冒険
第25話旅は辛い
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※※※
「ところで冒険者って何するの?」
ヴァルリの町を出て少し経った頃、私は歩きながらふとした疑問を父さんにぶつけた。
「……はぁ」
「何?ため息なんてついて」
「そんなことも知らずに飛び出してきたのかと思ってな」
「仕方ないでしょ。他の選択肢なんて嫌だし、急かしたのは父さんだよ。責任とってください」
「まあそうだな。悪かった教えてやるよ」
冒険者とは個人事業主または派遣社員みたいなものらしい。
冒険者ギルドから仕事を紹介してもらい派遣社員の如く働く人もいれば、価値があるものを自分の判断で取りに行ったり魔物を討伐したり、傭兵業なんかもも冒険者のくくりのようだ。
簡単な話冒険者とはなんでも屋だ。なんだか思っていたのと違う。
正直言ってもっと格好いいものだと思っていた。だからちょっと残念な気持ちになった。
「おじ……父さんは何をメインに仕事してるの?」
「俺はトレジャーハンターだな」
「おお!冒険者の中では一番格好良さそう!」
「だろう!お前なかなか話がわかるな!」
「ただの薬草採取ってわけじゃないでしょ?もし薬草採取だったら期待が裏切られた感があるけど」
「物によっては植物の採取もかなりの金になるし危険な仕事だぞ。まあ俺の場合最近はやってないが」
「じゃあさ父さんがこの前言っていた一段落した仕事はどんなことなの?」
「ふふふ聞いて驚くなよ。なんとA級ドラゴンの討伐だ!」
「おおお!父さん凄い!」
A級がどのくらい凄いのかはわからないけど、ドラゴンの討伐!思っていた以上に凄いことしてる人だった。
私も魔法なら結構な腕前?だし、将来ドラゴンの討伐とか出来るかな?
でも私って臆病なんだよね……。賊如きを殺すのに躊躇しているようじゃやっぱ無理かなぁ。
というか自分のことトレジャーハンターって言ってたのにドラゴン退治?ドラゴン退治って素材採取みたいな扱いなの?モン○ンかな?
「お前将来いい女になるな」
「何いきなり」
「男はな、語った内容を褒められると嬉しいもんなんだよ。たとえそれが子供でもな。お前はそれが自然に出来ている」
「べ、別にいい女になるとか言われても嬉しくない。それよりもさ、ドラゴン退治はどんなんだったの?」
「翼がない特徴のないタイプのドラゴンだったんだが、体躯に似合わずすばしっこい奴だった。17人パーティーで挑んだが最終的に8人が死んだな。俺もしっぽでビンタされて危うく死ぬとこだった」
「うひぃ」
半分死んでるじゃん!ヤバすぎでしょ!驚きと恐怖で変な声出ちゃったよ。
「でもリスクを負っただけあって、ドラゴン退治で手に入った魔石や素材で10年は遊べる金とこうして語れるような武勇伝が手に入った。最高だ!」
「パパ凄い!格好いい!お小遣い頂戴!」
「ダメだ」
「ケチ!」
なんだよ。10年遊べるってことは元の世界で言う五千万円くらい手に入ったってことでしょ?ならちょっとくらいくれてもいいのに。
「父さんちょっと待ってお願い。はぁはぁ」
街道を歩き続けて昼になった。
私はへばっていた。だって今までこんなに歩いたことない!
現在私は家にあった曽祖父が子供の頃着用していたというローブと母様が学生時代使っていた刃渡り50センチ弱の剣を装備している。これが効いている。
ローブは暑いし最初は軽いと思っていた剣が今ではとてつもなく重く感じる。
なんで魔法使いなのに剣を持たされたんだろう。普通魔法使いなら杖ではないのか。
でも思い返してみればティモも杖なんか持ってなかった。よく考えたら杖って何に使うのかわからない。
杖の先っぽに魔石を取り付けてあるって?いやいやティモに貰ったみたいに指輪だったりネックレスのほうがいい。そもそも剣にだってつけようと思えば着けられるし。
魔法使いといえば杖なんていうのは物語の中だけなのかもしれない。
「おいおいこの程度でへばったのか?歩くスピードもなるべく合わせて荷物も全部俺が持ってやってんのに」
「そ、そんなこと言ったって飲まず食わずで何時間も歩いてるんだよ。まぢもう無理」
「お前本当にリリの娘か?」
「父様の娘でもあるよ」
「そうだったな。グレイは体を動かすことは得意じゃなかった」
体力が尽きたせいで強制的に休憩を取ることになった私達は街道から少し離れた所に腰を下ろした。
「ほれ、これでも食っておけ。水は……」
「ありがとう。水なら飲む分くらいならいくらでも出せるよ。はい父さんの分」
石製のコップを二つ作り出し、水をついで父さんにも渡した。
「便利だなお前」
「魔法は4属性使えるし少しは役に立てるよ。じゃいただきます。……硬ひ」
渡された干し肉にかぶりついた私だがあまりの硬さに歯が痛くなった。
魔猪肉とは違い本当の意味でカチンコチンの硬さだ。そう石のように。
「お前な、こういうのは少ししゃぶって柔らかくして食うんだ」
「先に言ってください」
「はぁ。ほんとお前には0から教えないといけないようだな……」
