第16話別れと出会い

 昼過ぎ、ステイル王国ファリス領ペルクの町に着いた。

 直にファリス家へと着くことだろう。そうすればティモとはお別れとなる。

 次会えるのはいつになるかわからないというのに何も話すことは出来ず無言のまま馬車は進んでいる。


「そうだ忘れていた。これをアリアにあげるよ」

「えっ」


 ティモがくれたのは指輪のついたネックレスだった。指輪には綺麗な深緑の石がついている。

 はうあっ!もしかしてこれは婚約指輪!?

 この指輪が丁度いいサイズになるくらい君が成長したら迎えに来るよってことですか!?9歳の小娘になんてものを渡すんだ!


「どうしたの?赤くなって」

「だ、だって男が女に指輪を送るだなんて!」

「君何か勘違いしてない?結婚の約束で送るのは腕輪だよ」

「えっ!そうなの!?」


 この世界だと婚約指輪ではなく、婚約腕輪なのか!

 うわあああっ!昨日あんな会話したものだから盛大に勘違いしちゃったじゃないか!恥ずかしさで頭が沸騰するんですが!

 真っ赤になって顔を抑える私を見てティモが笑い出す。


「君は本当に面白い娘だ」

「うるさいバーカ!」

「あ、そんな事言うなら返してもらおうかなー」

「嫌です!一度貰ったものは返しません私の物です!」

「そんな抱え込まなくても奪い返したりしないよ。それ結構上等な風魔石だから君の役に立つと思うし大事にしてね。もし行商人とかが持っていたらさすがの僕も泣いちゃうよ」

「売らないですよ絶対に!なんなら墓場まで持っていきますよ」

「……。君はナチュラルに恥ずかしいセリフを吐くね」

「?」


 ティモは荒っぽい手付きでガシガシと頭を撫でてきた。

 この後ファリス辺境伯と話をしないといけないというのになんてことをするんだ。髪の毛がボサボサだ!

 じゃれ合っていると馬車が止まって御者に到着を告げられる。


「じゃあその指輪ネックレスを僕の形見だと思って大事にしてね」

「縁起でもないことを言わないでください!」


 この世界にはドラゴンだのがいるらしいし、どこで危険な存在と出くわすかわからない。

 もしかしたら彼の実力なら危険生物の討伐に参加するなんてことも考えられる。正直言って洒落になっていない。


「何泣きそうになっているのさ。はっ!もしかして君本当に僕のことが好きなの?アリアがその気なら婿になってあげても…」

「人のことをからかってばかりの師匠なんて嫌いです!」

「あらら、それは残念だ。じゃまた会おう」

「絶対ですよ!」


 ティモは後ろ向きでひらひらと手を振った。

 約4年間、毎日のように一緒にいた人なのに随分とあっさりとした別れとなった。

 また会えるのが当たり前って思えるような別れ方。悪くはないそう思った。




 ―――




 ティモと別れた私はファリス家の応接間へと通された。

 そこにいたのはこの世界の人族の容姿としてベターな茶髪に赤目で、疲れた顔をした男性だった。


「私がダレン・ヴィクトル・ファリスだ。隣り合っている領とは言え9歳の君にはきつかっただろう。申し訳ない。そして来てくれたこと感謝するよ」

「アルテイシア・ヴァルハートです。確かに過酷でした。お尻が痛いです」


 馬車旅はお尻にとって過酷だった。痔になりかねない。帰りも馬車のことを考えると憂鬱になる。どうにか帰りも無事に帰りたい。


「はははそうか。帰るときには良いクッションをプレゼントすることを約束するよ」

「ありがとうございますファリス様!」

「ふむ。とても礼儀正しい娘だ。やはりあの噂は嘘か」

「噂ですか?」

「君の父であるグレイはとても礼儀正しい良い娘だと手紙で書いていたんだが、それとは別に君には噂があってね。なんでも手がつけられないじゃじゃ馬だとか。暴れん坊だとか」

「確かに数年前はちょっとお転婆だったかもしれませんが今は違いますよ。誰ですかそんな酷い噂流したの」

「たしかあれはレジス王国の王都から来た者だった気が……」

「……スノウぅ」


 噂流したの絶対スノウじゃん!他に知り合いなんていないし。

 なんなんだよ。スノウって私のこと好きだったんじゃないの?好きな人の悪い噂流すなんて最低だよ。


「君はスノウ殿下とお知り合いなのかい?」

「スノウは遊び友達です」

「はっはっは殿下がお友達か。なるほどなんでこんな噂が流れてきたのか理解したよ」

「なんでですか?」

「悪い噂があれば男よけにもなるし、学園に通った時友達が出来にくくなるだろう。そうすれば君が気軽に話せるのは殿下だけだ。ま、簡単に言うとアルテイシアは俺の女だってアピールだよ」

「!?」


 なにそれ!友達ができなくて落ち込んで弱った私を籠絡するつもり!?いつの間にそんな姑息な真似をするようになっちゃったんだ!


「君も王族に目をつけられるなんて大変だね。同情するよ」


 3年後の学園どうなるんだろう。今から気が重い。


「さて、君はとてもいい娘みたいだし、今からすぐにでもメルに会ってみてもらいたいのだけど」

「いえ、今日会うのはやめておきます。やっぱり出会いはインパクトあるほうがいいと思うんです」

「インパクトね。でもあまり無茶なことはしてもらいたくないんだけど。うーむ」

「作戦があります。任せてもらえませんか?」

「……わかった。優しく見守るだけじゃ何も変わらなかったんだ。君に任せてみよう」

「ありがとうございます!それと私芸人になります!」


 芸人というのはお客さんを笑わせるためにあの手この手を尽くす。その結果、空回りして嫌われてしまうことだってある。

 でもどんなに空回りしても最後にお客さんに笑ってもらえたら芸人の勝ちだ。

 私はどうすればリディアに笑顔を取り戻すことが出来るかなんてわからない。だから空回りして嫌われるかもしれない。

 でもそうなったとしても諦めない。嫌われても無視されても最後には笑顔にしてみせる!

