第10話処理落ち娘
三人で勉強して、遊んで、時にはお泊り会なんかもしたりして。
そんな楽しい日々があっという間に五ヶ月ほど経過した。
ある日スノウは突然家に帰ると言い出した。旅立ちは三日後。
突然来て騒がしくして突然帰る。嵐みたいなやつだ。
「アリア!次会うのは学園だと思う。僕はそれまでに立派な男になってみせる。覚悟しておけ!」
「ん?ああ、頑張れ」
何を覚悟すればいいのだろうか?一応スノウは上の学年だ。先輩風でも吹かせるつもりだろうか。
年下の女に先輩風を吹かせる男とか格好悪いぞ……。
「アン!必ず僕が勝つからな!」
「負けないよ」
なんだか二人の間に特別な空気が流れている。
「僕が勝ったらお前を嫁にする!」「そう簡単に嫁に出来ると思わないでよね!」ってこと?
え?いつの間にか二人ってそういう関係なの?
最近はマルコさんも入れて4人で剣の訓練してたけど、その場で何かが育まれたのか?
あ!もしかしてさっきの覚悟しておけって、アンは俺のものにするからなってことか!?
アンは特殊な事情を持った子だから血筋の方は問題ないのかもしれないし。
「じゃあまたな!」
混乱する俺をよそにスノウは帰っていった。
おのれスノウ。中途半端な男になっていたらギッタンギッタンにして、そんなんじゃうちの
俺はそう心の中で決意するのだった。
―――
「なんかさ」
「うん」
「静かになったね」
「だね」
スノウが帰り二人で勉強する平和な日々に戻った。
しかし、一度あの騒がしい日々を過ごしたからか何か物足りなく感じてしまう。
「……」
なんだかスノウがいなくなってからアンはボーッとすることが増えた気がする。
その姿はまるで遠距離恋愛中の乙女だ。
おのれスノウめ、うちの
アンとの模擬戦。
アンが心ここにあらずなせいか、それとも俺が成長したのかはわからないけど初めてアンに魔法が当たった。
「いたた……。あーあ負けちゃった」
「なんだよ。今までずーっと勝ってたじゃんか。そこまで落胆することないでしょ」
「そうだけど。やっぱ悔しいな」
俺がちょっと拗ねたように言って手を差し出すと、アンは悔しそうにしながらそれを掴み立ち上がる。
あれ?いつの間にかちょっと体大きくなってるな。出会った頃は俺と同じくらいだったのに。
やっぱりちゃんとしたものを食べて、身体を鍛えてるからなのかな?
アンは顔が可愛いのだからあんまりでっかくなってほしくないな、なんて思いながら見つめていると、今日はもう帰る!と言って帰ってしまった。
カイルの迎え待たずに一人で帰っちゃったよ。大丈夫かな。というかそんなに俺に負けたのが悔しかったのかね。
アンが上の空になってから約一ヶ月が経過したある日、突然大事な話があるから二人で話したいと言われたので部屋に案内した。
もしや私もう我慢出来ない!スノウの所に行くわ!とか言われるんだろうか。
「明日旅立つよ」
「ず、ずいぶん急だね」
「一ヶ月前にはもう決まっていたんだ。でも言い出せなかった。
本当はお別れなんてしたくないから。アリアともっとずっと一緒にいたいから。別れの言葉が言えなかった」
そっか。上の空だったのはこれが原因だったのか。
スノウに対して嫉妬していた俺がバカみたいだ。
なんか別れで悲しいはずなのに、ここまで純粋な好意を向けられるとなんだか心が暖かくなってしまう。
「それで最後に謝らないといけないことと伝えたいことがあるんだ」
「謝る?」
「うん。ずっと嘘を付いてたから。えっと、実はその……」
非常に言いづらそうだ。
ふふ。そんなに思い悩んだ顔をしなくてもいいのに。俺はなんとなく察しているよ。君はどっかの国の姫様なんだろう?
事情があってうちの国に逃げてきてスノウと恋に落ちてしまった感じだろ?
