第40話ヴィナティラの本音
※この世界ではお酒に年齢制限はありません。
しかし、日本在住の20歳未満の方はお酒飲んではいけませんよ。
数日後ノヘナの町に帰ってきた私達はバニミンの花を売り払い、一人あたり金貨15枚程度の収入を得た。
高額収入は嬉しいことだけど、その代償として私は媚薬でキマった恥ずかしところを見せつけてしまったので複雑な心境だ。
「今日はどこで食べる?」
「女共は三人で宿屋の横の店で食ってくれ。俺たちは飲みに行くからな」
「すまねえな嬢ちゃん。リオン坊は借りていくぜ」
報酬の分配を済ませた後、父さんに食事の相談をすると男たちだけで飲みに行くと言う。
私は察した。たぶん私の件でリオンをからかうつもりなのだ。
「アリア……」
リオンは助けてくれと言わんばかりに見つめてくる。私はそれを知らんぷりした。
そしてお小遣いと称して一度渡されたお金を必要と思われる分入れた財布を持たせ「いってらっしゃい」と言うと、ガイさんの逞しい腕で引きずられるようにして連れて行かれた。
ごめんよ私のせいで。
でも助けようとしても火に油を注ぐだけだと思うんだ。今日は素直にからかわれてください。
取り残された私達女三人は、父さんの言う通りに宿屋の横の料理店に入った。
町中にも私の親衛隊がいるとはいえ、暗い時間帯に遠出すると危ないというのが一つ。
もう一つの理由はこの店ではタダ飯が食えるからだ。
何故かって?それは私が密閉空間にいると匂いが充満して客の満足度が上がるらしいのだ。
それと以前ほろ酔い気分の時に歌ったのが好評で、店の亭主から気に入られたというのもある。
そのため料理店なら食ったら出ていけってのが普通なのに、私だけは1時間以上居たら無料でいいよって事になってる。
適当にお喋りしてるだけでも一時間なんてあっという間だ。そんなことで美味しい料理が無料なんて最高だね。
でもよく考えると私の香りってヤバいよね。だって料理の匂いに負けないくらい強いんでしょ?
というかそんな強い香りが料理と混じったら味が変わっちゃうんじゃ……。
それとも料理の香りと合わさると絶妙なハーモニーを奏でるのでしょうか?
うん。あまり深く考えないほうが良いよね。怖いし。
私は人型芳香剤。そういうことにしておこう。
「んっくんっく……ぷぱあっ!おじさんもう一杯!」
「まいどっ!」
「ヴィーちゃんどうしたの?一気飲みなんかして」
料理が来る前に運ばれてきた果実酒をヴィーが一気飲みした。普段ちびちびと可愛らしく飲むのにどうしたのだろうか。
「飲まなきゃやってられないですよ!」
「もしかして私にキスされたの怒ってる?」
「いえ、そんなことじゃなくてさっきのアリアとリオン君のやり取りですよ!」
「「?」」
何が言いたいのかわからなかったのでリサ姉の方を見たが、リサ姉にもわからなかったようで首を傾げられてしまった。
「わかりませんか?一回お金をもらってから必要な分を渡すって、まるで夫婦じゃないですか!見せつけちゃって!」
「またからかうつもり?ヴィーって私にキスされたいの?」
「からかってるつもりじゃないです。アリアには心をさらけ出したシーンを見せてもらったし、この際私も本音を言おうと思います」
「見せたくて見せたわけじゃないだけど……」
「私は羨ましいんです!アリアやリサさんが男とイチャイチャしてるのが!」
「あら。面白くなってきたわね。そういうことならじゃんじゃん飲みなさい。今日は私がヴィーちゃんにおごってあげる。心の膿を出し切っちゃいなさい」
リサ姉にそんなことを言われたヴィーは追加で来たお酒をまた一気飲みすると、自分のことを語り始めた。
―――
私ヴィナティラ・アークストンは地元で町を守る騎士として働く身体能力の高い夫婦の元に生まれた。
そのため二人の兄と姉は高い身体能力を有していた。
そんな中末っ子の私だけは幼い頃から身体能力が低かった。
でも自分は優秀な両親の血を引き継いでいるのだ。本格的に訓練を開始すれば自分も兄や姉のように強くなれるはずだ。そう思っていた。
しかしその希望は打ち砕かれた。
同じ訓練をしているのに同年代とは差が開くばかりで、挙句の果てには年下に追い抜かされていく日々。
私には戦いの才能がない。兄や姉のような格好良い剣士にはなれない。
それを悟った私は普通の女の子として生きようと思った。恋愛結婚をして、毎日好きな男とイチャイチャして暮らすのだ!
