第22話 エルレイダの街

 千代とローリーを乗せた馬車は、夕方にエルレイダに到着した。

 商業ギルドの登録票があるので、すんなりと正門を通る事が出来て、入町税も取られなかった。



 ローリーが正門横の衛兵詰所で、盗賊の首領を引き渡す。


「おぉ、重要指名手配犯ラシュア盗賊団のラシュア首領じゃないか。でかしたぞ! 明日、街の衛兵事務所まで報奨金を受け取りにきてくれ」


「はい」



「伝書バトで連絡があった盗賊退治は、君達の事だったのだな?」


「はい、そうです」



「今、衛兵が賊達を捕縛ほばくしに行ってるから、その分も報償が出る筈だ。期待していてくれ」


「はい」




 千代達は衛兵詰所をあとにした。


「チヨ、きょうはもう遅いから買い物は明日にして、真っ直ぐ宿に行こうよ」


「はい」




 夕方の宿泊所1階は飲食をする者達で雑然としていた。

 その宿の1階はフロント兼レストランに成っていたのだ。

 冒険帰りなのだろう、酒を飲んでる者が沢山いる。


 ローリーが先に宿のドアを開けると、ムワ~っとした空気が押し寄せてきた。

 ローリーと千代は、受付カウンターで今晩宿泊出来るかを尋ねる。


「いらっしゃいませ。女性2人1部屋でよろしいですか?」


「はい、それでお願いします」



「夕食は、この1階のレストランでも取れますけど?」


「はい、お願いします」



「それでは2名様、朝食代と夕食代込みで8シルバでございます」


「はい、これで」


 ローリーは2人の宿泊費1泊2日分を前金で払った。



「夕食は、すぐにでも食べる事が出来ますが?」


「はい、荷物を置いたらすぐに食べます」


「畏まりました」




 部屋を確認してから、すぐに宿のレストランで夕食を食べる。

 実は部屋に荷物を置くよりは、インベントリの方が安全だから、部屋に荷物を置く必要は無かった。

 ただ、普通は皆そうするので、千代達も部屋に荷物を置いて来る振りをしただけであった。


 木目が分かるこげ茶の4人掛けテーブルに、2人対面で座る。

 スグに若い女性スタッフが注文を取りに来た。

 千代と同年位で丸顔の猫人族女性スタッフに、千代は萌え萌えで目が離せなくなる。


「今日は、リゾットとパエリアがあるにゃ、サイドメニューは鳥の唐揚げと魚の唐揚げから選んでくださいにゃ」


「チヨ、どちらがいいんだい?」


「あ、はい。猫耳……じゃなくて、両方頼んで分け合いましょう。両方食べたいですから」


「まぁ、食いしん坊さんだね。でも、いいね。 娘さん、それでお願いします」


「はい、かしこまりにゃ」



 千代はズット猫人族の娘を目で追いかけていったが、スグに彼女が料理を持って戻って来た。


「お待ちどう様にゃ、ごゆっくりにゃ」


 その子が千代に、ニコっと笑った。

 千代もデレっと笑って返した。



「ひゃあぁぁ、久しぶりのお米だ~♪」


「まぁ、テンションが高い事! チヨはお米が好きだったんだね。南のバレンシア地方で栽培されてるんだけど、この街でも売ってる筈だよ」


「勿論、買って帰ります!」


 ローリーは千代に顔を寄せて声を潜めた。


「インベントリに入れれば重くないから、いっぱい買っていいよ!」


「はい、ありがとうございます。 そうします♪ フンス!」






 翌日早く、アダモの顔マスクの材料を買いに出た。

 千代はローリーと2人で雑貨屋に向かう。


 キャンバスと絵具と筆を数種類買った。

 口紅と頬紅等、化粧品と化粧道具も買う。


 千代よりアダモの方が背が高く、千代の物ではアダモには小さ目なので、洋服と靴と帽子も買った。




 そのあとで衛兵事務所に行って、報奨金を貰った。


「街道脇に放置されてた盗賊達も全員捕縛して、既に牢屋に入ってるぞ」


 と、衛兵事務官が言っていた。



「チヨ、報償金を沢山貰ったね」


「えぇ」



「それにしても、本当に私が半分貰っていいのかい?」


「勿論です、ローリーさんの方が体を張って戦ってたじゃないですか」


「アダモちゃんが殆ど倒したけどね」



「ローリーさんは、私と違って直接盗賊と対峙して戦ったんですから、危険手当も入ってると思ってください」


「そうかい、それなら貰っておこうかな。でもこのお金は貯めといて、千代の為にも使うからね」


「はい、使い道はローリーさんにお任せいたしますね」



「アダモちゃん、報償金で何か欲しい物ある?」


 千代はインベントリの中のアダモに話しかけた。


『もう、沢山買って貰ったからいいですぅ。御嬢様が使ってくださ~い』


「そう……それじゃ預金しておこうね」


『は~い』


 インベントリの中に居るアダモの声は、千代にしか聞こえなかった。



 ローリーと千代は乗合馬車の出発時間に成ったので停留所に向かう。


「チヨ、チヨじゃないか!」


「まぁ、カシオくん、『荒鷲の爪』の皆さんも御一緒ですね、こんにちは!」


「「「こんにちは」」」



「チヨ、エルレイダに来てたのか」


「はい、これからカタランヌに帰るところです」


「俺達はラシュア盗賊団の拠点捜査依頼を受けたんだ。途中まで一緒だな」


「はい、そうなんですね。よろしくお願いいたします」


「「「よろしくぅ」」」




 千代は乗合馬車に乗り込む前に、ふと停留所の掲示板に目がいく。

 そこには『魔法少女勇者ブリリアント☆ルミナ』の顔が描かれてる手配書が貼られていた。


『この顔にピンと来たら連絡を! 報奨金100ゴルド!』


「まぁ、どうしましょう。変身したら通報されてしまうわ……」


 と、千代は呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る