ってあげますよ」
「お嬢様はお留守番です」
「何故!?」
「お嬢様はこれを機会に街を見て回りたいだけでしょ。お願いですから面倒事を増やさないためにも邸でじっとしていてください」
「……」
バレてる。もしかしたらいいこと思いついた!と考えた時、顔に出てしまったのかもしれない。
「ミュリンはいつも通りの仕事とお嬢様の監視を。ティモさんは捜索の手伝いをお願いします。私は旦那様に連絡した後合流します」
「マルコさん、坊っちゃん見つけたらご褒美くださいね」
「も、もちろんです」
ティモは従者のマルコにちゃっかり報酬を要求し、レイと共に出ていった。
暇になってしまったのでアンとミュリンと俺の三人で自作トランプを使い遊ぶことにした。
ミュリンは初め仕事をほったらかして遊ぶことを拒んでいたが、この前お願い聞いてくれるって言ったのに……と言うと諦めた表情をし一緒に遊ぶことになった。
この表情を見た時初めて女に生まれてよかったと思った。
だって男に生まれていたとしたら
女の俺でさえ、あの表情を毎日見たとしたらドSに目覚めかねない。危険だ。実に危険だ。
今後 お願い をするのは最小限にしよう。
「お嬢様申し訳ありません革命です!」
「初手革命やめてえ!」
「あはは、またアリアが大貧民に戻っちゃったね」
「なんでだよー10戦ぶりに大富豪になれたのに」
夢中で遊んでいて気づかなかったがいつの間にか外は暗くなり始めていた。
「暗くなってきましたね」
「うん。でも誰も戻ってこないね」
「……」
未だに誰も戻っては来ない。カイルも捜索を手伝わされているのかアンを迎えに来る様子はなかった。
結局この日スノウは見つからなかった。
父達は誘拐事件の可能性も考慮して明日は騎士団にも協力をしてもらうかなどと話をしている。
というか何故すぐに騎士団に頼らないのだろうか。やっぱり王子がフラフラと遊びに来てるのはあまり公表したくないのかね?
スノウが行方不明になった翌朝、邸には一人の怪しげな男がやって来た。小柄ですばしっこそうな男で、小悪党という言葉がピッタリの容姿をしている。
男は言った。お宅に出入りしているお坊ちゃんは預かった金を用意しろと。
「貴様ァ!」
「ひぃぃ。お、俺はただの連絡役として雇われたんだ!俺を殺したって坊っちゃんは帰ってこねえ!」
「その男の言う通りだ。マルコさん少し抑えるんだ」
小悪党に今にも斬りかかる勢いのマルコをウィルとティモが抑え、ヒューグレイが続きを促した。
小悪党は戦々恐々としながらも追加の連絡事項を話し始める。
金はリリアンヌ、俺、護衛は1名で届けること。3人は昼過ぎに迎えの馬車を手配するのでそれに乗ること。
護衛はティモ以外にすること。ティモは今日1日邸から出ないこと。出れば取引は中止。
また万が一討伐隊組むなど変な動きがあれば取引は中止。
取引中止はスノウの殺害だ。
お前たちは監視されている。変な気は起こすな。
要件を伝え終わると小悪党は脱兎のごとく逃げ出した。
ずっとマルコが怨敵のように睨みつけていたからな。怖かったのだろう。
それにしてもティモが護衛に使えないのか。
ティモが護衛についてくれれば金も渡さず、人質も無事に解放なんてこともできたかもしれないのに。
人攫い氏はちゃんとある程度情報も仕入れているみたいだ。プロの人攫いだな。
「監視ってどこでしてるんだろうか」
「貴族街にその手の輩がいたら目立ちます。貴族街にいるとは思えません。ただのブラフの可能性も高い。騎士団に頼るのもありかもしれません」
「さっきの男はスノウ様を 坊っちゃん と呼んでいました。敵はスノウ様を王子と認識していない可能性が高い。
商家の息子程度の認識だったとすると何かあれば即処分されてしまう可能性があります。それはなんとしても避けたい」
「そうですな。たしかにそれだけは避けなければ」
「アリアが受け渡し役に選ばれたのは足手まとい要員だろうね」
「でしょうな。子を守りたい母や複数対象のいる護衛、どちらも下手に動けない」
「敵ながらよく考えるよね。ははっ」
「ティモ殿。笑い事ではありません」
ヒューグレイ、ウィル、マルコが議論をし、ティモは相変わらず呑気な発言をしている。
しかしティモのことは警戒してるくせになんで俺のことは無警戒なんだ?俺が魔法使えるって情報は仕入れてないのだろうか。
あ、もしかして最近アンに無様に負けてばかりだったからだろうか。
人攫いに俺は魔法が使えても気が弱い取るに足らない子供と思われているのかもしれない。その認識が間違っていないのが少し悔しい。
「護衛は……」
「護衛には私が付きます。元々は私がスノウ様から目を離したのが原因。命に変えてもお三方を守ってみせます」
「ティモ殿を除けばマルコ殿が一番の手練。適任ですな」
メンバーはリリアンヌ、俺、マルコに決まった。
マルコの腕前はわからないが王子の護衛をしてるくらいだ相当の腕前のはず。心配する必要はないだろう。
あとは時間が経つのを待つだけ。
はぁ緊張してきた。こういう時の待ち時間ってやばいほど緊張するよね。
―――
「アリア、魔法が使えるからといって変な気は起こしちゃいけないよ。みんなで無事に帰ることを優先するんだ。わかったね」
「はい!」
邸を出るときに父に忠告される。
以前の俺ならば忠告を聞かずに魔法をブッパして最悪の状況に陥ったかもしれない。
