第38話森は危険がいっぱい
町から出発して三日目。クジャンの森をというとこを探索することになった。
うぐぐ。ついに森に入らないといけない時がやってきてしまった。
竜人大陸の森って故郷にあった名もなき小さな森と違って巨大な昆虫型の魔物とかいそうだし不安でしょうがない。
「どうしたんですか?」
「私虫が嫌いなんだよね」
「虫が嫌いって……。そんなんじゃ冒険者なんてやってられませんよ」
恐る恐る歩く私を気遣ってリオンが手を握ってくれた。
さすがは私のナイト様だ。頼りになる。
森の中に入って数時間、たまに大鼠や角ウサギのような弱い魔物がいるだけで強敵と思われるようなものとは出くわさなかった。
そのためヴィーは薬草採取が捗っているようだ。
存外森の中って平和じゃないかと思い始めていた時そいつは現れた。
前方でのっしのっし歩いている黒い塊。少し距離があるのでわからないが体長は人間の倍以上ありそうだ。
あれはなんだと父さんに聞こうとしたその瞬間、そいつはこちらのほうに体を向けた。
「ぎゃあああ!ゴキブリ!!!」
パニクった私は反射的にリオンに飛びついた。
「ちょアリア!胸が!胸が顔に当たってる!」
「アリア落ち着きなさい!」
「リサ、アリアをリオンから引き剥がすんだ。ブラックローチは硬い。確実に倒すためにはリオンに斬らせた方が良い」
リサ姉がリオンにくっついた私を引き剥がそうとしてくる。
「こらっ!離れなさい!」
「おいリオン!おめえも何アリアのことを抱きしめてるんだ!胸の感触を味わってる場合じゃない!働け!」
「くっ、つい本能的に抱きしめてしまった……」
ちょマジでやめて!一人にしないで!
私達がぎゃあぎゃあと争っている間に、私の声に反応した巨大ゴキブリが真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。
「ひいぃぃぃ!こっちくるな!フレイムバレッドッ!!!」
私は森にいることなどお構いなしに高威力の炎弾を数発ゴキブリに放った。
魔力圧縮により威力が高まった青色の炎がゴキブリを襲う。
私が放った灼熱の青炎によりゴキブリの周囲一帯は炎に包まれ、体に火が着いたゴキブリはもがき苦しみだした。
炎はゴキブリを焼くだけにとどまらず、どんどんとこちらの方まで燃え広がってくる。
このまま放置すれば私達も丸焦げ間違いなしだ。
「馬鹿野郎!なんてことしやがる!」
「さっさと消火しなさい!私達まで焼き殺す気!?」
「ひぃごめんなさいぃ!」
私は燃え盛る木々を消火するべく、辺り一帯に大量の水をばら撒いた。
ヘリで水をばらまくような感じで大雑把にまいたおかげで全員ずぶ濡れである。
あはは。皆さん水も滴るいい男(女)ですね。
「アリア、何か言うことはあるかしら?」
「ごめんなさいすみませんもうしません。たぶん……」
ずぶ濡れで静かに怒るリサ姉から視線を反らして言うとかなり強めに両頬をグニャグニャと弄ばれた。
「いひゃいいひゃい!」
「ヴィーちゃんもやっちゃっていいわよ」
「では失礼して」
「ふごっ」
ヴィーは両鼻の穴に指を突っ込んできた。鼻の穴が広がっちゃう!鼻血出ちゃう!やめて!
私はしばらくの間二人のおもちゃにされてしまった。
負い目から抵抗できない私を弄ぶとは酷い女達だ。
その後ゴキブリを確認してみると見事に丈夫な外皮だけ焼け残っていた。
ブラックローチはC級の魔物で防御性能が非常に高く、並剣士の斬撃は受け付けない。
しかし攻撃は非常に単調で、硬い体を生かして猪のように突撃してくるだけだ。
今回簡単に討伐出来たのは私が森の中で炎を使うというタブーを犯したためである。
いくら頑丈と言っても体全体が丈夫なわけではない。部分的に弱いところはあり、そこは普通に燃えるのだ。
焼け残った素材はラマの背中に括り付け運ぶことになった。パッと見ゴキブリがラマに乗っているように見える。
ただでさえエロいラマなので近寄りがたいというのに、現在は更に近寄りたくない存在となってしまった。
「ねえねえ。そのゴキブリの素材って結構価値あるんでしょ?」
「まあそうですね」
「じゃあなんで私はあんなに怒られたのかな?一人で倒したんだし少しくらい褒めてくれてもいいじゃん」
「それとこれとは話が別です」
「そうよ反省しなさい」
誰も褒めてくれないので不満に思って口を尖らせているとリオンが無言で撫でてきた。
撫でられた私は気分が良くなった。うぅぅ。我ながらチョロい。
でもこれでいいんだ。好きなことは好き。嫌いなことは嫌い。
自分の気持ちに正直に生きることが幸福に生きるための秘訣さ!
こうして初めての金策は失敗もあったけど、なかなかの稼ぎで終えることが出来た。
―――
初めての冒険から四ヶ月程経った。金策はとても順調だ。
冒険者ランクはCまで上がり、現在私の手元には金貨100枚(1000万)近くある。このままいけば年収金貨300枚(3000万)だ。
運良くB級の魔石ホルダーを倒せただけってのもあるんだけど、まだ14歳なのにこんなに儲かっていんでしょうか?
