第49話リオン②
ラウルさんという壁を超えてから更に二年が経過した。
一心不乱に強さを求めていた俺はいつの間にか町でトップ3に入るのでは?なんて言われるほどになっていた。
「これ以上強さを求めるなら殺し合いになる。どうするかね?」
師範の言ったことは薄々感じていたことだった。
相手が強ければ強いほどお互い加減が出来ない。達人クラスを相手にしたら相手の身のことをかまっている余裕はないのだ。
実際、俺自身も一度骨折してしまったし、相手に大怪我を負わせたこともあった。
「帰ります」
迷いなく答えた。
修羅になるために剣術を習いに来たのではない。俺はアリアを守る力を得るために来ただけなんだから。
こうして俺たちは約四年ぶりにウルマへと戻ることになった。
リサさんの家に着くとそこには天使がいた。
手入れされた艷やかでサラサラな白真珠色の髪。ひと目見つめられれば目が離せなくなるほど可愛らしいくりくりした金色の瞳。服の上からでもわかるほどの美しいボディライン。トドメにいい香りまで漂わせている。
14歳となったアリアは四年前とは違い、可愛さだけでなく大人の色香みたいなものを兼ね備えた女の子になっていた。
そんなパーフェクトな美少女となったアリアに見惚れていると突然アリアが抱きついてきた。しかも服の中に手を突っ込んでペタペタと触ってきた挙げ句、一緒に寝ようなんて言い出した。
俺は難色を示した。当然だ。俺はまだ子作りは出来ないけど、そういった行為自体は出来てしまうんだ。こんな美少女と二人きりで同じ布団の中に入ったら我慢出来る気がしない。
しかしアリアは難色を示す俺に対して、胸を揉んでもいいから一緒に寝てと言う。
どうやらハグ大好き娘だったアリアは、この四年間リサさんに調教されたせいでハグ中毒患者になってしまったようだ。
俺はアリアの勢いに押され仕方なく再会した初日から一緒に寝ることになった。いや実は仕方ないなみたいな態度をとってはいたけど、飛び上がるほど嬉しかった。好きな女の子を抱きしめて寝られるだなんて、これ以上の幸せはないだから。
アリアと一緒に眠るという天国のような地獄のような日々がスタートした。
アリアを抱きしめて眠るのはこれまでの人生で一番の幸福と呼べる最高の
だがしかし俺は男だ!アリアのようないい香りのする大好きな美少女を抱きしめていれば性的な興奮もしてしまう。これを抑えるのが本当に大変で地獄だった。
無理やり犯してアリアを泣かすわけにはいかない。そんなことをして、もしアリアに嫌われたら俺は生きてはいけない。
そんな風に考えて耐えた。まあ欲に負けて何度も胸を揉んでしまったのだが……。
この天国と地獄が表裏一体となった生活はヴィナティラさんと出会うまでの約一ヶ月間続いた。
ヴィナティラさんを仲間に加えた俺達は本格的に冒険者としての仕事を開始した。
アリアとの冒険は相変わらずドキドキの連発だった。虫に驚いたアリアが俺に飛びついてきて顔面に胸を押し付けてきたり、媚薬花で我を失ったアリアと濃厚なキスをしたり……。アリアが引き起こすハプニングは俺にとってはご褒美みたいなものだった。
パットの虐待を、厳しい剣術の修行を耐えてきてよかった。生きててよかった!心からそう思った。
