第23話 カタランヌに帰還

 乗合馬車の中は、カタランヌ方面に向かう冒険者達で満員だった。


 千代達は『荒鷲の爪』の4人と並んで乗車する。

 カシオが千代の隣に、ちょっと強引に座った。


「チヨ、隣りに座っていいだろぅ?」


「はい…どうぞ」


 千代は小柄で子供っぽいカシオに何故か親しみを感じる。

 恋では無く、友達として仲良くできる気がした。



「チヨ、町で何をしてたんだい?」


「買い物なの」



「何を買ったんだい?」


「化粧道具と服と靴よ」


「そうか。カタランヌに無い物が欲しかったのかい?」


「はい、本も欲しかったけど高級品でした」



「ふむ、じゃあワシが持ってる本をチヨさんに、プレゼントしようかのぅ」


 そう言って、リーダーのドニロがバッグから分厚い本を取り出した。



「ドニロさん、お気持ちだけ頂いときます。だって本は高級品ですから貰う事はできません」


「んにゃ、これは10年以上前に買ったんだが、ワシには才能が無くて役に立たなかったんじゃ、使い道が無いので貰ってくれんかのぅ?」


「はい……それではありがたくお借りしておきます。どうもありがとうございます」


「なんのなんの」


 千代がその本の表紙を見ると『魔導士の歩む道』と書いてあった。



「チヨ、これから俺達はラシュア盗賊団のアジトを探しに行くんだぜ」


「はい、そうなんですね」



「アジトはカタランヌに行く街道の、北側の山の何処かにあるらしいんだ」


「ふ~ん、そうだったんですか」



 ローリーが会話に口を挟む。


「そうか。だから昨日、あたし達の乗った馬車を襲撃してきたんだな」


「え? 襲われたのはチヨ達が乗って来た馬車だったのか?」


「そうよ、返り討ちにして捕まえたけどね」



「ふ、2人で30人の盗賊団を捕まえたって言うのか?」


「そうよ、あたしとチヨは凄いのよ! フンス」


「強いのはローリーさんです。私は馬車の中に居たんですから」



「あたしは威勢がいいだけだよ。盗賊達を捕まえたのは、殆どチヨとアダモじゃないか」


「そうなのか、チヨ? アダモってあのゴーレムなのか?」


「えぇ、そうなの」



「リーダー! やっぱりチヨにパーティに入って貰いましょうよ?」


「んにゃ、カシオくん。こんな可愛いお嬢さんに冒険者は似合わんよ」


「でも、可愛いチヨと一緒に凄く強いゴーレムが付いてくるんですよ」


「か、可愛い…くなんか無いです」



「リーダー、可愛いチヨと強いゴーレムが居れば毎日の冒険が楽しくなりますよ」


「それはそうじゃが。チヨさん、どうじゃろうかのぅ? 一緒に盗賊団のアジトを探しに行ってくれるかのぅ?」


「貴方達、チヨは工房の大事な跡取りなんだから、危険な場所に連れて行かないでよ」


「あぁ、そうじゃったのかぁ」


「う~ん残念」



「ゴメンねカシオ君」


「しょうがないさ。……2人は姉妹なのか?」


「……違います」


「姉妹みたいなもんさ、一緒に住んで一緒に働いてるんだから家族同然なんだ」


「そうなんだぁ」






 ローリーと千代は無事にカタランヌの工房に帰って来た。

 夕食後、2人は自宅の中でアダモの顔作りに挑戦する。


 アダモの顔にキャンバスを当てて輪郭を薄くなぞり、目の中心が分かる様に印を付けてから、一旦外してテーブルに置いた。


 キャンパス上のアダモの顔の輪郭の中を肌色に塗ってから、それに収まる様に顔を描いていく。

 先に絵具と筆で目と口と鼻を描いてから、マスカラや口紅を塗ってみる。


「チヨ、どうかしら?」


「う~ん、頬紅も塗ってみましょう」


「そうね」



「ローリーさん、鼻はシャドウで陰影を付けてみましょうか?」


「うん。目と鼻すじの間にも入れて見ようね」


 ローリーと千代は、キャッキャッと楽しみながらキャンバスにメイクしていった。




「よし、これで一回付けてみようか?」


「はい。アダモちゃ~ん、こっちにおいで~」


『は~い』



 千代はアダモの顔前面に、顔を描いたキャンバスを張ってみる。


「「おおぅ!」」


「中々美人さんになったね、どうかなチヨ?」


「いいんじゃないですか、ローリーさん。 アダモちゃん、鏡を見てくれる?」


『わあぁ、美人で嬉しいですぅ。カツラも併せて見たいですぅ』


「そうね、ちょっと待っててね」



 千代はアダモにカツラを被せて上げた。そのカツラはブラウンのセミロングで、ゆるいパーマが掛かってる。

 その上に大きめの帽子も被せる。

 どちらもエルレイダで買った物で、大きめの帽子にしたのは描いた顔だとバレ難くする為だ。

 カツラでキャンバスの端を見えない様に隠した。



「どうかな? アダモ」


『とってもいい感じですぅ。ありがとうございますぅ』



「楽しく綺麗に出来て良かったわ。ローリーさん、ありがとうございました」


「なんのなんの、楽しかったから、その内に又新しい顔を作りましょうね」


「そうですね、又作りましょう」




「カシオ君達が魔物に負けませんように……」


 千代はベッドの中で、そう祈ってから眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る