第40話 クラインの帰省と帝国の方針転換

 クラインはラフラン王国にある実家、クレルモン伯爵邸に帰って来ていた。

 本名は、クライン・フランク・クレルモンと言い、旧フランク王家に連なる血筋である。


 旧フランク王国はパインフィルド帝国と手を結んだラフラン家により滅んでしまったのであった。


 クレルモン伯爵家はラフラン王国に忠誠を示しつつも、裏ではフランク王国復興を目論んでいる。

 三男のクラインは、長兄をフランク王国の王にしようと画策する父の命令で、諜報活動をしているのだった。



「父上、ただいま戻りました」


「お帰り、クライン。御苦労だったな。 帝国に反意があると噂されているエスタード王国の様子は、どうであったのだ?」


「はい、父上。エスタード王国のカタランヌ地方でダンジョンが発生して、魔物が溢れ出していました」


「ダンジョンが……そこで魔王が復活しそうなのか?」


「いいえ、『ブリリアント☆ルミナ』が現われて、ダンジョンをスグに封印してしまいました」



「なんと、まだ魔王も復活して無いのに、早くもルミナが来てダンジョンを封印したとな?」


「そうなんです。帝国の伝統の茶番は一体どうしたのでしょうか?」



 クレルモン伯爵家では、帝国の「やらせ勇者伝説」に気付いていた。


 それは、反帝国意識の強い地方に魔王を復活させて国力を削ぎ、帝国が召喚した魔法少女勇者『ブリリアント☆ルミナ』に魔王を封印させることで、帝国の恩を押し売りするというものだった。



「それで、ルミナは帝国に戻ったのか?」


「いいえ。それが、この国に向かったらしいのです」



「うん? それは一体どういうことだ……ルミナは帝国と連携していないのか?」


「はい、帝国とは関わりたくないと言って、姿を消したと言う話です」



「はぁ? どういうことだぁ! 帝国が異世界勇者召喚をして、ルミナを呼び寄せたんじゃないのか?」


「はい、何かイレギュラーな事故があったのではないでしょうか……」



「ふぅむ……その事に何か心当たりでもあるのか?」


「はい、ルミナに変身した少女と関りを持つ事ができたのですが、残念ながら見失ってしまいました」



「それは残念だったな。しかし、もしもう1度その少女に会えば、ルミナだと分かるのだな?」


「はい、分かります。引き続きラフラン国内の捜索に出たいと思います」



「帝国の干渉を弱めて、祖国フランク王国復活を図るには、ルミナや魔王の存在は大きい。行方を掴み上手く利用せねばならぬ」


「はい」



 ☆ ▼ ★ △



 一方でパインフィルド帝国では、いつまで待っても魔王が復活しない事を不審に思い、エスタード王国のカタランヌ地方のダンジョンを調べることにした。


 宮廷魔導士筆頭ペリノアは、カタランヌのダンジョンに【転移】を試みたが、地形が大きく変わって大岩で転移ポイントが失われていたらしく、ダンジョン内に【転移】することが出来なかった。

 しょうがなく、1番近いラフラン王国内の転移ポイントまで【転移】してから、馬車と徒歩でカタランヌのダンジョンに向かった。

 ペリノアは帝国宮廷魔導士と分からない様に冒険者に変装していた。


 ペリノアがダンジョンに到着すると、入り口は大岩とセメントで厳重に塞がれている。

 土属性魔法を駆使してダンジョン最下層迄は何とか到達したが、ダンジョン核は既に無く、代わりに大理石の棺があるだけだった。

 しかも棺の中はもぬけの殻で、魔王の姿はダンジョンの何処にもなかった。



 ペリノアが近くの町カタランヌなどで聞き込みをすると、ルミナの目撃情報が多数あり、ルミナがダンジョンを封印してダンジョン核を奪い、魔王も倒したのだろうと結論付ける。

 急いで帝国に帰り報告しようと考えたが、傲岸ごうがんな皇帝に責任を問われることを恐れて、従者に報告書を託すと自らは身分を隠して逃亡した。


 宮廷魔導士筆頭ペリノアが帝国から居なくなったことにより、数百年に及んだ帝国による勇者召喚の儀の魔導術式継承者が失われ(ペリノアは魔導術式の記された魔導書を持って失踪した)、完全に勇者召喚が終了する事になったのである。



 皇帝には六つ子の皇子がいた。

 皇帝は全ての皇子に領土を与える事で、帝国支配が及ぶ全ての属国を完全支配する事を野望としている。

 従順な国には帝国の皇子を王女に婿入りさせて王位を継がせ。少し反意がある場合は帝国の皇子とその国の女王の間に生まれてくる孫に王位を継がせ。帝国に強い反意を持つ国は力づくで征服して、皇子を支配者とするつもりだった。


 強大な権力を生まれながらに持っている皇帝は、魔法少女勇者ルミナの茶番など、どうでも良いと思っていた。

 帝国の伝統で父の遺言だから仕方がなく続けただけで、今回失敗したことが止める口実になり、ちょうど良いとさえ思ったのだった。



 皇帝は強い魔力を持ち伝統を重んじる宮廷魔導士達を、責任を取らせて全員処刑する事にした。


「勇者も賢者も魔導士もいらぬ。圧倒的な数の兵士による力攻めで、世界を統一してやろう」


 宰相以下閣僚達は、全員ガクブルして意見を言えなくなってしまった。



「あのう、皇帝陛下。2回目の勇者召喚で呼んだ2人はどうしましょうか?」

 と、宰相が恐る恐る窺った。


「もう、いらん。放り出せ!」



「城から放り出すのですね?」


「帝都に居ると目障りだ。例のフランク出身の教育係と一緒に、ラフラン王国に押し付けてしまえば良い」


「御意」

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