第46話体の異変
※軽度な性的表現があります。苦手な人はお控えください。
町へと戻った翌日、今日はドラゴンの素材を売ったお金がギルドから渡される日。
お金を受け取った後、各自の取り分の話などをする予定だったのだが、私は具合が悪いと言って宿屋のベッドの中でゴロゴロと転がっていた。
本当に具合が悪いわけじゃない。仮病だ。
何故そんな仮病を使ったのか。かなり恥ずかしいことだけどはっきり言おう。
私は今、超ムラムラしている!頭の中ピンク色一色だ!
実は昨日町に戻ったくらいからムズムズはしていたんだけど、よくわからない感覚だったので放置した。そしたら悪化してしまった。
もしやリオンと同じように生存本能が刺激されてしまったのだろうか?
でもそれにしては異常にムラムラするんだ。今だったら脂ギッシュなおじさんであろうと受け入れてしまいそうだ。
こんな状況なのでリオンに会ったら襲いかかってしまうんじゃないかって思う。リオンどころかガイさんみたいなおじさんですら自分の方から誘惑しちゃうかもしれない。
だから外に行くのは危険と判断して宿に籠もっているのだ。
リオンならまだしも、どんな理由があっても好きでもないおじさんと肉体関係なんか持ちたくない。ましてやおじさんに初めてを捧げるなんて絶対に嫌だ。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
本気できつい。ムラムラしすぎてイライラしてくるくらいに。頭がおかしくなりそうだ。
まさか盛りを迎えたメス猫の気持ちを体験するとは思わなかった。
何故メス猫が大声で鳴くのか今ならわかる気がする。私も今大声で鳴きたい!
「ふに゛ゃあ゛あああ!!!」
「わっ!?なんですかいきなり大きな声出して」
やば!心の中で叫んだつもりが実際に声に出ていたみたいだ。
というかヴィーはいつの間に戻ってきてたんだろう。ムラムラをどうにか抑え込もうとするのに必死で全く気が付かなかった。
「大丈夫ですか?お医者さん呼びます?」
「よ、呼ばなくていい!私元気だし!」
「それにしては顔は赤いし、呼吸も荒いですけど。それに元気だとしたらなんで仮病使ったんです?」
「うう、それは」
どうしよう。どうやって誤魔化せばいいんだ。真実を言う?いやそれは恥ずかしすぎる。
もし「エッチがしたい」なんてことを言えばビッチ認定され、最悪ドン引きされることだろう。
「ほら、なにか悩みがあるなら言ってください。お姉さんが聞いてあげますよ」
お姉さんぶったヴィーが布団に包まる私の頭を撫でた。
うーん。とりあえず適当に誤魔化そう。直近の悩みは……。
「そのー、リオンにもう抱きしめてもらえないと思ったらなんだか寂しくて憂鬱になっちゃったんだよ」
「!!」
私の発言にヴィーは少し驚いた表情をすると、なるほどなるほどと言ってうんうんと頷いた。
「アリアの悩みはよくわかりました」
「え!?私自身わかってないんだけど」(だって誤魔化すために適当に言っただけだもん)
「自分の感情がわからないとは困った娘ですね。なら教えてあげます。それは恋です!」
「恋!?」
なんだなんだ!?ムラムラを適当に誤魔化したら恋バナになってしまったぞ!
リオンに触れないのが悲しいというのは嘘ってわけじゃない。
でも私はムラムラしてるだけなんだ。恋だなんてそんな乙女チックな素敵な感情じゃない。ただの劣情なんだ。
「では早速リオン君を呼んできます」
「待って待って!部屋に呼んでどうするの?」
「告白してそのままベッドインですね」
「いやいやいや!ベッドイン早すぎでしょ!そういうのはデートを重ねてからだと思うんですが!」
「普通ならそうなのかもしれませんが貴方達は特殊です。だってもう付き合ってるようなもんじゃないですか」
ええ!いつの間に私達は付き合っていたんだ!?
