第39話女でもいい

 ※主人公にすべての効果が効かないわけではありません。

 体内に摂取するようなものに関しては効きます。(例)酒を飲めば酔っ払う等。




 アリアを追いかけてきた四人は、白い花が咲き誇る少し手前の場所で立ち止まった。


「本当に良い香りね」

「本気か?めちゃくちゃ臭いんだが」

「私も良い香りに感じます。リオン君はどうですか?」

「臭い……」

「ふむ。私も実物は始めて見ますが、もしかしたらアリアの足元で咲いてる白い花はバニミンの花かもしれません」


 バニミンの花とは媚薬の原料である。

 これを加工して作ったエキスを女性に飲ませると効果抜群だ。女の方から襲ってくること間違いなしである。

 バニミンの媚薬を手に入れた男は、気になる女と一緒に食事をする関係までいければいい。あとは薬の効果で既成事実をつくることが可能だ。

 犯罪にも使えてしまうほどの効果があること、人工栽培が難しこと、咲く場所、量、時期などが年によってランダムなこと等の理由から貴重な花のため非常に高値で取引されている。


「アリアが思いっきり匂いをかいで恍惚としてるぞ」

「本来加工しないとそこまで効果が無いはずですが……。リオン君はアリアを連れ戻してください。ラウルさんはこの大袋に出来るだけたくさん花を摘んでくれると助かります。私とリサさんは念の為離れてましょう」