よく考えてみると私は体を動かすことは別に好きじゃない。何故もっと早くに気付けなかったのか。
まあいい。とにかく私は可愛いお嫁さんになるんだ!そう心に決めた。
だがここでも問題が発生した。
今まで身体能力に気を取られて気にしていなかったけど、うちの家系は目付きが悪く、女は貧乳だ。
兄や姉は普通にモテていたけど、それは身体能力が高いからだ。
魔物が闊歩するこの大陸では身体能力が高いというのはモテ要素なのだ。
しかし私にはそのモテ要素がない。そして竜人族の感性ではブサイクとされるジト目の持ち主だ。
また剣士などの武人としては貧乳はステータスになりうるが、普通の女として生きるならあったほうが良いに決まってる。
私はまだ若く成長する可能性がないとは言えないが、母と姉を見れば育たないのは明白である。
愕然とした。私は戦いの才能が無いだけでなく女としての魅力もないのだ。
13歳にして人生に迷った私は今後どういう風に生きていけばいのかと母に相談した。
母は困ったような顔をして、終いには辛い思いをさせてしまってごめんねと泣き出してしまった。
私が才能の無さで悩んでいたように母もまた悩んでくれていたのだ。
そんな母を見て、くよくよしていちゃいけないと思った。いつかきっと幸せになって、生んでくれてありがとうって言えるようになるんだ。
しかしどうすれば妄想のようなイチャラブ生活を手に入れることが出来るだろうか……。
途方に暮れているある時、人族の商人が町にやってきた。
私は違う種族から話を聞けば新しい視点を得ることが出来るのではないかと思い、迷惑を承知で彼の元に人生相談をしに行った。
「ふむ。ならば人族の学園に行ってみてはどうだ?」
「学園ですか?」
彼が言うには商人の国カラマ、騎士の国オルド、魔法使いの国モルファの三国が共同で作った学園都市があるらしい。
「本来学園は勉強をしに行く場所だが、その学園都市は開放的で全種族を受け入れているから、様々な出会いがあるはずだ」
「そこでなら良縁があるでしょうか?」
「少なくともここにいるよりはあるさ。それと一つ言わせてほしい」
「何でしょうか?」
「人族の俺からするとお嬢ちゃんはブサイクじゃないぞ」
「え!本当ですか!?」
「本当さ。まあ俺みたいなおっさんに言われても嬉しくないだろうがな」
「いえ、そんな事はありません。ありがとうございます。今後の人生に希望が持てました」
「はははそうかい。そりゃよかった」
商人のおじさんの一言で私は学園に行こうと決めた。
まだ彼一人の感性なのでわからないけど、学園に行けばきっと私を可愛いと言ってくれる男が見つかるはず。そう思ったから。
でもここでもネックがあった。お金の問題だ。
学園は最大5年間で金貨100枚以上かかるらしい。生活費や渡航費用などのことも考えるとその倍はお金が必要だ。
学園に行くためにはお金を稼がないといけない。しかし地道に稼いでいたらおばさんになってしまう。
若くして大金を稼ぐには冒険者になり一山当てるしかない。
だが私には戦いの才能はない。そんな私に残された唯一の道。それがサポーターだった。
幸い町には冒険者ギルド直営の小さな図書館があった。
私は来る日も来る日も図書館に通って勉強した。
写本したものを売って図書館の利用料金を稼ぐ。そんな日々が16歳まで続いた。
16歳になった私は意気揚々と冒険者を始めた。
しかし地元の町では二ヶ月経ってもお誘いがかからなかった。
考えてみれば当たり前だ。地元の小さな町では固定パーティーが多く、新規のサポーターが入る枠などないのだ。
私は町を出る決意をした。そのことを両親に伝えると当分の資金として金貨20枚を渡された。
騎士の仕事は名誉職みたいなもので、危険を伴う割に給金は少ない。
にもかかわらず私のためにお金を用意してくれていた。私のようなお金を稼ぐ素質のない娘のために。
涙が出てきた。私は泣きながら絶対に成功してみせる!そう言って旅立った。
この時あわよくばお金を二倍にして返してやるんだなんて希望を持っていた。
地元の町から冒険者の町ノヘナには二ヶ月ほどかけて到着した。