私が驚き戸惑っているとヴィーが諭すように語りかけてきた。
「あのですね、よく考えてください。血の繋がりのない若い男女が町中では手を繋ぎ、頻繁に抱きしめ合い、花のせいとはいえキスをし、挙句の果てには一緒に寝ているんですよ。これを付き合っていると言わずになんと言えばいいんですか?」
「手を繋ぐのは男避けだし、ハグは好きなだけだし、キスは花のせいだし、出会った時から一緒に寝てたし……」
「はぁ、言い訳ばっかり」
ヴィーは呆れたとばかりに大きなため息を吐いた。
「じゃあ聞きますけど、そこらのおじさんとハグしたいと思います?一緒に寝たいですか?」
「そんなこと思わない。例え魅了の力がなくて抱きつきたい放題だったとしてもおじさんは遠慮しとく」
「でしょう。認めなさい。アリアはリオン君のことが好きなんです!好きだからこそ抱きしめたい抱きしめられたいって気持ちになるんです!」
よ、よくわからないけど論破されてしまった。
「でもさ、なんでいきなり肉体関係なの?」
「アリアは魅了の力があります。再びリオン君にハグしてもらえるようになるには関係を持つしかないじゃないですか」
ヴィーの言いたいことはよくわかる。私の場合は触れたい人物が男なら関係を持つしかないのだ。
あ゛ー!!もうこの際ムラムラを解消するためにも、このまま話を合わせてリオンに抱いてもらう方向に持っていくのが良いのかもと思えてきた。
私のことを家族的な意味で好きと言ってるのか女として好きなのか、はっきりと確認したことはないけどリオンも男だ。悪戯しちゃうかもとか言うくらいだし女の体に興味はあるはず。誘惑すれば抱いてくれると思う。
とにかくこの気が狂いそうなムラムラをどうにかしたい。もやは私はエロいことしか考えられなくなっていた。
「わかった。私リオンを誘惑する」
「覚悟が決まったようですね」
「それでその、どうすればいいかな?」
「普通に好きと言葉で言っても伝わらない気がするんですよね。アリアは普段から好きと言って私達に飛びついたりしてましたから。なのでここは魅了の力を最大限に利用しましょう」
ヴィーの作戦はこうだ。
まずリオンをヴィーが部屋に招き入れる。そしてベッドに横になっている私の近くまでこさせ、不意をついて抱きつくというものだ。
かなり
「アリアが原因とはいえ事が済んだ後、リオン君は襲ってしまったことに罪悪感を持つことでしょう」
「リオンは真面目だしそうかもね」
「だから抱いてもらえて嬉しかったって言ってください。そして最後に」
「最後に?」
「責任取ってねと笑顔で言えば完璧です」
「わかったそうする」
それは子供がデキちゃった時に言うセリフですよ!
普通ならそんなふうにツッコミを入れるところだけど、今の私にはそのような冷静なツッコミを入れる知性すらなかった。
―――
「具合は大丈夫?」
「うん。心配してくれてありがとう」
ヴィーに連れてこられたリオンが気遣いの言葉とともに部屋に入ってきた。そしてベッドの近くにある椅子に腰掛けた。
リオンが椅子に座ったのを確認したヴィーは、ちょっとおトイレにと意味深な笑みを浮かべて出ていった。
近くに座ったリオンからいい匂いが漂ってくる。そして凄い魅力的に見える。まるでドラゴンの肉のようなご馳走が目の前にあるかのように感じる。
あぁ、今すぐに抱きつきたい。キスがしたい。襲われたい。
漫画的な表現をするなら今私の目はハートマークになっているに違いない。
「それで話って何?」
「特別話したい事があるわけじゃないの。具合悪いから心細くなっちゃったみたいな」
「そっか」
リオンは以前のように私の頭を撫でようとしたが手を引っ込めた。リオンも私に触れないことを寂しいと思っているのだろうか、少し憂いのある瞳をしている。
そんな悲しげな瑠璃色の瞳を見つめると、スッと目をそらされた。
「ごめんアリア。あまり見つめないでほしい。抱きしめたくなる」
私から目をそらしている今ならチャンスだ。いくらリオンの能力が高かろうと、この近距離からなら抱きつける。