というかこれだけ硬かったらしゃぶるよりも煮込むべき物だ。そのまま食べるものじゃないよ。
そのまま食べる冒険者がワイルド過ぎなんだ。
十分とは言えない休憩を取った後、私達はまた歩き出した。とはいえ私の体力ではその後移動距離が伸びるわけもなく……。
「今日野宿になったのはお前のせいだからな。文句言うなよ」
「ごめんなさい」
「いやそこまで落ち込む必要はないけどよ。でもこれじゃいつになったら目的地に着くやら」
「そういえばどこに行くの?」
「まずは港町のウルプトンを目指す。その後は竜人大陸に渡る」
「竜人大陸!?」
ティモに教えてもらったことがある。
竜人は
その理由としては人族の住む中央大陸に比べて魔物が多く、戦う力がなければ死ぬという原始的な理由だ。
また竜人族が竜人と呼ばれる所以となったのは多くのドラゴンが住む大陸だからだ。
ドラゴンの闊歩する大陸でも逞しく生きていける。ドラゴンを狩ることが出来るくらい強い種族。それが竜人族である。
そのような場所なので武芸者みたいな人々が行くような所だ。
「なんで竜人大陸なんかに?」
「ああ、それは追々話す。今大事なことを思い出した。アルテイシア、お前名前変えろ」
「嫌です」
「即断るんじゃねえ!」
「私はヴァルハートという家を捨てました。父様と母様に貰った大事な名前まで変えたら繋がりがなくなっちゃう気がする。そんなのは嫌だ」
「わかってるのか?名前がそのままだと危険な目に会う可能性が上がるんだぞ」
「たとえ身を滅ぼす可能性があっても捨てたくないものもある」
「はぁ。お前はリリに似て我儘でグレイに似て体力なくて……。本当に二人を足して割ったみたいな奴だな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「じゃあアリア!せめて愛称を本名にしろ」
「それなら妥協してもいいよ。あ、そろそろいいかな」
私は石鍋でグツグツと煮込んでいた干し肉しか入っていないスープをよそって父さんに差し出した。
「ああ、すまんな」
「こういう時は『ありがとう』って言うべき。そんなんじゃモテませんよ」
「…………」
「ちょっと、図星突かれたからって睨まないでほしいんだけど」
「いや、同じこと言われたことあってな。二人目だ。それを言われたのは」
「なるほど。その人に振られて傷心した結果結婚してないと」
「振られてねえよ!」
「この話は終わりにしよう。私はこれ以上傷を抉りません。ほらそれよりも食べよう。いただきます」
「人の話を聞け!まったく……。いただきます」
「ごめん。スープ不味い」
やっぱり少量の干し肉だけじゃダメみたい。とてつもなく味の薄い出汁を飲んでいるようだ。
せめてあと2~3種類くらい具があればいいんだけど、そこらへんのキノコなんか入れたら死ぬかもしれなしなぁ……。食べ物関連の勉強しとくべきだった。
始めて作ったスープはとりあえず硬い乾パンと肉が柔らかく出来るだけの代物となってしまった。はっきり言ってただのお湯みたいなものだ。
あぁ……トニの料理が食べたい。
「そうか?俺は硬えまま食ってたからな。こうして柔らかくしてもらえただけでも満足だ」
父さんは荒い手付きでガシガシと頭を撫でてきた。
慰めているつもりなのかはわからないけど撫で方が乱暴すぎる。本当にこの人は元貴族だったのだろうかと疑問に思ってしまう。
いやこんな性格だからこそ生きにくくて冒険者になったってことかね?
夕食を食べ終えた私達は寝ることになった。
でも寝ると言ってもどうやって?地べたに直接ですか?そんな野性的な寝方は前世ですらしたことないんですけど。
困惑する私を放置して父さんは侍の如く木に寄りかかっている。
仕方がないので地べたに寝転がってみた。固くて痛い。そして地面は冷たく寒い。
「うぅ……硬いよ痛いよ寒いよ」
「うるせえな!」
「しかたないじゃん!今までベッドで温々と寝てたんだもん。それにここ一年は毎日温かい抱き枕もいたし、ちっちゃい頃も母様と毎日一緒に寝てたんだから!」
「お前さ、王子の愛人になったほうがいいんじゃねえの?」
「うぐぐ、あ、愛人は断腸の思いで受け入れられても軟禁は嫌だ!部屋の扉を眺めているだけの空っぽの人生送りたくない!」
「リリの娘だもんなぁ。軟禁したらそれだけで一ヶ月後死んでるかもしれん。しかたねえこっちこい」
父さんはマントを広げ、さあ来い!というような体勢を取っている。
「父さん。やっぱロリ……」
「もういい。知らん。地面で勝手に寝ろ」
「ごめん!もう言わない!言わないから哀れな私めに胸をお貸しください!」
謝るとやれやれといった感じでもう一度マントを開いてくれた。
母様にツンデレとか言っておいて貴方も十分ツンデレですね。ふふふ。
父さんの胸に飛び込むととても温かった。ああ、これなら寝られ……ない!
「父さん臭いよ!今すぐ脱いで!」
「おいこらやめろ!服が破けるだろうが!」
その後服を脱がせ体を拭いたことにより私はようやく安息の地を手に入れたのだった。
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