第5話 ジェルソミーナ・レドケルン令嬢

 気が付くと、ハムスのキグルミは何時いつの間にか消えていた。


 そう言えば、アニメの魔法少女も元の服はどうなっているのかな? それと同じ事なのかな?

 取り敢えず、今は服が無いからルミナのままでいこう。



「お姉さん、持ち物はその棒だけなの?」


 女の子がマジカルステッキを指さした。


「うん、そうみたい」



「お姉さんの体は、最初に見た時よりも小さく成ったし、お洋服も違うよね? 何処にお洋服をしまったの? もしかして魔法の入れ物を持ってるの?」


「あ、そうかもね。ちょっと確認してみるね」



 ロールプレイングゲームだとウインドウ画面で見れたよね?


「う~ん、ステータス?!」


 ブゥウウウンッ!


 目の前に半透明のステータスウインドウが表示される。



ブリリアント☆ルミナ12歳

種族 妖精族

職業 魔法少女勇者

Lv2

HP20/20 MP999/999


【スキル】

 光属性魔法Ⅰ

 火属性魔法Ⅰ

 水属性魔法Ⅰ

 風属性魔法Ⅰ

 土属性魔法Ⅰ

 時空属性魔法Ⅰ>インベントリⅠ

 生活魔法Ⅰ>着火Ⅰ




「ルミナのステータスだわ! インベントリが収納ね。ゲームで見た事あるわ!」


 千代はネトゲのMMORPGを幾つか経験していた。



「インベントリ、オープン! あ、キグルミが入ってる、良かったぁ。『ハムスワールド』のだから無く成ったら大変だったわ。でも他には何も入って無いわね」


 このまま、着の身着のままでは、どうしたらいいのだろうか? 急に心配に成って来た。



「お姉さん、元気出して! 私のおうちにお洋服が沢山あるから、好きなのを上げるからね」


「まぁ、ありがとう。優しいのね」


「助けてくれたお礼なの」


「そう、ありがとう」



「私の名前は、ジェルソミーナ・レドケルン。ミーナって呼んでね。お姉さんのお名前は?」


「私は……ルミナ。いいえ、ホントはチヨって言うの」



「チヨ? 初めて聞くお名前ね」


「最初にミーナが見たのがホントの私の姿で、『チヨ』30歳のおばさんなの」



「ううん、今もさっきも可愛いお姉さんだよ!」


「まぁ、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」


「お世辞じゃないもん、ホントだもん」


「「えへへへぇ」」



 千代は手を繋いで女の子と一緒に歩き始めた。


「こっちに行くと、たぶん道に出るよ」


 ミーナに手を引かれて歩いて行く。




 道中、角ウサギと狼に襲われたが、マジカルステッキのファイヤーボールで始末した。

 30歳ならば、そのぐらいの事は怖くても出来る。


「お姉ちゃん、強くてカッコいいね」


「えへへ、そんな事ないけどぅ」



 小さな魔石2つと、ウサギの角と狼の牙を素材として手に入れた。

 毛皮は焼け焦げてしまったが、ファイヤーボールじゃなければ服に使えたのだろうか?


 肉も一緒にインベントリに入れといた。

 千代はそのぐらいのお約束の知識は持っていたし、年齢による経験と落ち着きもあった。



「魔物のお肉って食べれるのかなぁ?」


「たぶん。でも食べれないのと美味しくないのもあるよ」



「食べた事あるの?」


「うん。オーク肉は美味しいって、皆言ってるよ」


「ふ~ん」





 やがて木々の間に開けた空間が見えてきて、それが街道だった。



 ドドドッ、ドドドッ……


「御嬢様こちらにいらっしゃいましたか。お探ししていました」


 馬上の騎士が声を掛けてきた。

 漆黒の馬に跨り、羽の付いた大きな帽子を被ってる。背中のビロードのマントが風に揺れていた。


 更に後から馬車が現れた。

 貴族の乗る馬車だと一目で分かるほどの豪華な馬車だった。

 彫刻や銀細工が随所に施されていて、赤や青の漆の様な色が塗られている。



 ドアを開けて、子供の顔が飛び出してきた。


「ミーナ! 良かった。スグに騎士と川に助けに戻ったのに居なかったから、心配したんだよ!」


「あら、ルカったら、私を置いて逃げたじゃない。酷いわ!」



「ごめんよぅ。ゾンビは騎士に助けて貰わないと、僕じゃ敵わないからさぁ!」


「もう、素敵なお姉さんに助けて貰ったから良いわよ」


「ふ~ん」


 騎士とルカという男の子から、懐疑の視線を浴びせられた。

 ルミナの格好なので恥ずかしい、早く着替えて元の体に戻りたい。



 騎士が数歩前に出て、話しかけてきた。

 唇と鼻の間に髭を生やしていて、先がピンっとカーブして上を向いている。


「御嬢様を助けて下さりありがとうございます。私はジョヴァンニと申します。お嬢さんの御名前をお伺いしてもいいですか?」


「はい、チヨと言います」



「チヨお姉さんに、お礼に服を上げると約束したの。馬車に乗せてもいいわよね?」


「はい、勿論です」


 騎士が馬車のドアを開けて、ミーナの手を取り中へ入れた。



「どうぞ御乗り下さいませ」


 ジョバンニは私にも手を出してくれた。左手を彼の手の上に乗せて、支えて貰いながら馬車に入った。


「失礼致します」


 馬車の中はミーナとルカと3人だ。騎士は馬上で前後を護衛している。



「お姉さん、収納魔法は希少な魔法で使い手が少ないって言われてるの。持ってるだけで重宝がられるの」


「そうなんだ」



「へ~、お姉さん収納魔法が使えるんだ! 僕の侯爵家で是非とも働いて貰いたいね。重い荷物があるとき助かるもの」


「いいえ、お姉さんは私の家で働いて貰うの! 私の専属お姉さんになってね!」



「まぁ、『専属お姉さん』って職業があるの?」


「今作ったの、特別待遇!って意味なの」



「それは……どうもありがとう」

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