第51話旅立ち②
「まあ生々しい話はそこらへんにしておいて分前と今後の話もしよう」
「奥手なリオン君をもっと焚き付けたいのだけれども」
「義理とはいえ娘の男関係の話を聞くのはあまり気分のいいもんじゃないから勘弁してくれ」
父さんナイス!
これ以上リサ姉がリオンにあれこれ吹き込んだら本当に16歳くらいでママになりかねない。まだまだ私は子供だ。さすがに16歳でママになるのは早すぎる。
早く今後の話とやらに話題をずらそう。
「今後って?」
「単刀直入に言う。お前は冒険者をやめろ」
「え!なんで?」
「俺はお前を引き取ってすぐに命の取捨選択の大事さを教えたはずだ」
「リオンと出会った時の話?それがどうしたの?」
「それがどうしたの?じゃない!お前はドラゴン戦で俺が教えたことを守れなかった。あの時冒険者なら俺のことは見捨てるべきだったんだ」
「そんな事言われても大事な人を見殺しになんて出来ない。父さんも私も結果的に死ななかったんだからいいじゃん」
「いいわけないだろ!」
うわ!びっくりした。いきなり大声出してテーブルを叩かないでほしい。
リオンに抱え込まれてなかったらビビって悲鳴を上げてたかもしれない。
「な、なんだよぉ。そんな怒らなくてもいいじゃん。むしろ守ってあげたんだし感謝してほしいんですけど」
「お前には感謝してもしきれない。危うく自分の子供の顔を見れずに死ぬところだったんだからな。靴を舐めてやってもいいくらいだ。だがそれとこれとでは話が違う。あんなふうに命を投げ売っていたらいくら命があっても足りないぞ」
実際に生命力が尽きかけてリオンを誘惑してしまった私は言い返せずに押し黙った。
「一応生命力を補充する方法はわかったみたいだが、そう簡単に補充出来るものでもないだろう?」
「……そうだね」
まず生命力をもらうには体を許さないといけないのが問題だ。誰でも彼でも股を開くようなビッチにはなりたくない。
また相手の生命力を半分奪い取るというのも問題だ。好きであれば好きであるほど相手の寿命を奪い取りたくなんかない。
寿命を奪い取っても罪悪感が湧かない相手と言えばリオンを虐待していたパットのような悪人だけど、あんなクズ男になんか抱かれたくない。あんなのに抱かれるくらいなら死を選ぶ。
そう考えると生命力の補充方法は有って無いようなものだ。
「親より先に死ぬなんて親不孝なことはしてくれるな」
「ごめんなさい」
「わかってくれたならいい。そういうわけだからお前は冒険者として生きるのは禁止だ」
「でも冒険者を辞めたらどうやってお金稼げばいいの?商人にでもなれってこと?」
「ドラゴンの討伐資金があるから金の心配なんか当分の間する必要ない」
「そういえばいくらくらい儲かったの?」
「ギルドに手数料を取られたうえで俺らの手元にくるのは金貨5000枚程度だ」
金貨5000枚って5億円くらいだよね。それを5人で分けると……凄い!億万長者だ!
「お前らがいない時に話し合った結果、お前とリオンで7割。残りの3割を俺とヴィナティラとガイで1割ずつもらおうかってことになった」
「公平に分けないの?」
「お前とリオンの二人で倒したようなもんだぞ。1割ですらもらい過ぎだと思う」
「私としては公平に2割ずつでもいいんだけど」
「ありがたい提案だがそれは辞退させてもらおう」
「公平に分けるなんてありえないです。私なんかアリアにひっついていただけですよ」
「ヴィーが一緒に居てくれたから足が震えずに戦うことが出来たんだよ。あの時のヴィーは格好良かった」
「も、もう!」
まっすぐヴィーの瞳を見て言うと照れたのかニマニマしだした。ヴィーは必死に平静を装うとしているがニヤついた表情が隠せていない。
可愛い。リオンにがっしりとホールドされていなければ抱きついているところだ。
「リオンは父さんが言った通りでいいの?」
「俺はアリアが良ければ何でもいい。お金の管理はアリアに任せる」
相変わらずリオンはお金を私に押し付けてくる。以前ヴィーが夫婦みたいとか言ってたけど、もしかしてお金を渡してくるのはリオンなりの外堀を埋めるための作戦なのだろうか。
うーん。今まで自分の我儘を通すことばかり考えてたからリオンの考えがわからない。
というかさっきからリオンのスキンシップが激しい。凄いスリスリしてくる。まさか自分がスリスリされる側になる日が来るとは思わなかった。
うー凄い恥ずかしい。今まで私にスリスリされてた人はこんな気分だったのか。ごめんヴィー。もう人前ではしないからね。
