第43話天気が良ければ魔物も元気
パーティーから十日が経過した。
すでに雪は完全に溶け、気候は春のような心地よいものとなった。
そんなわけでお仕事再開である。
「気をつけて。ちゃんと無事に帰ってくるのよ」
「当たり前だ。お腹の子を残して逝けるわけ無いだろ」
「安心してリサ姉。父さんのことは私が守ってあげるよ」
当然のことながら妊婦のリサ姉はお留守番だ。
私は妊娠しているせいか心配性になっているリサ姉を安心させるべく、自信満々に強気の発言をして自らの胸を叩いた。
「アリアが守ってくれるなら安心ね」
「おいおい。俺はちゃんと自分の身は自分で守れるぞ!」
「何言ってるのよ。ラウルは一番弱いじゃない。心配よ」
「リサ、それは言わないでくれ。本気で傷つくから」
「がっはっは。まあ奥さん、ラウルのことは俺も守ってやるから安心しろや」
「ガイさんもそう言ってくれるなら、もう心配することはないわね」
リサ姉が離脱したことで戦力が減ってしまったので、今まで少し離れた位置から見守ってくれていたガイさんら親衛隊が助っ人としてパーティーに入ってくれることになった。
今回はガイさん、パトリックさん、ケビンさんの三人が加わってくれることになった。全員冒険者歴10年以上のベテランだ。心強い。
「じゃ行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
―――
町を出発してから半日、私は久々に疲労感を覚えていた。魔物が多いためである。
ガイさんによると天候が悪いことで動きが鈍るのは魔物も同じようで、雪解け直後は魔物が活発になるようだ。
特に獣系や虫系が顕著で、飢えたクロウウルフの群れに襲われたり、森の中でもないのに
おかげさまで皆が戦闘中の周囲警戒がどれだけ大事かというのを今更身を持って感じた。
今までとは違い仲間が戦闘中に目に見える範囲に他の魔物がいるため、いつそいつらが襲いかかってくるか常に気をつけていないといけない。
周囲の警戒だけならいいのだけど、当然目の前の敵から目を離すわけにもいかない。
一度周りを気にしすぎて敵から目を離したら、クロウウルフに噛みつかれそうになった。
リオンが気付いてカバーに入ってくれたから良かったものの、危うく血まみれになるところだった。
本来ならば私が魔法で仲間の援護をしないといけないのに、逆に守られてしまうとは……。
現在、冒険者になってから初めて挫折を味わっている。
「はぁ」
「まあまあ嬢ちゃん。落ち込むなよ」
「だってカバーが仕事の人間がカバーされるなんて……」
「嬢ちゃんはまだまだルーキーなんだ。仕方ねえよ」
「ルーキーって、もう少しで冒険者始めてから一年になるよ」
「二十年冒険者をやってる俺からしたら一年なんて赤ちゃんみたいなもんだ。失敗は誰にでもある。次同じ失敗をしないように頑張ればいい」
「うん」
この日は気疲れしたこともあり宿屋に泊まっているときのようにぐっすり眠ってしまった。
本当は見張りの交代しないといけないというのに。私の扱いが姫過ぎる。
何が父さんのことは守ってあげるだ。情けない。
翌日も相変わらず魔物が多い。
そのせいでこれ以上狩っても持ち帰れないので、皆が一旦町に帰るかなんて相談をしている時だった。
相談に参加していなかった私が異変に気づき、ガイさんに問う。
「ねえガイさん。あっちで土煙上がってるんだけどなんだろう」
「うーん。土煙が凄くて良く見えんな。リオン坊、お前目がいいだろ。見えるか?」
ガイさんに問われたリオンがジッと目を凝らす。
「…………。でっかい猪みたいな影が」
「
そのため自身の体より硬いものにぶち当たると怪我をしてしまうというおちゃめな一面がある魔獣である。
そんなおちゃめな一面があるとは言え、普通の人間が撥ねられれば命はない。非常に危険な魔獣だ。
「なんかこっちに向かってきてない?」
「まずい。全員散開しろ!撥ね飛ばされるぞ!」
ガイさんが指示を出した時、すでに土煙は目前まで迫っていた。
速い。新幹線みたいなスピードだ。
土煙のせいで
私の身体能力ではうまくかわせない。そう思い咄嗟に魔力障壁を展開した。
「魔力障壁で受け止めるからその隙に攻撃お願い!」
「真正面から受け止めるつもりか!?」
私が叫んだ次の瞬間、ドーンッ!っとまるで交通事故でも起こしたかのような音と共に障壁にもの凄い負荷がかかった。
「ぐぎぎ!」
「嬢ちゃんはなんつう危険な真似をしてるんだ!」
なんぞこれ!?めちゃくちゃ重い!