さあ、さっさと秘密を打ち明けてスッキリとしなさい。
「俺は女じゃない。男なんだ!ごめん!」
「……えーっと、冗談?」
あ、あれ?思ってたのと違う。
てかこんな可愛い子が男の子なはずがない!
こんな可愛いのに男だったなんてことがあれば世の女子たちが暴動を起こしかねませんよ。
アンちゃんったら別れの暗い雰囲気をぶっ飛ばしたいからって何を言い出すんですか。もうお茶目さんなんだからはっはっは。
「アリアごめん!」
「ん?」
アンはそう言うと俺の手を自らの股間に押し当てた。
そこにはもう忘れかけていた懐かしい感触があった。今の俺にはない例のモノが、息子がいた。
今俺の手のひらの中には他人の息子さんがいる。はわわ、なんでこんな状況になっているんだ!?
混乱していると股間から手を退けてくれた。ホッ。
「な、なんで女の子の格好なんて」
「俺はまだ弱いから女の子を装ってなるべく狙われにくくしていたんだ。
それと嘘は性別だけじゃなくて、実は年齢も同い年じゃなくてこの前9歳になったんだ」
こ、こんな性別を偽ったり年齢を偽ったりなんてこと物語だけだと思ってたけど本当にあるのか。
さすがファンタジー世界だ。なんでもありだな。
だがよくよく考えてみれば、元の世界でもどこぞの武将は実は女だったとか論争があったような。
時代によってはこういうことは普通にあることなのか?
「……幻滅したか?」
俺が言葉を失っていたからか、アンは嫌われたのではないかと心配になったようで不安そうな表情でこちらを窺う。
「いやそのビックリしただけ。こ、この程度のことでアンのこと嫌いにならないよ。うん」
「よかった……。それとアランっていうんだ。俺の本当の名前」
アランはさっきから俺の手を取ったままずっと離さない。
そろそろ離してほしい。いくら子供とはいえ異性に手を取られずっと見つめられるのは精神的によろしくない。気恥ずかしい。
いや待て、アンはアランで男だったんだから異性じゃない同性だ。
しかし生物学的には異性だからやっぱり異性か!?
あ、頭がこんがらがってきたぞ。あわわ。だ、誰かたしゅけて。
「ア、アランさん。伝えたいこと伝え終わったわけだしそろそろ手を離してくれませんか?」
「今のは謝罪のほうであって伝えたいことではない」
な、なんなんだよもう。まだなにかあるのかよ。
スノウとの男同士の熱いアガペーでも語られちゃうの?
俺はそういうのに理解ある世界から来たんだぜ!受け入れますとも、ええ。
アランの手を握る強さが一段と強くなり、見つめ合う形になる。
気まずい。言いたいことがあるならさっさと言ってほしいんだな。
すでにあたいのライフは0なの!もうゆるちて!
「俺はアリアが好きだ!」
「ふぁ!?スノウじゃなくて?」
「何を言っているんだ!?彼は男だ。俺はそっちのけはないぞ!」
「だって別れの時見つめ合ってなんか言ってたし……」
「あれはどっちが先にアリアをお嫁さんに出来る立場になれるか競う意味で言ったんだ!」
ということはスノウも俺のことが……?
待て待てあいつと俺は悪友なはずだろ!どこに惚れる要素があったんだ!?
いきなり泥を顔面にぶち当てる女のどこがいいんだ。あいつはドMか!?
アランにしてもそうだ。俺はずっとアンとして、女の子扱いをしてきた。
抱きついたり、頭撫で回したり、髪型いじって人形のように扱ったり。
好かれる要素がないだろ?むしろ男としては恥ずかしいはずだ。嫌われてもおかしくない。
わからない。わけがわからない。
さっきから心臓の音がドキドキとうるさい。
子供に告白されて動揺なんて格好悪いって?
しかたないだろ。俺は前世で告白したこともされたこともないんだ。
ドキドキしちゃうよ。たとえ同性?であってもさ!