しかしここに来てある疑問が俺の中で再燃した。何故アリアは他の誰でもなく俺に抱きついてきたり、キスをしたがったのか。
パーティーリーダーのラウルさんの方針もあり、あまり強い魔物とは戦わないし、格好いいとこを見せる機会はほとんどない。むしろ強い敵はアリアが倒してしまって俺は見てるだけだった。なんで俺の好感度が高いのか理由がわからなかった。
どうしても気になったのでラウルさんに聞いてみることにした。
「アリアが好意的な理由か」
「はい。出会った時から俺は格好いいところを見せたことがない。はっきり言って好かれる理由がわかりません」
「俺の予想では2つの理由がある。でもこれを聞いたら幻滅するかもしれないぞ」
「俺がアリアに幻滅するなんてことは死んでもありえない」
「そこまで言うなら教えるけどよ……顔だ」
「顔?」
「そう。あいつはかなり面食いだ。その証拠にあいつは昔、俺に襲われることになっても恨まないみたいなことを言っていた。自分で言うのも何だが俺は顔はいいだろ?そしてお前も俺ほどではないが顔が良い」
アリアはラウルさんに対してそんなことを言ったことがあるのか。そういえば再会した時ラウルさんにのしかかられても一切抵抗してなかったな……。
「あと最近の事だと宿屋の息子のクードのことは抱っこしようとしてるが、酒場の息子であるイラには目もくれねえ。単純に子供を抱っこしたいだけなら恥ずかしがり屋で逃げるクードよりも甘えん坊のイラの方がいいはずだ。違うか?」
言われてみればアリアはクード君のことしか抱っこしようとしない。
アリアにたまに追いかけられているクード君はとても可愛い男の子で将来イケメンになりそうな子である。対してイラ君は……。ノーコメントだ。
「でもそれだとヴィナティラさんは」
「お前なかなか失礼な奴だな!ヴィナティラはブサイクじゃないぞ。確かに目つきはあまり良くはないが、目以外のパーツはかなり良い。試しにヴィナティラの目をアリアの目に変換してみろ」
俺は目を閉じてヴィナティラさんを思い浮かべ、ラウルさんに言われたとおりにアリアの可愛い眼を当てはめてみた。
「あっかなり可愛いかも」
「だろう」
「な、なるほど。面食いというのはわかりました。それでもう一つは?」
「たぶん匂いだ。子供の頃あいつ俺のことは臭いとか言って毎日体を拭こうとしてただろ?でもお前には臭いとか言わなかった。旅の間風呂に入れてないのは同じはずなのに」
「あー」
「なんだ?なんか心当たりでもあるのか?」
「アリアって抱きしめたときに深呼吸してることがよくあるんですよね」
「思いっきり匂い嗅いでるじゃねえか……。まあそんなわけでアリアは自分の欲望を他人に押し付けたり、見た目で好き嫌いもする娘だ。どうだ幻滅したか?」
「むしろ人間らしい一面を知れてよかったです」
「はっそうかよ」
俺はアリアのことを未だに神聖視してる部分があった。なので心の奥底では俺が穢していいのだろうかなんて思うことが少しばかりあった。ある意味この感情があったからアリアのことを襲わずに済んでいた面もある。
しかしラウルさんの話で確信した。アリアは女神なんかじゃなく俺と同じで普通の人間だと。ならば俺がパートナーでもいいよな?