 道化王に私はなる!




 ―――




「きゃーーー!」


 翌朝、ファリス家にリディアの叫び声が響いた。私はその叫び声が目覚ましとなり起きる。


「おはようリディア」

「あ、あなた誰!?なんで私のベッドの中に潜り込んでいるの!?」


 リディアはびっくりという感情が大きくて私に対して恐怖心は抱いていないようだ。よかった。


「私はアルテイシア。アリアって呼んで」

「あ、アルテイシアさん、なんでここにいるの?」

「もう私達の仲じゃん。そんな他人行儀にならないでよ。ほらまだ朝早いよ。もう少し寝よう」


 私はベッドから飛び出したリディアの腕を掴むと、無理やりベッドに引きずり込もうとする。


「い、いやっ!私もう起きるから!」

「そう?リディアは早起きだね」


 私は眠い目をこすりながら布団から這い出る。するとリディアは一歩後退りする。


「ん?」


 私は一歩リディアに近寄る。するとリディアはまた一歩下がる。

 うふふ。なんだか面白くなってきた。


「なんで寄ってくるの。こっちこないでよ」


 私はジリジリとにじり寄る。するとリディアは後ずさり。それを繰り返すうちについにリディアは壁に背中を付けた。

 私は逃げ場を失ったリディアに抱きついた。


「ちょ、や、なんなのあなたは……離してよ」


 うーんやっぱり女の子の抱き心地は最高だね。寝てるときも抱きしめていたんだけど、なんとも言えない幸福感があるよ。


「アリアって呼んでくれたら離してあげる」

「……アリア離して」

「はーい」


 私は素直に離した。あまり押しすぎるのもよくないしね。

 引き際を間違えたら何の意味もなく嫌われちゃう。


「ねえ、アリアはなんでここにいるの?教えてよ」

「それはね、私達が親友だからだよ」

「何を言ってるの?私達今が初対面だよ」

「私達は生まれる前から親友だったんだよ」


 私は髪をかきあげナンパ師が「君とは赤い糸でつながっている気がするよ」って言う感じでリディアを見つめた。


「頭大丈夫?」


 頭の心配をされてしまった。悲しい。


「そうそうリディアに親友として言いたいことがあるんだよ」

「何突然」

「抱きしめてて思ったんだけどね。ちょっと臭うよ」

「!?」


 リディアは約二ヶ月間引きこもりだったせいか、女の子がさせてはいけない香りをまとっていた。なのでまずは早急に体を拭いてあげないといけない。


「というわけでー、ぬぎぬぎターイム!」

「きゃーーーっ!!!」

「うふふ、よいではないかよいではないか同じおなご同士じゃ」

「わかった脱ぐから!自分で脱ぐから!脱がすのやめて!」

「はーい」


 私は桶に魔法で水を張り、石鹸水を作るとパンツだけとなったリディアの体中をフキフキしてあげた。

 リディアは拭いている間とても恥ずかしそうに俯いていた。私はというとちょっとだけ大人な身体になっている女の子をフキフキしてたらなんだかドキドキしてきた。はぁはぁ。


「じゃあ最後に大事なところだけど……」

「自分でやるから!」


 さすがに断られてしまった。でもちょっと安心した。




 うん。キレイキレイになりましたね。あの女の子が出してはいけない香りは消えました。


「じゃ次ー!」

「まだなにかあるの?」

「前髪だけでも切ろう!」


 今現在リディアは前髪で目が完全に隠れてしまうほどボサボサだ。ちょっと可愛くない気がするんですよ。


「ってわけでちょき―んとな」

「ええっ!?」


 私に美容師スキルなんてものはない。なので前髪パッツンにした。

 するとリディアの可愛いお目々が顕になった。人族は赤目が多いが、珍しくピンクっぽい色をしていた。


「可愛い……」


 ちょっとまってマジで可愛い。言っちゃ悪いけどダレンさんは平々凡々な顔つきだったのにどうしてこうなった!お母さん似なのかな?

 なんだか萌えてきちゃいましたよ!ちゃんと櫛で梳かしてあげないと!


「い、痛っ」

「リディアが髪のお手入れを怠ったのが原因でしょ!我慢して!」

「…………」


 うーん。櫛で梳いていたら頭の匂いが気になりました。ちゃんと洗わないと!

 私はチョッパヤでファリス家のメイドさんの所に行って香油を取ってくると魔法で桶にお湯を張って勝手に洗い出す。


「すごい。お湯も作れちゃうの?」

「むふふーん。まあね」


 リディアは諦めたのかなすがまま状態となった。人間諦めが肝心って時があるよね。

 髪を洗い終えると香油で香り付けと髪のケアをし、風魔法で髪を乾かす。

 最後に部屋を漁って見つけたリボンでツインテールにして完成!

 あわわ。リディアちゃん天使!


「リディアぁ好きだ!!」

「ちょっともうなんなの!?」


 私は香油の良い香りを纏ったリディアに抱き、しばらくの間堪能させてもらった。

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