第41話キス魔覚醒

「うぅぅ頭が痛いです」


 女三人で眠った翌日、目が覚めるとヴィーが二日酔いで苦しんでいた。


「おはよう。大丈夫?」

「大丈夫じゃありません。昨日の記憶も曖昧ですし」


 記憶が無いとな!チャンスだ!いろいろでっち上げてヴィーを我が物に!


「昨日私と結婚したい。イチャイチャしたいって言ってくれたのに記憶にないんだ……」

「え!?私そんな事言いましたか?」

「言った」 「言ってないわね」

「リサ姉!私の計画を邪魔しないで!」

「アリア、変な事実をでっち上げようとしないでください」

「でも似たようなことは言ってたわよ。なんでアリアは男の子じゃないんだー!って。その後アリアに甘えまくってたわね」

「あばばば」


 リサ姉の言葉を聞いたヴィーは顔を赤くして頭を抱えた。

 今彼女は二日酔いの頭痛と羞恥のダブルパンチでノックダウン寸前に違いない。


「ほら素直になりなよ。今日からおはようのチューとおやすみのチューしよっ!」


 私はヴィーに抱きつくとわざとらしく唇を尖らせてゆっくり顔を近づける。


「しませんから!そんなにしたいならリオン君とすればいいでしょ!なんで私なんですか!?」


 ヴィーは頭痛のせいか弱々しい力で私の顔を手で押し返した。


「女の子同士なら安心じゃん」

「何が安心なんですか!意味がわかりません」


 リオンとキスしたら興奮して最後までいくということも否定できない。異性の唾液には興奮成分があるとか説があるし。

 たとえ男でもキスまでならしてもいい気持ちが大きくなってきたんだけどさ、大人な関係にはまだちょっとだけ抵抗感があるんだ。

 もしかしたらこの小さな抵抗感は最後に残った元男の感性みたいなものかもしれない。


 その点そういうことを考えなくていい女の子ならキスまでで済むから安心だ。

 私は嫌がるヴィーのほっぺにチュッとするとすぐに解放した。

 ふふふ。今日はこれで許してあげよう。


「なんでアリアはいきなりキス魔になっちゃったんですか……」

「それはヴィーがからかった時に教えてくれたんじゃん。私キスがしたいって思ってたこと忘れてた。思い出させてくれてありがとう」

「うぐぐ。口は災いの元ですね」


 じゃれ合いを尻目に身だしなみを整えていたリサ姉に私は声をかけた。


「リサ姉は私とチューしてくれる?」

「私とするってことは間接的にラウルとすることになるけど」

「じゃやめとく」


 私が即答するとリサ姉は苦笑した。

 リサ姉とのスキンシップを諦めた私はヴィーへとターゲットを戻した。

 頭痛であまり強く抵抗できないヴィーをベッドに押し倒して、ギューッとハグをしながらほっぺに頬ずりする。

 ぬふふ。良き良き。妾は幸せじゃ。


「くっ。人が弱ってる所に漬け込んでやりたい放題とは、アリアは鬼畜ですね」

「いいじゃんいいじゃん。私達って利害関係を結べると思うの」

「私に何のメリットがあるというのですか?」

「ヴィーだって人に甘えたいんでしょ?私も甘えたいんだよ。だから甘え合おう」


 私は甘えるのが大好きだ!

 辛い4年間の訓練の最中にリサ姉に甘えることだけが唯一の楽しみだったせいもあるのかもしれないけど、とにかく好きなのだ。

 でも気付くのが遅かった。もっとちっちゃい時に甘えることの心地よさに気付いていれば、もっと早くに今の自分になっていれば母様と父様にハグ、キス、頬ずり仕放題だったのに。

 あぁ、なんで私は転生直後大人ぶったりしてたんだ。もったいない。


 でもまだ遅くないはずだ!まだまだ私は若い。甘えてキモッとか言われる歳じゃない。

 リサ姉は父さんに取られてしまったけど、今は代わりにヴィーがいる。だから今はヴィーに全力で甘えまくるのだ!