外見と匂いが好みというのは大きなアドバンテージだ。後はどうにか内面も好きになってもらえればアリアを嫁に出来るはず。
そう考えこれからアピールを頑張ろうと思った。だけど今まで剣を一心不乱に振っていた俺に口説くスキルはなく、どうすれば女の子に好きになってもらえるかわからない。
こんな時俺が恋愛相談出来る女性といえばリサさんとヴィナティラさんくらいしかいないのだが、彼女らに相談すればアリアに相談内容が筒抜けになりそうだし、あまり相談したいと思えない。
じゃあラウルさんに相談する?いやいくら実の娘ではないとはいえ、娘さんを嫁にしたいので口説く方法を教えて下さいなんて言うのは気が引ける。
結局誰にも相談出来なかった俺は今まで以上に積極的にハグ撫でをしてアリアを甘やかしまくることにした。
その結果アリアは子供のように抱っこをせがむまでになった。抱っこをしている時のアリアは凄く幸せそうにしていて俺も幸せになることが出来た。
でも正直な話かなりこの体勢は辛い。種族柄成長が遅いと言っても俺はもう14歳だ。最近性欲の高まりをこれまで以上に感じる。
神聖さというヴェールを取り払ってしまったこともあり、アリアを抱っこしているとベッドまで運んで押し倒し蹂躙したい気持ちになってくる。
今はどさくさに紛れてアリアの首に唇を押し当てる程度のことで我慢出来ているが、このままじゃいずれ爆発してしまいそうだ。どうしよう……。
ドラゴンと戦うことになったのはこんな平和ボケした時だった。
この戦いで危うくアリアを失うところだった。俺は根本的な部分で臆病者だ。そのせいで様子見をすることが多かったせいか時間とともにドラゴンの猛攻に押され、アリアを危険に晒してしまった。
アリアを守るために勇敢で強い男になると誓ったというのに。己の不甲斐なさに歯ぎしりをした。
ひとまず聖女の力のお陰で容態が安定したアリアにほっとしたところでラウルさんから休息を取るように言われた。
肉体的、精神的に疲労していたこと。そしてアリアが無事で安心したこともあり俺はあっという間に眠りに落ちた。
夢を見た。夢の中で俺はアリアを己の欲望のままに犯していた。
目が覚めた俺は盛大なため息を付いた。こんな時にエロい夢を見るなんて最低だ。
自己嫌悪に
こ、この歳でおねしょ!?
ショックで呆然と立ち尽くしている俺を不審に思ったのか、ラウルさんが片足を引きずりながら様子を見に来た。
一瞬あまりの恥ずかしさにどのようにしてやり過ごそうかと思ったが、どう考えてもバレることだ。アリアとヴィナティラさんがいない今正直に話したほうが被害は少ないと思い直して、ラウルさんに事情を説明した。
「あー、まあよくあることだ」
ラウルさんが言うには命の危機に瀕した後、冒険者の性欲が強くなることはよくあることらしい。俺もその例に漏れず性欲が強くなった結果だろうと言われた。
そう。パニックでおねしょと勘違いしたが、パンツにぶち撒けてしまったものは男の証であるアレだったのだ。
俺はそそくさと予備のパンツに履き替えると汚してしまったものは処分した。
アリアが起きてくる前でよかった。どうにか恥をかかずに済みそうだ。
「そうそう、お前も男になったからにはアリアに触るのは禁止だ。どうしても触りたければ本人に許可を取れ。もし無理やり犯したら殺すからな」
「あっ」
そうだ。大人の男になったならばアリアの魅了の影響を受けてしまう。
これからは俺も他の男と同じようにアリアを避けなければいけない。アリアは何故自分を避けるのかと聞いてくることだろう。
そうなれば俺が大人の男の仲間入りをしたことを包み隠さず話さなければならない。
「詰んだ」
俺が恥をかくことは決定事項だった。
その後起きてきたアリアにラウルさんが事情を説明した。恥ずかしい。穴があれば入りたいとはこのことだ。
町へと戻った翌日、俺は少しイライラしていた。
本当ならドラゴン討伐の分前の話をするはずだったのだが、アリアの具合が悪く欠席ということと俺がイライラを誤魔化すために落ち着きがない行動をしていたためにすぐに解散となってしまった。ラウルさん達には申し訳ないことをしてしまった。
さて、何故俺はイライラしていたのか。それはアリア成分が足りないからだ!