「おいおい持って帰るのか?」

「本物のバニミンの花ならばとても価値が高いです。これだけあれば金貨100枚近くになるかもしれません。余るようなら親衛隊の人にも分けましょう」

「そんなに価値が高いのか!それはぜひとも持って帰りたいな。じゃあアリアは任せたぞリオン」

「了解」


 リオンは咲き誇るバニミンの花の中で恍惚とした表情で佇むアリア元に向かった。

 ほとんどの男性にとってはこの花の香りは臭い。リオンは早くこの場から離れたいと思いながらアリアに声をかけた。


「アリア。その花の香りをかぐのは危ない。ここから離れよう」

「ヤダ」

「あ、アリア何してるんだ!舐めちゃ駄目だ!」

「だって凄くいい匂いで美味しんだよぉ」

「とにかく駄目なんだ。ほら行くよ」

「やーだぁ!」


 リオンはアリアに甘い。嫌がる彼女を無理やり連れ戻すのは気が引けた。


「どうすれば言うこと聞いてくれる?」

「んーじゃあチュウして!」


 アリアはリオンの首に腕を回し唇を近づける。


「わ、わかった。後でしてあげるからとにかくここを離れよう」


 普段ハグは要求してきても、決してキスは要求してこなかったアリアがこんなことをしてくるなんて完全に媚薬効果が出てしまっている。

 人が変わったような言動をするし、もはやこれは麻薬と言っても過言じゃない。

 そう思ったリオンはとりあえず了承して早くこの場を離れることを優先した。


「アリアは花を舐めてしまってだいぶ混乱している。なんとか出来る?」

「舐めたの?さすが犬娘ね」

「ちょっと待っててください」

「リオン約束ぅ。ちゅー」


 アリアが甘ったるい声を出して催促をする。

 リオンは錯乱状態とも言えるアリアとキスをすることに多少罪悪感を覚えた。

 しかし頭でそう思ってはいてもリオンも男の子だ。誘惑に逆らうことなど出来ず、昔したような触れるだけのキスをした。


「ちっがーう!」

「何が違うの?」

「私がしたいのはベロチューなの!!」

「ヴィーちゃん早くして。この娘完全に盛ってるわ」

「とりあえずこれを飲ませてください。本来は怪我人が眠れない時用の眠り薬ですが」

「アリア。これ飲んで」

「飲んだらしてくれる?」


 アリアは瞳を潤ませておねだりをするようなポーズでリオンに問う。


「するから飲んで」

「うえ、苦いぃ」

「アリアなら自分で水出せるでしょ?それで全部ごっくんして」

「んっぐ。飲んだよ」

「偉い偉い」

「えへへ。じゃ約束守って」


 すぐ眠ってくれと思いつつ、リオンはアリアを抱きしめて頭を撫でる。

 しかし薬がそんなにすぐに効くはずがない。リオンの思いとは裏腹にアリアは唇を近づけてくる。


 リオンは悩んだ。

 いいのだろうか。キスしてしまっても。そりゃしたいかどうかと聞かれたらしたいさ。

 好きな女の子にキスをせがまれて我慢できる男なんかいるもんか。

 でも植物の効果でこんな状態の娘とディープキスをするなんて、どう考えても悪いことだ。


「リオン君。ディープキスくらいしちゃいなさい。大人になればいずれもっと凄いことするんだし」

「そ、そうですよ。私達のことはお気になさらず」


 二人の女は止めるどころかやってしまえと言う。

 迷っている間にアリアの顔がもう目の前だ。そしてついには唇が触れて、アリアの舌がリオンの唇に触れた。

 その瞬間リオンの理性は吹き飛んだ。




 ―――




「んあ?」


 気がつくと昔のようにリオンに背負われていた。いつの間にか寝ちゃってたみたいだ。

 うーんなんだか頭が朦朧としている。白い花の香りをかいで気分が良くなって、花を食べてから記憶がない。


「目が覚めたみたいね」

「私なんで寝ちゃってたの?」


 私が問うとリサ姉とヴィーがニヤニヤといやらしい笑みで見つめてきた。


「な、なんだよぉ。なんでそんな風に見るの?」

「アリアには凄いものを見せてもらったので笑みが漏れてしまいました」

「凄いもの?私無意識で魔物でも倒した?」

「魔物は討伐してないわよ。あ、でもある意味討伐したと言えるかしら」

「それってどういう事?」

「貴方が討伐したのはリオン君よ!」


 リサ姉とヴィーから話を聞いた私はカッと顔が赤くなり、リオンの背から飛び降りた。

 二人によると私は花の媚薬効果でリオンにディープキスを迫ったらしい。

 そして実際にしてしまったようだ。しかもちょっとどころではなく、眠りにつくまでの10分程度ずっとチュッチュしていたようだ。


「潤んだ瞳で『リオンもっとぉ』って言うアリアはとても可愛らしかったですよ」

「将来旦那にあんな感じで甘えるんでしょうね」

「あうぅ……」


 二人はニマニマとした笑顔で私のことをからかってくる。

 なんでこんな事になってしまったんだ。いくらなんでも媚薬花でキマってるとこを観察されるなんて……。

 あぁ、神よ何故私にこんな試練を与えるのですか!私はいるかもわからない神に悪態をついた。


 そしてなにより気に食わないのは記憶がないことだ。これだけ恥ずかしい思いをしたのになんで覚えてないんだ!

 フレンとしてから、いつかまたしたいと思っていてようやく出来たのに!


「私アリアが舐めてくる理由がようやくわかりましたよ。アリアはキスをしたかったんですね!」

「んなっ!」


 何この娘!私の心を読んだ!

 ああそうだ!言われて完全に思い出した。私はキスがしたいんだ!

 フレンとキスするの全然嫌じゃなかった。むしろ嬉しかったさ!本気で嫌だったら避けたり、叱り飛ばしたりすればいいのに私はそれをしなかった。

 キスされるのをわかっていて朝晩フレンのことをハグしに行ってたのだ。

 お別れする直前なんて無理やりディープキスしてこいよ!とか思ってたくらいさ。

 私はキス魔のフレンに調教されて自分自身もキス魔になったのだ!


「キスしたいなら言えばいいのに。リオン君なら喜んでしてくれるはずですよ。ねえリオン君」

「…………」

「リオン?」


 リオンはほけーっとした表情でトコトコと無心で歩いている。私の声にも反応はない。


「さっきからずっとこの調子なのよね」

「14歳で男を骨抜きにするとは……、親衛隊もどんどん増えてますし、将来アリアは一体どれだけの男を誑し込むんでしょうか」


 ヴィーがうりうりとほっぺをツンツンとつついてからかってくる。

 ぐぬぬ!いくらなんでもからかいすぎだ!ものには限度ってものがある!ヴィーにはお仕置きが必要だ!


「……そうだよ。私はヴィーの言う通りキスがしたかったんだよ」

「おお。開き直りましたね」

「そうそうヴィーに教えてあげるけど、私は昔女の子ともキスしてたんだよ。ただのキスだけどね」

「な、なんですかいきなり」

「私は相手が女の子でも良いってことだよ」

「えっと……。すみません。からかいすぎました。落ち着いてください」

「もう落ち着けないよ。私をからかった罪を贖ってもらおうか」

「むぐっ!?」

「わーお……」


 私はヴィーに襲いかかった。

 押し倒し無理やりキスをすると舌を潜り込ませた。

 リサ姉は私のいきなりのご乱心に開いた口が塞がらないといった様子でこちらを見ている。

 他の皆も見ている気がする。でもどうでもいい。この調子に乗った娘を蹂躙、調教してやるんだ!


 最初は抵抗していたヴィーだが、次第に抵抗は薄れ最終的にはとろんとした表情で一切抵抗をしなくなった。

 私は征服感に満たされた。

 くくく。この小娘は私が従順なメスにしてやったぜ!


「うう……。女の子同士でこんなことをしてしまうなんて」

「これに懲りたら私をからかうのは止めたほうがいいよ」


 ふう……、それにしても最高だった。癖になりそうだ。

 はっきり言って今後もしたい。でも今回は理由があったからいいとしても、今後理由もなく無理やりヴィーにしまくると本気で嫌われるかもしれない。

 かと言って男のリオンに求めたらビッチだと思われるかも。それは嫌だな。

 うーん私はどうすればいいんだ。


「二度とからかいません。だから止めてください」

「えーいいんだよからかってくれても。いくらでもしてあげるからさ」


 しなだれかかった私がからかうように言うとヴィーは真っ赤になってプイッと目をそらせた。

 あれ?思っていたより拒絶がない。

 口先では嫌と言っていても身体は正直ってやつですか?だから本気で強く嫌と言えない?

 い、いいのかな?たまにならしちゃっても……。


「凄いものを見てしまったわ……」


 リサ姉の独り言が夕方の空に消えていった。

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