「冒険者辞めたら何しようかな。父さんは明日からどうするの?」
「せっかくお前のお陰で生き延びたのに、次の仕事で死ぬなんてことになりたくねえからな。子供がある程度成長するまではゆっくりするつもりだ」
「そっかー」
むぅ。本当にどうしよう。
今まで父さんが敷いてくれたレールの上にある目先の幸せを追っていたせいで何をしていいかわからなくなってしまった私は考え込んだ。
「あの、よければ私と一緒にアリアも学園都市に行きませんか?」
「学園都市に?」
「はい。学園都市には性質上多くの研究者がいると聞きます。そこで信用できる優秀な人を見つけて聖女の力をどうにかする方法を探すべきだと思います。このまま放って置いたらアリアには辛い人生が待ち受けてますから」
ヴィーが私以上に私の人生のことを考えてくれている。心がポカポカしてきて今すぐに抱きつきたい衝動に駆られた。
しかし私のパワーではリオンのホールドから抜け出すことは出来なかった。
「ちょっと苦しいよ」
「ごめん」
リオンは謝罪の言葉を口にするも私を離すつもりはないらしく力を緩めようとはしない。仕方がないのでそのままスリスリされながら話を続けた。
「リオンは学園都市に行くことどう思う?」
「俺は賛成かな。ついでに勉強できるし」
リオンは全く悩む素振りを見せずに学園に行くことに賛成した。
「勉強?算数とか読み書きみたいな簡単なことなら教えてあげられるよ」
「俺って尋常じゃないくらい勉強が苦手なんだ。ラウルさんに少し教えてもらったけど全然でさ。きっとアリアはがっかりすると思う」
そこまで言うほど勉強が苦手なのか。てことはお金を渡してくるのも実は作戦とかじゃなくて単純に管理が上手く出来ないってことなのかも。
「がっかりなんかしない。誰しも得意不得意があるのはふつうのことだよ」
「でも出来れば好きな子に格好悪いところを見せたくはないし、別の人に教わりたいかな」
「そっか」
別に勉強出来ないことを格好悪いとか思わないけどなぁ。男のプライドってやつだろうか。
「ちょっとだけ考える時間もらっていい?」
「もちろん。でもいい返事を期待してますよ。……アリアと離れ離れになるのは寂しいですからね」
「え?今なんて?もう一回」
「知りません!」
あまりに可愛いことを言うのでもう一度言わせようとしたらヴィーは顔を赤くして部屋から出ていってしまった。
今すぐ追いかけてご機嫌を取りたいところだけどリオンが離してくれなかったので追いかけることは出来なかった。
私はいつまで抱きかかえられていればいいんだろう。自分でぬくもりを求めたので今更止めてとも言えないしどうしよ。
その後一時間程度リオンには離してもらえずに心臓に負担をかける時間を過ごしたのだった。
・
・
・
その日の夜問題が発生した。流れでリオンと二人で寝ることになったのだが……。
寝 ら れ ない!!!
前までなら抱きしめられると安心してすぐに寝付けたのに、今はドキドキしてむしろ目が冴えてしまう。
ただでさえ目がぱっちりなのに下半身に硬いものが当たっているのも目が冴える原因の一つだ。昼間、無理には襲わないみたいな紳士的なことを言っていたけど、あれは建前だったのかもしれない。うぅ私、襲われちゃうのかな。
そんなことを考えていると耳元で囁くように名前を呼ばれた。
「アリア」
「ハイッ!」
リオンが望むなら拒否はできない。私はリオンの命で生きているんだ。リオンは私を好きにする権利がある。
昔、奴隷のようには生きたくないなんて家を飛び出したけど結局逆らえない相手が出来てしまった。私は誰かの言いなりになる運命なのかもしれない。
そう。これは仕方ないことなんだ。受け入れるしか無いんだ。
「我慢ができない」
「や、優しくお願いしますって、え!?」
リオンは私の服を脱がすのではなく、お姫様抱っこをすると部屋を飛び出した。
「ちょどこに?」
「ヴィナティラさんの所に」
えええ!?待って待って!まさかヴィーもまとめて食べるつもり!?初体験の次の日に3Pなんて業が深すぎるって!
男は狼なんて言葉があるけどリオンは普通の狼じゃない!大狼だ!
「私のことは好きにしていいけどヴィーのことまで食べちゃ駄目だよ!」
リオンにだけ聞こえるように耳元で叫んだが、血走った目をしたリオンは私の言葉を無視してずんずんと歩いていく。
そしてヴィーの部屋に着くとリオンは勝手に扉を開け放った。ヴィー逃げてー!!!