実際に体をぶつけ合っているわけではないけど、まるで相撲をしている気分だ。
気を緩めればより切られてしまいそうだ。
これはスポーツじゃない。寄り切り=デスだ。負けるわけにはいかない!はっけよいのこった!
「はああっ!!!」
私が必死に
リオンの声がしてからすぐに障壁に対する負荷がなくなったので、私は恐る恐る障壁を解除、弱い風を起こし土煙を晴らした。
土煙が晴れるとそこに居たのは首が切り落とされた突撃大猪と、目から大粒の涙を流すリオンの姿があった。
「どうしたの!?どっか怪我した!?」
「怪我はしてない。だた少し目に砂が入っちゃって涙が止まらない」
何の対策もなしに土煙の中に飛び込んだのだから目にゴミが入るのは無理もない。
私は急いでリオンの元へと駆け寄ると魔法で水を作り出しリオンの目を綺麗に洗い流した。
「ありがとう。もう大丈夫」
「あ、うん」
相変わらずリオンの瞳は綺麗だなぁ。
瞳に少し見とれているとガイさんが呆れた声で喋りかけてきた。
「あのよ、前から思ってたけどお嬢ちゃん達の戦い方って大雑把過ぎねえか?」
「そうかな?」「そうですか?」
「おいラウル。二人にもう少しスマートな戦い方ってのを教えたほうがいいぞ」
「こいつらは規格外過ぎて俺の手には負えん。そんな事言うならガイが教えてやってくれ」
「まあ確かに、この二人に細かなことを教えるのは骨が折れそうだな……」
「冒険者ってのは生きてれば勝ちなんだから、内容なんて気にしなくて良いんじゃないか?」
「はっ!ちげえねえ。ラウルもなかなか良いこと言うじゃねえか。お二人さんは似たもの夫婦ってことにしておくか」
「ちょっ!ガイさん!夫婦って!」
私は顔を真っ赤にして声を張り上げた。
「なんだ?まだ二人はそういう関係じゃないのか?」
「当たり前だよ!清い関係だよ!」
「皆の前で抱っこをせがんだりしてたのに何もないのか?」
「何もないよ!」
「へー、二人共奥手なんだな。俺が嬢ちゃん達の年齢の時は可愛い子にちょっかい出しまくってたぞ。おいリオン坊!おめえも男ならガツガツいけ」
「そんな事言われても……」
ガイさんの言葉にリオンはタジタジといった様子だ。と、そこにヴィーの叫び声が辺りに響く。
「み、皆さん!あ、あれ!あれ見てください!」
「今度は何だ!?」
ヴィーが慌てた様子で空に向かって指をさした。その方向に皆が一斉に空を見上げる。
「おいおい……。なんでこんなところに大物が来るんだよ。勘弁してくれ」
父さんは口をあんぐりとあけ、絶望的な表情で呟く。
「グオオオオオッ!!!!!」
皆が見つめる先にいる、空を飛ぶ大いなる存在がこちらに向かい咆哮を上げた。
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