本来はそんなにかからないが、私の場合自分の好きなタイミングで移動が出来ない。
ノヘナに行くという信頼できそうなパーティーを探すのに時間がかかってしまったのだ。
ノヘナに着いて私は町の大きさと冒険者の数に驚いた。そしてこれならきっと仕事がある。そう確信した。
しかしそんな思いとは裏腹に半年間なんの仕事にもありつけずに経過した。
いつも少しだけ話をして結局誘ってもらえないってことばかりだった。
パーティーに誘われたことが全く無かったわけではない。
だけど、どう考えても若い女とヤリたいだけって感じの下卑た中年男性のパーティーだったため、私の方から断った。
半年間で私のことを誘ったのはその手の連中だけだった。
このままじゃ駄目だ。何かしないといけないと思った私は駄獣を購入した。
購入する際業者に、一頭も持っていなかったのかと呆れられてしまった。サポーターなら駄獣なんて持っていて当たり前だったのだ。
私は魔物や植物のことばかり勉強していて、冒険者としての知識と経験がなかった。こんなんじゃ誘ってもらえなくて当たり前だ。
おそらく少し会話しただけで使い物にならないとすぐに分かるレベルだったんだろう。
私はどうにかして冒険者として経験を積まないといけないと思い、信頼できそうなパーティーを探し分前はいらないから経験を積ませてくれと頼み込んで同行させてもらった。
三ヶ月ほどそのパーティーで経験を積んだ。
パーティーを抜ける時、彼らに金貨1枚を手渡された。
三ヶ月で金貨1枚ではまともに暮らせる稼ぎではない。でも嬉しかった。認められた気がして。
自信がついた私はまた酒場で誘われ待ちをすることにした。
そしてアリアと出会う運命の日を迎えた。
―――
「アリアがパーティーに誘ってくれて私の人生は好転しました。感謝してもしきれません。でも一つだけ不満があるんです!それがイチャイチャを見せつけられることなんです!私はいつもそれを寂しく見つめるだけ。
二人共顔も良ければスタイルも良い。戦う力もあって、男もいて、私が欲しい物全部持ってる!くやじい!私は悔しいです!」
まくしたてるように不満をぶち撒けたヴィーはダンッとテーブルに突っ伏した。
まさか容姿にこんなにもコンプレックスを持っているとは思わなかった。
安易に貧乳とか言ってからかわなくてよかった。
この様子じゃそんなことを言えば、泣きながらパーティー抜けると言ってどっかに行ってしまってもおかしくない。
「ヴィーちょっと飲み過ぎだよ。今日はもう宿でぐっすり休もう。ね?」
私がそう言って肩に手を置くと腕をガシッと掴まれた。
「なんでアリアは男の子じゃないんですか!?」
「ちょっどうしたのいきなり」
「私初めてなんです。あんな風に心の底から可愛い可愛いって言ってもらえたの。本当に嬉しかった」
たしか私が可愛いって言っても感性がおかしいとか言ってたような……。あれは照れ隠しだったのか。
「私アリアが男の子だったら出会ったその日に股を開いていたことでしょう」
「お、落ち着いて!」
「やばいわ。ちょっと飲ませすぎたみたいね」
「責任とってください!責任とって私のこと可愛いって言いながら頭をナデナデしてください!」
「ヴィーは可愛いよ。だから落ち込む必要なんてないんだよ」
抱きついてきたヴィー頭をよしよしと撫でると甘えるように私の胸に頬ずりをしてきた。いつもと立場が逆だ。
でも悪い気分ではない。いつもクールなヴィーがこんな風に甘えてくるなんて。
むしろいい気分だ。普段からこうやって自らギューっとしてきてほしい。
「アリアー。好きですぅ」
ヴィーはそう言い残すと私に寄りかかったまま寝てしまった。
「お、重い。リサ姉助けて」
「はいはい」
酔いつぶれたヴィーのことはリサ姉がお姫様抱っこで宿に運び、私達も寝ることにした。
それにしてもヴィーがあんなに荒れるなんて……。
お酒って怖い!
そう思った私は、今後お酒はコップ一杯までしか飲まない。そう心に誓ったのだった。
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