第38話 「荒鷲の爪」就職!
「……と言う訳で、ドニロさんとカシオ君とクライン君がラフラン王国に向かったのよぅ!」
「まぁ」
千代は週末の夜にローリー工房を訪れていた。
壺に珪砂を補充してから、
「チヨに黙っておいて、サプライズにしたかったんだけど。 女って駄目ねぇ、黙っていられなくてぇ」
「はぁ……そうなんですね」
「クライン君は実家があるらしいから心配ないんだけど、『荒鷲の爪』の2人はチヨしか
「はい、それは良いのですけどぅ……」
「たぶん最初に行くのは冒険者ギルドだと思うから、無理なクエストを受けて怪我をする前に、チヨが面倒を見てあげてほしいのよ」
「そうですね、ちょっと頼りなくて心配ですよね」
「『荒鷲の爪』に指名依頼を出しとけば、ギルドがチヨの所へ行く用に案内してくれる筈だからさ。地図をギルドに渡しておくのもいいわよね」
「そうします」
「お城の雑用依頼でクエストを出して、そのまま小間使いにでも雇ってしまいなさいな。放っておくと魔物に殺されかねないからさ」
「はい」
☆ ▲ ☆ ▼ ☆
ドニロとカシオはラフラン王国に入ると、真っ直ぐ冒険者ギルドに向かった。
冒険者は、国や町の冒険者ギルドに到着報告をする義務があるからだ。
「リーダー、雑用クエストを受けて旅の費用を稼ぎましょうか?」
「そうじゃのう。ちょっと懐が寂しいからのぅ」
2人はさっそく受付カウンターに向かった。
「初めまして、お嬢さん。わしらは『荒鷲の爪』というグループなんじゃが、到着報告と雑用クエストを受けたいんじゃ」
「あ、はい。ようこそトゥローズ町へ。『荒鷲の爪』グループさんですね。
早速ですが、ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ騎士爵様から指名依頼が出ています。
詳しい内容と案内用の地図を預かっていますので、どうぞご覧に成って下さいませ」
「はぁ、ワシらに指名依頼ですか? はて、貴族様に心当たりは無いのじゃが……。そもそも指名依頼を貰うのも初めてですじゃ」
「リーダー、ダンジョン沸きでの俺達の活躍を聞いた貴族からですよ。きっと」
「んにゃ、カシオ君。ワシらは何も良い所が無かったじゃろうが? 一体どういう事じゃろうか、受付のお嬢さん?」
「さぁ、私には分かりかねますが。一応ギルドでも責任があるので、身元の怪しいクエスト依頼を受けない様にしてますので、今回の指名依頼クエストも大丈夫なはずですよ」
「わかりましたのじゃ。せっかくの指名依頼ですので受けさせて貰いましょう。カシオ君も良いじゃろぅ?」
「リョウカ~イ」
「はい、では受注という事で処理いたしますね」
トゥローズ町からシャンボール城までは、馬車で3日の距離だったが。 何と馬車代が依頼者から用意されていたので、ギルドの受付嬢から受け取って、それで向かった。
街道は良く整備されていて、通行量も多く治安も良かったので、何事も無く無事に到着した。
「こんにちはぁぁぁっ、『荒鷲の爪』ですじゃあ。こんにちはぁぁぁっ」
シィィィィィン……、
ドニロは門の外から城の中へ呼ばわったが。
大理石が美しい豪華なシャンボール城には人影が全く無く、静まり返っていたのだった。
隠居城で公務が無くて尋ねる者も少なく、ダンジョン核により守られて安全である為に、門衛は草の上で居眠りをしていた。
1日中、何も起こらない日が、就任してから毎日続いていたからだ。
『おじさん達、お城に用があるの?』
後ろから声を掛けられて振り向くと、絵画から抜け出したような美人が立っていた。黒のパンツに白いブラウスを着たシュッとしたお嬢さんだ。鳥の羽の付いた大きめの帽子を被っている。
「ワシ達は『荒鷲の爪』という冒険者ですじゃ。ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネ騎士爵様からの指名依頼を受けて訪ねて来ましたのじゃ」
『あ、聞いてる聞いてる。わたしアダモ。連れてってあげるね』
「「はあ!?」」
アダモは2人を小脇にサクッと抱きかかえると、
「な、何をするのじゃあ……」
スタタタッ…タンッ!
「「ヒャァアアアアアアアアアアッ!」」
城壁を軽く飛び越えた。
空中で1回転してから、中庭にある噴水の先端に着地して、
又スグにジャンプする。
ヒュッ、ピョ~ンッ!
「も、もう止めて……」
「「ヒャァアアアアアアアアアアッ!」」
許可の無い者が侵入すると、ガーディアンモンスターが湧いて攻撃をしてしまうので、アダモはジャンプして回避したのだったが。ドニロとカシオに何も教えずに突然行動に移した為に、2人はガクブルしてしまったのだった。
その日の午後、ドニロとカシオはシャンボール城の庭で草むしりを始めた。
「ドニロさん、それ間違って薬草をむしってますよ」
「こりゃあ、すまんこってす、チヨさん。薬草は残しとくのですね」
「はい。ここは私の薬草園なんですよ。雑草だけむしって下さいな」
「はい、わかりましたですじゃ」
「チヨ、俺はギルドクエストでしか、知ってる薬草は無いんだけど?」
「カシオくん。チヨさんは貴族になって、雇い主でもあるのじゃから、敬語で呼ぶのじゃ」
「良いのですよ、今迄通りで。 間違えて薬草を抜かない様に名札を付けましょうね」
千代は小さな板状の大理石で薬草の名札を作って、地面に刺していった。
「チヨ、向こうにあるガラス張りの建物は何だい?」
「あれはグリーンハウスです。寒さに弱いハーブや果樹を育ててるのよ」
「そうなんだぁ」
「後で、あの中も掃除をして欲しいの。貴重な植物が多いから、やたらに抜かないでね」
「リョウカ~イ」
「わかりましたですじゃあ」
「チヨはジャンヌ御嬢様と学院にも行ってるのだろう? こんなに広い庭の管理は大変じゃないのか?」
「えぇ、そうなの。
実は私、貴族に成ったんで、御嬢様の専属側仕えから専属護衛騎士になったのよ。
それでちょっと忙しくなりそうなので、2人に専属衛士として、ここの管理をお願いしたいのです。
また、私が1人で外出する時は、私の専属護衛もお願いしたいのだけど?」
「オッケー」
「わかりましたですじゃ」
夕方に成ると、千代は2人に今日のクエスト達成を告げた。
「ご苦労様でした。明日も引き続きお願いしますね」
「は~い」
「はいですじゃ」
「それで、お2人は今日からここで暮らしてくださいね。ギルドには、お城の専属衛士にすると伝えてありますからね。給料は王国衛士としての規定の給料がでますのよ。それに個室と食事と制服が無料で貸し与えられますから、生活の心配はいりません。お2人が城勤めをお嫌でなかったらですけど?」
「何と、ありがたい事ですじゃ」
「チヨ、ありがとう。まるでハットトリックだよう!」
「ハットとリック? ……まぁ、とりあえず良かったわ」
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