第39話 剣術稽古

 グリーンハウスの中で、カシオが『トレント』という魔木の枝に絡まれている。


 ギュウウウッ! ミシッ、ギシギシギシッ!

「ァゥウウウウウッ……」



 一方では、排水管掃除夫が戦ってるような『パックン草』という魔花に、ドニロが頭をかじられている。


 ガジガジガジ……、

「アイタタタッ……」



「あらまぁ、2人とも随分と魔植物に懐かれてますね♡」


「チヨ、見てないで助けてくれ!」

「チヨさん、頼みますわい!」



「この子達は【鎮静化】してから【調教】もしてあるので、大丈夫ですよ! 遊んで貰ってるつもりだけですから、危害は加えない筈ですわ」


「そ、そうなんだ……」

「こ、これは懐いてるのじゃろうか?」


 ミシミシギチギチ……、

 ガジガジガジガジ……、



「イイ子イイ子! 2人はお仕事中だから、後で遊んであげてね」


 千代は2人を助けてあげた。

 魔木と魔花はチヨの言う事を忠実に聞いてくれる。

 因みにそれは、千代の【調教Ⅴ】スキルのなせる技なのだが。




「チヨ、この者達は誰だ?」


 ジャンヌが、グリーンハウスの入口ドアを少し開けて覗いていた。



「はい。私の知り合いの冒険者で、城の衛士として雇いました。薬草園の管理と私達の護衛をして貰おうと思っています」


「ほほぅ、護衛なら腕前を見せて貰おうかな?」


「まぁ! 冒険者といえどもジャンヌ様にかなう者は滅多にいないでしょう。貴族としての体裁を整える為に、形ばかりの護衛として雇ったのですから、どうか許してやってくださいませ」



「そうか、俺達には専属の護衛がまだいないから、取り敢えず雇ったんだな。弱くても仕方が無いか? あはははは」


「なんだって! チヨ、俺だって男なんだぜ。女に弱いって言われて『はいそうですか』って、引き下がるわけにはいかないんだ! ジャンヌ様とやら、一手お相手願いますっ!」


「ふむ、そうでなくてはならぬ。冒険者としての矜持きょうじがあるだろうからな? どこからでも掛かって来るが良い」




 3人は剣術練習用の木刀を構えて、中庭の芝生の上で向かい合った。


「いざ! どこからでも参られよ」


「キィエエエエエッ!」

「ゥオォオオオオオッ!」


 バキッ、ボコッ、ドカッ、ズガッ……、



 ドニロとカシオは『ケチョン、ケチョン!』に、ジャンヌに打ち負かされてしまった。


「ピエ~ン、痛いよぉぉ!」

「あいたたたっ、もう勘弁してくだされぃ。ヒ~ンッ!」



「ジャンヌ様、もうそのぐらいで終わりにしましょう。 2人を【回復】!」


 シュィイイイイインッ!


「ふわぁ、助かった~。チヨ、痛みが一気に引いたよぅ」

「チヨさん、怪我が綺麗に治って助かったわい」



「フンス! ……チヨ、これではお世辞にもとても護衛とは言えぬぞ。毎日、俺が稽古を付けてやろう」


「まぁ、ジャンヌ様には淑女としての稽古をして欲しいのですけど?」


「それもちゃんとやるさ! やるけど堅苦しくてストレスが溜まるから、剣の稽古もしたいんだ。いいだろう?」


「そ、そうですね。あくまで息抜きと言う事なら良いかもしれませんね……」




 それから3人は、空き時間にしばしば稽古をするようになった。


 千代は、怪我をしない様にズボン用の革ベルトに魔法付与をして3人に使って貰う事にした。

 相手の攻撃が体に触れる直前に発動する【障壁+5】効果を付与した魔道具のベルトだ。


 そのベルトはラルーシアが魔道具店で売る為に作った物で、左わきに武器フォルダー、右わきにマジックポケットがついている。

 武器フォルダーは20センチぐらいの長さで、スグに抜けるように武器の柄の部分が外に出るように成っていて。短剣サイズに見えるが2メートルの両手剣も収める事が出来る。

 マジックポケットは10リットルの容積があり、小物入れになっている。

 魔道具店での売値は20ゴルドで、貴族でも中々買う事が難しい高価な物であった。


 千代は更にそのベルトに【障壁+5】を魔法付与した。

 買えば50ゴルドはするだろう。


 因みに付与魔法が発動するには魔力が必要に成り、魔力を魔道具に充填しておくか、使用者本人が魔力を込めて使う事に成る。



「これは良い! 思う存分に打ち込む事ができるぞ」


「はぁ、それにしてもジャンヌ様は強いわい。全く剣が当たらぬ」


「い、いつか必ず当ててみせるぞ!」


「その意気やよし。いつでもかかって来るが良い」



 3人とも怪我を心配せずに剣を振り回せるのが楽しくて、稽古を熱心にするようになった。

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