第20話 ダンジョン発見後の日常

「おはよう、おチヨちゃん」


「おはようございます…クラインさん」



「ダンジョン出現で採取に行けないのだから、遅く起きても良かったのに」


「……いいえ、採取には…行きます」


「え、行くの?」


「はい、行きます」



「じゃあ、僕も一緒に行くよ」


「護衛ゴーレムが出来たので、クラインさんは無理しなくてもいいです」


「そんなことないよ、大丈夫だよ」



「冒険者達が来ると、インベントリを使った採取が出来なくなると思うのです。だから、今のうちにインベントリを使って沢山の石英を採取しておこうと思います」


「そうか、そういう事なら喜んで協力するよ」


「はい、ありがとうございます」




 クラインと千代はダンジョン近く迄行き、いつものように石英を採取する。


「アダモちゃん、インベントリから出て来てちょうだいな」


『は~い』


 シュィイイインッ!

 ギュッ!


 護衛ゴーレムのアダモが、現れるなり千代に抱き付いてきた。



『プッハ~、この為に生きてるって感じですぅ』


「まぁ、仕事終わりに1杯飲んだサラリーマンですか!……ねぇアダモちゃん、私達が採取している間、護衛していてほしいのだけど?」


『は~い、畏まりましたぁ』


 タタタタタッ、ビュンビュンビュンッ、ピョォォォンッ!


 アダモは側転からバク転して、クルクルと回転しながら大木に近づくと。ジャンプして木の上に上り、早速辺りを睥睨へいげいして警戒態勢に入った。




 それからしばらく、千代とクラインはかなりの石英を採取したが、千代のインベントリにはまだまだ余裕があった。

 2人は小1時間程石英を採取したので、工房に帰ることにする。


 ふと気が付くと、周りにオーガやオーク等の魔物が20体ぐらい倒れていた。


「まぁアダモちゃん、沢山倒してくれてありがとう」


『お役に立てて光栄ですぅ。お邪魔にならないように瞬殺しておきましたぁ』


「そう……お疲れさまでした」



「おチヨちゃん、アダモは凄い護衛ゴーレムだね」


「はい」


『へへへぇ、このぐらいお茶の子さいさいですぅ』



 帰り道で誰かに見られないように、アダモは再びインベントリに入って貰うことにした。

 ロッティは行きも帰りも空の荷車を曳いている。

 千代がクラインを意識して、ワザとロッティを挟むようにして隣りを歩くので、ロッティは終始上機嫌だった。




 翌日から、ちらほらと冒険者達がカタランヌ町に訪れ始めた。

 午前中の採取から帰って来た千代は、雑用を終えてからローリーと一緒に店員として働く。


「明日からしばらく採取を控えます。魔物が居るのに採取していたら、変に思われるでしょうから」


「そうよね。目立ちたくないなら、そうした方がいいわね」


「はい」



 冒険者ギルドのグループの中には貴族のパーティもある。

 その為なのか、店に身なりのいい騎士風の男が入って来た。


 男は陳列されてるグラスを手に取って尋ねた。


「このグラスは、ここの工房で作ってるんだよね?」


「はい、そうです」



「これには【耐熱+1】が付与されているだろう? これをセットで注文したいんだが?」


 ローリーはチラッと千代の顔を窺う。

 チヨは小さくコックリと頷いた。



「畏まりました。1週間程お時間が掛かりますが、よろしいですか?」


「おぉ、作ってくれるのかありがたい。急がなくていいから良い物を作っておくれ。侯爵様への献上品にしたいのだ」



「侯爵様への献上品ですか?」


「そうだ、今話題に成っている熱い紅茶を入れても割れないグラスを献上したいのだ」


「熱い紅茶を入れても割れないグラス……!?」



「何だ、もしかしてそれを意図した物では無かったのか?」


 ローリーは再びチヨに目をやった。



「あの、【耐熱】効果を付与してグラスを作れば良いのですね?」

 千代が応えた。


「そうなんだが、出来るのかい?」


「はい、出来ます。デザインをこちらのカタログからお選びくださいませ」



 それは手書きのデッサンで書かれた製品カタログだ。

 職人は絵の得意な者が多いので、人気にんきがある製品を描いて貰い、貴族の注文に応える為にお店に備えていた。


 その冒険者はカタログから製品を選んで、頭金を十分に払って帰って行った。



「まさか貴族様に気付かれると思わなかったわ。チヨのガラス製品を【鑑定】されてしまったのね」


「【付与魔法】が勝手に製品に効果を付けてしまうのです。勿論、意識して特定の効果を付与する事も出来ますけど」



「まぁ、悪い事をしている訳では無いし、そういうニーズがあるなら良いじゃない?」


「はい、でもこの事は売りにしないでほしいです」



「分かったわ。チヨがそう言うならそうしましょう。でもクチコミで噂が広がっちゃうかもね」


「はい、それはしょうがありません」




 千代は休憩時間にアダモをインベントリから出して上げた。


『御嬢様ぁ、アダモにフェイスマスクを作って下さ~い?』


「アダモちゃんの顔は綺麗だから、そのままでもいいでしょう?」


『ありがとうございます。でもサチコ様から言われたのです、護衛は目立ってはいけないと。だからマスクを付けていたのですぅ』



「そうなのね、人間の顔のマスクって、どうやって作ってたの?」


『ゴムというものですぅ』



「う~ん、服飾用のゴムバンドはあるけど、ゴムの原料はカタランヌ町では見た事がないなぁ」


「絵を描くキャンバスではどうかしら、結構リアルに人の顔を描いてるのを見たことがあるわよ」

 と、ローリーが言った。



「絵の上手な職人さんに、実物大の顔をキャンバスに書いて貰って、それをアダモちゃんの顔に被せるのですね?」


「私達でやってみようか? ただし絵画の道具は、エルレイダまで行かないと売って無いけどね」


「はい、やりましょう。エルレイダにも行ってみたいです」


 千代とローリーでキャンバス布と絵具と筆を買いに、エルレイダに行くことに成った。



『アダモもインベントリに入れて連れてってくださ~い。カツラと靴も買って欲しいですぅ』


「舞踏会用のカツラと仮面ならエルレイダで売ってるわよ。貴族がよくパーティで使うからね」


「はい。 明日、エルレイダに行っても良いですか?」


「うん、乗合馬車に乗って一緒に行きましょうね」


「はい」

『ハ~イ』

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