「返事は聞かない。だってアリアは俺のことをそういう目で見ていないのわかってるから。
でも覚えておいてほしい。いつか君を奪いに来てみせる」
アランは俺を抱き寄せると頬にキスをした。
「次会う時は唇をもらうから」
そう言ってアランは顔を真っ赤にして走り去っていった。
俺は機能停止した。我が演算能力では処理できないほどの負荷がかかったためである。
どのくらい時間が経ったのだろうか。復旧すると目の前には父と母がいた。
「ようやく気付いた。さあ何を言われたのか話してもらおうか」
父はにこやかに笑っていたが、なんか怖い笑みだった。
「アリアを嫁にほしいならリリを倒してからにしてもらおうか」
事情を話すと父は意味不明なことを言い始めた。
そこは俺を倒してからだろと思っていると母は「腕がなるわね!アリアのことは私が守ってあげるわ!」と張り切っていた。
父と母の役割が通常とは逆だ。まったくうちの両親は変な夫婦である。
次の日、俺は上の空で勉強をしていた。
当たり前だろ昨日あんなことがあったんだし。
そんな俺のことをティモはニタニタと見つめてくる。
あれは何があったかわかっている顔だ。わかっていて悩む俺を面白がっているんだ。
この野郎、牢獄に閉じ込め泣いて許しを請わせてやる。
しかし危険を察知したティモは突然抜刀し、俺の土壁を一刀両断した。途中で壊された魔法は形にならず魔力は霧散した。
「アリア、発動速度がまだまだだよ。精進するように」
ぐぎぎ馬鹿にして!絶対いつか泣かせてやるんだからな!!
―――
---おまけ9話お泊り会---
くそ!こいつはなんで呑気に寝ていられるんだ。人の気も知らないで!アリアに腕枕で抱かれドキドキしてなかなか寝付けないスノウは心の中で悪態をついた。
意識のない好きな女の子が真横にいて、更にはその娘に腕枕されている今の状況は非常にマズイ。
ちょっとくらいお触りしてもバレない。そんな卑しい感情がふつふつと湧き上がってくる。
女の子の身体に興味を持つのは男の性だ。スノウを悪く言えるものなどそう多くはいまい。
スノウは己の欲望と必死に戦っていたが、まだまだ夜は長い。どう考えても我慢出来るはずがない。そう思ったスノウは意を決して小さな声でアンに話しかけた。
「おいアン起きているか。というか頼むから起きてくれ」
「起きている」
「よかった。アリアを少しそっちに移動させてくれないか?このままひっついていたら己の欲望に負けそうだ」
「無理」
「何故だ!?お前は親友を守る気はないのか?このままでは僕は暴漢に成り果ててしまう。だから頼む」
「俺も男だからスノウと同じ感情に支配されている。ゆえに無理だ」
「お、男だと?何を言い出すんだ。こんな時に冗談を言っている場合じゃないぞ」
「なんなら俺の股間を触ってみるか?」
「本当なのか?くっ、だから僕のことを目の敵にしていたのか」
「そういうこと」
「今まで散々いい思いをしやがって。このことをバラしたらどうなるだろうな?」
「もしバラしたら、将来権力を持った時にはレジスに攻め込んでやるからな」
「おい、どこの国かは知らないがこんなことで戦争をするなどお前は馬鹿か」
「こんなことではない。重要なことだよ」
「くそっ。と、とにかく今は僕たちが争っている場合じゃない。この状況どうやって凌ぐ?」
「本来はこんな事したくはないけど緊急事態だ。お互いの体に手を触れさせるのはどうだ?監視しあっていることになる」
「わかった。その案でいこう。しかしアリアに抱きつくことになるのだが、僕は目が覚めたアリアに殴られやしないだろうか」
「アリアは抱きついたりするのが好きな子だ。だからたぶん大丈夫だ。それに先に起きれば問題ないだろう?」
「そうだな。だが万が一僕が寝ていたら起こせよ。頼むぞ」
「わかった約束する」
こうして男二人は眠れぬ夜を過ごしたのであった。
結局一番最初に目を覚ましたのはアリアであった。男二人は深夜までもんもんとしてなかなか寝付けなかったため当然と言えよう。
目が覚めた瞬間こそ二人に抱きつかれていることに驚いたアリアだったが、その後二人の目が覚めるまでハーレム気分を存分に味わえたためにその日一日機嫌が良かったのであった。
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