でも普通に考えれば命がけだしこれくらい儲からないとやってられないか。
町に帰ってくる度に父さんとヴィーが情報集めをしているけど、全滅したのか帰ってこなくなってしまうパーティーも多いらしいし。
ちょうど慣れ始めた時期なので私も注意しないと。
そうそう、リオンが俺の物はアリアの物とかいってお金を渡してくるので、渡されたお金全部使ってリオンの防具を買い揃えた。
リオンは渡したお金が自分の為に使われて腑に落ちないみたいなことを言うので、
「リオンに死なれたら困る。だからこれは私の為に使ったんだ」と力説すると、少々不本意な表情をしたものの最終的には納得してくれた。
しかし今後も私にお金を渡すつもりのようだ。
出会った時に助けたことを未だに恩に感じているみたいだけど、稼いだお金の殆どを貢がれても困ってしまう。私はジャイ○ンではないんだ。
次はどうやって還元すればいいだろう。悩ましい。
また私はいつの間にかこの町のアイドルになっていた。
どれだけ注意してもウルマのように女しかいない区画などないため、普通に生活してるだけで私の香りと目に魅了される男が後をたたない。
このままではどんどんと有名になり面倒なことになると危惧した父さんが、「うちの娘は容姿の良さに嫉妬されて男に襲われる呪いをかけられた」と嘘の情報を流した。
すると熟練冒険者のガイという強面おじさんがリーダーとなり、私の親衛隊というかファンクラブみたいなものを立ち上げた。
「お嬢ちゃんのことは俺たちが絶対守ってやるからな」
「それはありがたいんですけど、報酬お支払い出来ませんよ」
「報酬なんかいらねえよ。俺はこれでも金に困ったりはしてないんだ。俺たちは同じ空間でお嬢ちゃんの香りを嗅げるだけで幸せだ。だから気にするな」
親衛隊は私の香りだけで幸せになれる上級者のようだ。
守ってくれるのはとてもありがたいけど、面と向かってそんな事言われるとキモいです。
しかしキモいとは思いつつもアイドルとして扱われるのは悪くない気分だった。
なのでうろ覚えの前世の記憶を掘り起こして歌を歌ってみたところ、これまた話題になってしまった。
リオンには「アリアは歌も上手いんだね」とよいしょされ、更に少子に乗った。
その結果父さんたちからは、目立つの大好きじゃねえかと呆れられて匙を投げられた。
―――
冒険者として順調な滑り出しをした私達は、現在ノヘナの町から五日ほどの距離にあるゴッゾの森という所を探索中だ。
森の探索で以前ははちょっとした虫で騒いでいた私は今では少し慣れて芋虫程度ならば大丈夫になった。
大丈夫になったと言っても巨大な蜘蛛の魔物が出た時は、また森に火を放ってしまったけどね!
ちなみにこいつが例の魔石ホルダーの魔物だった。そのためまた怒られただけで褒めてもらえなかった。
ため息をつく私をリオンだけが撫でた。例のごとく私の落ち込んだ気分は霧散した。
なんだか最近リオンに手懐けられてきてる気がする。
もしかしたらヴィーが言うように、私の前前世は犬だったのかもしれない。
現在、森を探索中の私達から少し離れた所にガイさんら親衛隊が3人いる。
ガイさんはすでに遊んで暮らせるほどお金があるらしく、その他のメンバーは交代制で町の外でも私を護衛してくれるらしい。
無償でここまでされるとちょっと怖い。
後から「へへへ、お代は体で払ってもらおうか」とか言われやしないだろうか。不安だ。
そんな下衆い妄想をしつつ森の中を歩いていたところ、何やら良い香りが漂ってきた。
「ねえ、超いい匂いしない?あっちかな?」
「森の中っていろいろな植物の匂いがあるからわからないわ。それにアリア自身がいい匂いを放ってるし」
ノヘナに来てからわかったことだけど、私は女性にとってもいい匂いを放っているらしい。
リサ姉は私に気持ち悪がられるんじゃないかと思ってずっと黙っていたようだ。
しかしノヘナに来てからヴィーや宿屋の女将など出会う人皆、いい匂いと言うので言う勇気が出たとのことだ。
「アリア。一人で行動したら危ない」
「大丈夫大丈夫。リオンは心配性だなぁ」
「追いかけよう。あいつを野放しにしたら何しでかすかわからないからな」
「そうですね。良い香りで誘って獲物を食べてしまう肉食の植物もいますし、放っておけません」
はぁ……すっごい良い香りだ。この匂いの元となってる植物?が欲しい。
匂いの方へ誘われて行くと百合の花のような綺麗な白い花が辺り一面に咲いていた。
私は花の方へ駆け寄っていくと試しに一本だけ摘んで思いっきり香りを吸い込んだ。
ふわああぁ……。なにこれぇ。気分がふわふわしてきたぁ。
なんかこのお花凄く美味しそうに見えてきたぞぉ。食べちゃおー。
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