しかしアンと出会ったおかげで自分の現在地を知ることが出来た。
今の実力で何か行動を起こせば藪蛇になりかねない。
敵側に戦気を纏えるような手練がいないとも限らないのだ。
出来るだけ母とマルコに迷惑をかけないこと。これに徹することにしよう。
「よし!行くわよ!」
母の掛け声で俺たちは邸を出発した。
馬車に揺られること1時間以上、目的の場所付近についたのか降ろされた。
そこから10分程度歩くと小屋が見えてきた。林の手前にある小屋をガラの悪いのが15人くらいで取り囲んでいる。あそこが取引の場所だろう。
「約束は守っていただけたようですね。感謝します」
小屋の近くまで寄るとガラの悪い奴らの一人が一歩前に出て出迎えた。悪党にしては丁寧な口調だ。
「では金を持ってお嬢さんだけが小屋に入ってください」
「なんだと!そんな危険なことお嬢様にさせるわけにはいかない!」
「安心してください。中にいるお頭と人質と金の交換をしてもらうだけです。あなた方が約束をまもってくれたのです。我々も守りますよ」
「マルコ!うちの娘はしっかりものよ!大丈夫出来るわ!」
「……奥様がそうおっしゃるなら」
俺は一切口を挟まない。事前に決めたように藪蛇になりそうな言動はとらない。
気弱な女児を演じていればいいのだ。
そうすれば万が一の時に相手の不意をつけるかもしれないしな。
「さあお嬢さん小屋の中に」
ガラの悪い男達に囲まれた中を一人小屋に向かって歩く。
まるでヤ○ザの事務所に乗り込んでるような気分で心臓がドキドキして爆発しそうだ。
俺は扉の前で深呼吸をし、気分を落ち着け小屋の中へと入った。
「よっ嬢ちゃん今朝方ぶりだな。さ、そこに金を置きな」
小屋の中にいたのは手足を縛られ
スノウは殴られたのだろう。頬に痣ができている。
俺は小悪党が金を数えている間に何故自ら邸に来たのか聞いてみた。
「王様とか偉い連中と違ってよ、俺らの世界じゃ時にはボスも動かねえと部下が付いてきてくれねえのよ。
椅子に座って偉そうに指示してるだけじゃ慕ってもらえねえ。悪党の世界だって大変なんだぜ」
王様の例え話をするってことはスノウの正体に気づいているのだろうか?
「スノウのこと……」
「おうわかってる。まったくこいつの名を聞いた時は肝が冷えたぜ。うちの部下はなんてもんをさらってくるんだ、というかなんで王子がこんなとこでフラフラしてんだよってな。
でもさらっちまったのはしかたがねえ。どうにか上手いこと金をぶんどるために頭を使ったぜ」
小悪党は口元を歪ませニヤリと笑った。
「スノウを始末する気はなかったの?」
「始末って怖いこと言うお嬢ちゃんだな。殺すつもりはなかったさ。
なぜなら王子をさらわれたってだけなら国の恥だからなかったことにするかもしれねえが、殺されたとあっちゃそうもいかねえ。
本格的に国を敵に回したらレジスから脱出して他の国にいたとしてもいつどこで騎士に襲われ殺されるかわかったもんじゃねえ。
王族に手をかけた者の末路はよーく知っている。俺はそんなのごめんだぜ」
俺はこの手の悪人は気に入らないことがあれば暴れまわるようなバカばかりと思っていたが違うようだ。
悪人とか関係なく組織のボスっていうのは、頭が良い悪いではなく頭を使える人物でないと務まらないのかもしれない。
「よし!約束の金は受け取った。坊っちゃんは返す。そして最後の約束だ。 俺 がこの場を離れると言ってから嬢ちゃんは外に出てくれ。いいな」
「わかった」
俺は返事をしつつスノウの元に駆けつけ猿轡を外し手足の拘束は焼き切った。
そしてもう大丈夫と言って抱きしめた。
「約束のブツは頂いた!野郎どもずらかるぞ!」
バカみたいにでかい声だ。たぶん俺に聞こえるように言ってるのだろう。
「お頭ぁこの女上物ですぜやっちまいましょうよ」
「はあ?今日の目的は金なんだが。じゃあ残るやつの分前はここに置いておく。後は好きにしな! 俺 は先にずらかるぜ。あばよ!」
あばよの合図と共に俺は小屋から飛び出した。
「スノウは無事です!もう遠慮するひつよ」
言い終わる前にマルコの腕がぶれた。
そこからは圧倒的な力による惨殺だった。
残っていた六人中五人は1分もしないうちにマルコに切り捨てられた。
最初の一人は何が起こったのかわからなかっただろう。
それを見た三人が一斉にマルコに斬りかかるもマルコの動きを追える者など居なかった。
マルコは焦った様子もなく一人ずつ素早く確実に仕留めていった。そして恐怖で漏らし、尻もちをついているやつの首も無慈悲に斬り落とした。
慌てて逃げようとした一人はリリアンヌが殴って昏倒させていた。
俺は小屋から出ようとしたスノウを「見るな!」と言って小屋の中に押し倒した。
「だ、だいじょうぶ、か?」
スノウを抱きかかえながら逆に心配されてしまうほど俺は慄えていた。動悸が激しく息も上手く出来ない。
怖い。目の前で命が失われてゆくのがただただ恐ろしい。
魔法と剣のファンタジー世界。
今までキラキラと輝いて見えていた世界が酷くくすんで見えた。
そして血塗れになったマルコが「もう大丈夫ですよ」と小屋に入ってくる。
それを見た俺は気を失った。
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