 今までハグして寝てもらうだけでも幸せだったから少し我慢してたけど、ヴィーも甘えたいんだとわかった今、もう我慢なんかしないぞ。


「男に甘えてみたいって気持ちはありますけど、女の子とイチャイチャしたいわけじゃないです!」

「男女関係ないよ。幸せな気持ちになれるかが重要なのさ。ヴィーは私に甘えられるの嫌?」

「べ、別に嫌ってわけじゃないですけど……」


 困惑するヴィーの頭を私は優しく撫でて耳元で呟く。


「困り顔のヴィーも可愛いよ」

「うぐぐ。リサさん、見てないで助けてください」

「アリアは甘えん坊モードになったら止まらないわよ。私は4年間それを受け止めてきたわ。これからはヴィーちゃんが頑張って」

「はぁ……もう好きにしてください」


 おお!ちょっとデレた!でもとりあえず今日はここまでにしておこう。

 引き際は大事だ。あまりいっぺんにたくさん水をあげたら花も枯れてしまう。

 これから毎日甘えて甘やかして、ヴィーを私にメロメロ状態にしてやるんだ。

 いずれ唇にキスするのが当たり前になるようにじっくりと洗脳しちゃうぞ。




 ―――




 私がキス魔として覚醒してから半年ほど経過した。仕事の方は相変わらず順調だ。

 何故これほどまでに順調かというとリオンの存在だ。彼は強すぎる。

 C級以下の魔石を体内に持っていないような魔物では相手にならない。

 私が制作した剣の切れ味が良いこともあるのか、リオンの一振りでほとんどの魔物は息絶える。

 リオンってオレツエー系主人公ではないのか?と疑いたくなるほどだ。


 最初の四ヶ月でリオンの強さをあまり感じなかったのは彼が自重していたからである。

 いくら剣の腕が立つといっても冒険者としての知識はないので、父さんやリサ姉の指示に従って行動していた。

 しかし今ではある程度経験を積んだことにより、指示がなくとも的確な判断が取れるようになったのだ。


 リオンがメイン火力、父さんとリサ姉がヘイト管理や状況判断、戦闘に関しては彼ら三人だけで完結している。

 場合によってはリオンが単騎で突っ込んですべての魔物を狩ってしまったなんてことも多々あった。


 そのため私はいつも背後から不意を付かれない程度に気をつけているだけで仕事が終わる。

 一応リサ姉が昔、不意を付かれて後遺症を負ったこともあるわけだし、周囲に気を配るのも大事な仕事だ。

 だけど毎回それしかしてないのに分前が同じというのはちょっと罪悪感がある。




 私生活も幸せな毎日だ。

 まずノヘナの町に着てからリオンの身長が更に伸びて今では180センチを超える大きさになった。

 私は160センチくらいなのでリオンにハグされると完全に包み込まれる感じとなり、心地良さがアップした。


 最近のマイブームは体格差を生かした抱っこだ。抱っこと言ってもお姫様抱っこのような乙女が憧れるものではない。

 私が好きなのは正面からしがみつくお子様抱っこである。あまりの幸福度にやめられなくなってしまった。

 しかしお子様抱っこは見られるとめちゃくちゃ恥ずかしいので、どこでも出来るわけじゃないのが難点だ。

 くそお。子供の時に抱っこもたくさんしてもらえばよかったあぁ!


 それと私はミッションをコンプリートした!

 ヴィーにおはようのキスとおやすみのキスをすることを了承させたのだ!

 寝る前にギュッとハグをしながらチューして、幸せサンドで寝て起きたらまたチューをする。最高のルーティンだ。


 キス魔として幸せな生活を手に入れたわけだが、ディープキスだけは禁止である。

 何故かって?本気で好きになってしまうからだ。

 私は同性に対して抵抗感がない。むしろ可愛い子、綺麗な人が大好きだ。


 一回だけ幸せサンド中にした時ヤバかった。トロンとしたヴィーが可愛くてさ……。ドキドキしてきてエロい気分になってしまったんだ。

 リオンが一緒にいたからこそ自制心が働いたけど、いなかったらどうなっていたことやら。


 男と関係を持つことに少し抵抗感があること、逆に女の子に襲いかかりたい衝動があること。

 うーん。なんだかんだ元男の感性がちょびっとだけ残っているのかもしれないね。


 十年前の今日に何を食べたのか覚えていないとしても、何かを食べたから今の自分がいる。

 それと同じように思い出せない記憶や感情も、今の自分を作る構成要素の一つなのだろう。


 そんなわけで無意識下で女の子も好きな私が、ヴィーと濃厚なキスをすることは危険なので禁止である。二度としないと約束した。




 そして最近になってリサ姉の妊娠が発覚した。

 実はここ二ヶ月間は、雪が降ったりと天候が悪く仕事が出来なかった。

 竜人大陸は中央大陸より魔力濃度が高いせいなのか、いきなり冬みたいな気候になることがある。その逆もまた然り。

 なんとも恐ろしい世界である。


 中には雪が降ろうが問答無用で仕事に行くパーティーもあるけど、リスクを犯したくないので私達は仕事をせず冬休みとした。

 現状お金に困っておらず、無理してまで働く必要はないからね。


 さて、暇になったラブラブ夫婦がやることと言えばもちろんアレである。


 やれば出来る!名言ですね!


 普段からお盛んだったようだけど種族違いのせいでリサ姉はなかなか子宝に恵まれなかった。

 でもさすがに毎日やれば出来ますよ。


 父さんとリサ姉は望んで子作りしたわけだが、良い子の皆は気をつけるんだぞ!


 今度リサ姉の懐妊を祝う会が開かれることになっている。

 ついでに私の誕生日が近いので誕生会もしてくれることになった。楽しみだ!

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