「ヴィナティラさんお願いがある」
「んああ?」
ヴィーはウトウトしていたようで頭が回っていないらしいく、
時間にすると10秒程経ってからだろうか。ようやく目が覚めたようで驚きの声を上げた。
「人の部屋に勝手に入ってくるなんてどういうつもりですか!」
リオンは驚くヴィーに私のことを押し付けて部屋の扉の前に後退した。
「アリアと一緒に寝てあげてほしい」
「はぁ?なんで私が?」
「アリアと二人で布団の中に入っていたら我慢できない。襲ってしまう」
「襲っちゃえばいいじゃないですか」
「昼間にも言ったけどアリアの気持ちを無視して無理強いはしたくないんだ」
「……まあ言いたいことはわかりますけど。アリアはリオン君と一緒じゃなくていいんですか?」
「実は私もリオンに抱きしめられてるとドキドキして寝るどころじゃなかったからヴィーと一緒がいいかも」
「はぁ(関係を持ったことでようやくリオン君をちゃんと男として認識したのでしょうか)」
「そういうわけだから!おやすみ!」
リオンは足早に部屋から去っていった。
足音が聞こえなくなると私はホッとした気持ちになった。どうやら16歳でママになることはなさそうだ。
「いろいろ言いたいことはありますが、眠いので今日は寝ましょう」
「うん!」
私は元気よく返事をすると早速ヴィーに抱きついた。
これだよこれ!この安心感が欲しかったんだ!安心したら一気に眠くなってきた……。
ドキドキすることが多くて疲労していたせいか、私はあっという間に深い眠りに落ちていった。
―――
一ヶ月後、私は町の出口に立っていた。ヴィーの誘いに乗って学園に行くことにしたのだ。
ノヘナの町にいれば良い人たちに囲まれて幸せに暮らすことが出来る。でもそれは薄氷上にある幸せだ。
何年何十年後になるかはわからないけど、きっといつかまた生命力が尽きかけて私は我を失うことだろう。
学園に行けば聖女の力を制御出来る方法が見つかるとは限らない。でもこの町にいるよりは可能性がある。
「気をつけろよ」
「うん」
妊娠中のリサ姉は旅が出来ないので父さんとリサ姉とはしばらくお別れだ。
「リオン君は種付けに失敗したようね」
「た、種付けって……。リサ姉はなんでそんなに私を妊娠させようとするの?」
「そりゃ離れ離れになりたくないからだろ」
「どういうこと?」
「ラウル!」
「妊娠しちまえば旅は出来ないし、子供がある程度大きくなるまでは町の移動も無理だ。そうなれば一緒にいられるからな」
リサ姉のデレわかりづら!父さんはよくわかるな。さっすが夫婦。
私は図星を突かれそっぽを向いた可愛らしいリサ姉に抱きついた。
「こらっ暑苦しい」
「いいじゃん。しばらくお別れなんだからさ」
そう言うとリサ姉はやれやれといった感じで私を優しく抱きしめ返してくれた。
「リオン。アリアのこと頼んだぞ」
「言われなくとも」
父さんとリオンは短い言葉をかわすと拳を突き合わせた。
「嬢ちゃん。あんまり別れに長い時間かけるのは良くないぜ」
長時間抱きしめ合う私とリサ姉を見て、竜人大陸を出るまでの間護衛としてついてきてくれることになったガイさんが声をかけてきた。
「それは冒険者のジンクスみたいなもの?」
「そうだ。再会できるのが当たり前って感じでさらっと別れないと今生の別れになっちまう」
「それは嫌だな」
ガイさんの言葉を聞いた私はそっとリサ姉から離れた。
「じゃ行ってきます!またね!」
「おう」
「グスッ」
リサ姉は涙を流しながら無言でこちらに手を振った。私は精一杯の作り笑顔で手を振り返した。
「行こうか」
「なんて顔をしてるんですか。ほら手を繋いであげますから」
泣き笑いの表情になったしまった私は右手をリオンに、左手をヴィーに引かれて歩き出した。
親が敷いてくれたレールはもうない。今日より自分の足で道を切り開いてゆく私だけの冒険が始まる。
この先見知らぬ土地で辛いことや困難が待ち受けてるかもしれない。
でも恐れずに踏み出そう。地平線の向こう側には両手に抱えきれないほどの幸せがあると信じて。
※※※
第二章終了です。ここまで読んでくださりありがとうございます。
突然ですが現在の週2投稿から、キリの良いところまで書けたら投稿していくという形に変更させてもらいます。
最近余裕がなくて見直しすらあまり出来ていません。そのためこのまま書き続けていたらただでさえあまり高いとは言えないクオリティが下がりそうです。
期待してくださっている方申し訳ないです。しばらくお時間をください。
一、二ヶ月後には投稿できるようにがんばります。
白金のARtesIA~女に転生した俺が素晴らしき日々を手に入れるその日まで~ 曲音遊 @nemagari-hitoasobi
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