俺は再会してからの約一年間毎日のようにアリアを抱きしてめきた。好きな女の子を抱きしめ、抱きしめ返してもらえる幸せがいきなりなくなったことが多大なストレスとなったのだ。
知らぬ間に俺はすっかりアリア中毒になっていたようだ。
ああ、アリアを抱きしめたい!!!その欲望を少しでも発散させるために部屋で枕を抱きしめているとヴィナティラさんがやってきた。どうやらアリアが俺に会いたがっているらしい。
俺はご主人さまに呼ばれた犬のごとく嬉々としてアリアの部屋へと向かった。
部屋に入った瞬間、驚くほど甘くいい香りが鼻孔をくすぐった。大人の男になった影響か、ただのいい香りではなく魅惑的な香りに感じる。
この狭い部屋に長居してはアリアを襲ってしまう。気をつけないと。そんなことを思いつつベッドの近くにあった椅子に座った。
椅子に座って少しすると俺はアリアの様子がおかしいことに気がついた。
異常に目を合わそうとしてくる。しかもその目つきは鋭く、まるで獲物を見つめる肉食動物のようだ。
ただでさえアリアと目が合うと抱きしめたくなるというのにこのように見つめられては堪らん。そう思って目をそらした時だった。アリアが飛びついてきたのだ。
「いきなり飛びついてくるなんて危ないよ!」
俺は全力で回避した。そのせいで椅子が吹っ飛び、壁に当たった衝撃で壊れてしまった。
「いだい……」
「あ、鼻血出ちゃってるじゃないか。ちょっとヴィナティラさん呼んでくる」
俺は慌てて部屋から飛び出した。
まったくアリアはなんて危険な事をするんだ!危うく襲ってしまうところだった。
・
・
・
その日の夜、夕食を取り終えた俺は相変わらず部屋で枕を抱きしめていた。
あああ!アリアを抱きしめたい!こんなことなら昼間避けなければよかったんじゃないか?
アリアから抱きついてきたのだ。例え襲ってしまったとしてもアリアは自分が悪いと言ってかばってくれたはずだ。
そんなことを考えていると、コンコンッとノックが響いた。
俺が入室の許可を出すと口紅をつけて更に可愛くなったアリアの姿があった。
アリアは部屋に入ってくると昼間以上に鋭い目つきで俺を見つめて、もはや睨みつけているというレベルでジリジリと近寄ってくる。
や、殺られる!そう感じた俺は咄嗟にアリアのタックルをかわした。
俺にタックルをかわされたアリアはベッドに倒れ込むと枕を抱きしめて恍惚としはじめた。
「頼むから急に飛びついてこないでほしい。襲ってしまう」
「襲えばいいじゃん」
アリアは何を言い出すんだ?不審に思いよく観察してみると頬は赤く少し酒の匂いもする。
「……もしかして酔っ払ってる?」
「お酒は飲んだけど酔ってはいないよ」
「でも酔ってなかったらこんなことしないでしょ。待っててヴィナティラさん呼んでくる」
「待って!ねえ。リオンは私のこと嫌い?」
「嫌いなわけない。好きだ」
「だったらいいじゃん。私はさ、リオンに初めてをもらってほしい」
「……本気?」
「冗談でこんなこと言うわけない」
好きな女の子が俺に抱いてほしいと言って見つめてくる。
俺は生唾を飲んでその瞳に誘い込まれるように一歩、また一歩とアリアに近寄る。
一歩踏み出すたびにアリアは様子がおかしい。誘いに乗っては駄目だ!という自分の心の声が聞こえてくる。
俺はその声を無視してアリアの目の前まで行き立ち止まった。そんな俺の頬にアリアがゆっくりと手を近づけてくる。
今ならまだ間に合う!避けろ!その声も俺は無視した。ずっと好きだった子を自分の物に出来るという欲望の方が勝ってしまったんだ。
―――
「うにゅ」
ベッドの中で自身の行いに対して仕方なかったという気持ちと、鋼の精神で我慢するべきだったのではないかという気持ちで揺れ動いているとアリアが身動ぎした。
なにかの夢を見ているのだろうか。表情がコロコロと変わる。そんなアリアに愛おしさを感じて頭を撫でた。アリアの髪はサラサラしていてとても撫で心地が良い。
頭を撫でていてふと気付いた。そういえば触れているのに昨夜のような体が言うことを聞かなくなる感覚がない。一回するとしばらくは魅了の強制力がなくなるのか?
そんなことを考えつつアリアの可愛い顔を見ながら頭を撫で続けていると愛おしい気持ちが溢れかえり、ついには爆発した。
「ごめんアリア」
我慢が出来なくなった俺は眠るアリアを少し抱き寄せてキスをした。
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