そう確信し、劣情に支配された私は飛びついた。
「ふに゛ゃっ!」
しかしリオンは目にも留まらぬ速さで回避行動を取った。おかげで私は床に顔面から落ちることとなった。
「いきなり飛びついてくるなんて危ないよ!」
「いだい……」
「あ、鼻血出ちゃってるじゃないか。ちょっとヴィナティラさん呼んでくる」
リオンはそう言い残すと足早に部屋から出ていってしまった。
「駄目でしたか」
ヴィーは部屋に戻ってくるや苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「抱きつこうとしたらかわされちゃったよ」
「まさかリオン君の能力の高さが仇になるとは」
「うぅぅどうしよう」
「触るのが難しいとなれば、やはり正攻法で情熱的な愛の言葉をぶつけるしか……」
「情熱的な愛の言葉って?」
「そ、それは私にもわかりません。勉強の合間に読んでいた小説は男性の方が女性を口説くものでしたし」
ヴィーは顎に手を当ててうーんと考え込んだ。
その間私はムラムラを抑えるために枕を抱きしめてベッドの上でゴロゴロと転げ回った。
リオンを近くに感じたせいか更に悪化してしまったので激しく転がった。
「落ち着いてください」
「だってえええぇ」
ヴィーはこの辛さがわからないからそんなこと言えるんだ!
ほんと私の体に何が起きてるんだろう。もうヤダ、苦しい。泣きたい……。
「こうなったらお酒に頼りましょう。夕食と一緒に不審に思われない程度の量のお酒持ってくるのでそれを飲んで羞恥心を捨てるんです」
「わかった」
「そうだ!さっきは口紅を塗るのも忘れてましたね。食べた後につけてあげます」
「ありがとう」
さっきの案といい、今回の案といい、ヴィーの作戦はかなり酷いものである。
でも理性が崩壊していた私はとても良い案だと思ってしまった。
・
・
・
外が暗くなった頃、ヴィーは軽食とジョッキ一杯のお酒を部屋に運んできた。私はそれをありがたく頂いた。
そしてお酒が回って少し気分がポワポワしてきた後、約束通りピンク色の口紅を塗ってもらってから準備は整ったとばかりにリオンの部屋に向かった。
部屋の前に着くとヴィーは頑張ってとウィンクをして去っていった。
コンコンッ
「どうぞ。えっと、口紅なんかつけてどうしたの?」
「少しお話したくて」
私はベッドに腰掛けるリオンを瞬き一つせず見つめジリジリと無言で距離を詰める。
いつもと様子の違う私にリオンが何かを感じ取ったのか立ち上がろうとした瞬間、獲物に飛びかかる肉食動物の如く飛びついた。
しかし案の定タックルはかわされてしまい、私はリオンの使用するベッドに頭から突っ込んだ。
ベッドに倒れ込んだ私は思いっきり枕に鼻をつけて深呼吸をした。
ふぁぁ。リオンの匂いだ。いい匂いでクラクラする。
「頼むから急に飛びついてこないでほしい。襲ってしまう」
「襲えばいいじゃん」
「……もしかして酔っ払ってる?」
「お酒は飲んだけど酔ってはいないよ」
「でも酔ってなかったらこんなことしないでしょ。待っててヴィナティラさん呼んでくる」
「待って!」
部屋から出ていこうとするリオンを引き止めるべく、立ち上がり大きな声を出すとドアノブにかけた手が止まった。
「ねえ。リオンは私のこと嫌い?」
「嫌いなわけない。好きだ」
「だったらいいじゃん。私はさ、リオンに初めてをもらってほしい」
背を向けていたリオンはこちらに振り向き、大きく目を見開いた。
「……本気?」
「冗談でこんなこと言うわけない」
リオンは一歩一歩ゆっくりと近寄ってくる。そしてキスが出来る距離で立ち止まった。しかしまだ私の行動を少し疑問に思っているのだろうか、自分からは触れてこようとしない。
そんなリオンに対してゆっくりと腕を伸ばし、彼の頬に少し震えてる手を添えた。するとリオンの瑠璃色の瞳はみるみるうちに金色に変化してゆく。
瞳が完全に金色に染まりきった時、私はベッドに押し倒された。
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