第31話 熊獣人の里からの逃走劇
コッコッ!
と、ドアがノックされて、熊獣人の侍従が入って来た。
「王妃様、王女様。国王様が夕食に来るように、と仰っておりますが、
「母上、食事をして栄養を取った方が宜しいのではないでしょうか?」
「そういたしましょう。……チヨ様も御一緒にどうぞ」
「……はい」
「それでは国王に伝えておくれ。客人と3人で、お伺い致しますと」
「畏まりました」
3人は国王の夕食の席に着いて
「チヨとやら、王妃を治療してくれてありがとう。感謝しておるぞ」
国王はジャンヌより背が高くて肩幅も広く、熊獣人の姿では無く普通の人間の姿であった。
「いいえ、お役に立てて光栄です」
「田舎なので御馳走は無いが、遠慮せずに食べていっておくれ」
「はい、ありがとうございます」
「父も人間の姿に成れるのだ。人間の姿に成れるのは、魔力の多い者だけなんだ」
隣に座ってるジャンヌが千代にそう囁いた。
熊獣人の王である熊吉は千代に興味が湧いたらしく、しばしば男の目で千代をジッと見つめる。
「チヨ殿、良ければここに住んではどうだろうか?」
「ありがとうございます。ですが私は、ラルーシア様の元で修行中の身なのです。残念ですが、お断りさせて頂きます」
「そうか、それは仕方がない。それならいつでも遊びに来るといい」
「はい」
ジャンヌと王妃が、ジト目で熊吉を見ていた。
夕食を終えて、ジャンヌと千代は王妃ペネロペの部屋に戻った。
「ジャンヌ、一刻も猶予がありません。熊吉のチヨ様を見る目に気付いたでしょう? 外は暗く成っていますから闇に紛れて逃げましょう」
「父上はチヨとチュウをするつもりなのだ。チヨ、父上より先に俺とチュウをしてくれ?」
「ジャンヌ様、落ち着いてください、今はいけません。取り敢えず、ラルーシア様の家まで逃げましょう」
「しかし、母上の足で暗い山道を歩いて逃げるのは、難しいのではないだろうか?」
「……そうですね」
「ジャンヌ、チヨ様。今逃げなければ一生後悔する事になるでしょう、3人共に!」
「「……」」
「チヨ、3人一緒に【転移】出来ないだろうか?」
「3人一緒というのは、まだ試した事はありませんが。1度訪れた場所には【転移】出来る筈なので、失敗したとしても、又ここへ【転移】で向かいに来れば良いと思います!」
「そうだな……母上、チヨは移動魔法が使えるのですが、一緒に【転移】する為には密着していなければなりません。前後から千代に密着しましょう」
「はい」
千代は母娘にギュ~ッと、サンドイッチにされた。
「はぁぁ! これが親子丼って言うのかしら? ……ラルーシア様の家に【転移】!」
シュィイイイイインッ!
3人での転移は上手くいった。ギュ~ッと密着してたのが功を奏したようだ。
「おぉ、
「師匠、私も居ります。私が【転移】魔法を使ったのです」
千代が3人の内で1番背が低く、2人に挟まれていたのでラルーシアからは見えてなかったのだ。
「ほぅ、【転移】魔法でも服を着てるように密着していれば、3人でも【転移】できるのじゃな! 今度、ラルも混ぜて貰うとしよう」
「もぅ……そんなことより、師匠! 2人はラフラン王国に逃げ帰ると言うのです。どうか協力してやってください」
「なに! 熊獣人は執念深い種族じゃ。きっと何処までも追いかけてくるぞ! すぐにここを離れた方が良い。そうだ【転移門】のクリスタルを使うとしよう。もうここへは帰らぬぞ、千代は出来る限りの物をインベントリに収納するのじゃ」
「はい、お師匠様。この家の物を出来る限り【インベントリ】に収納!」
キュィイイイイイイイイイインッ!
ピッカァアアアアアンッ!
気が付くと、ポッカ~ンと開けた更地の上に4人は立っていた。
「はぁ、チヨ! えげつない収納力じゃのう。お
「はい。いえ、私もビックリしました。いつの間にか収納魔法が【インベントリ
「なんと!」
「「まぁ、凄い」」
『御嬢様ぁ、ダンジョン核を【インベントリ】に入れっぱなしにしてるからぁ、核から溢れる魔力で【インベントリ】が成長し切ってしまったんですぅ』
インベントリの中から、千代だけにアダモの声が聞こえてきた。
「はぁ……師匠、どうやらこれはダンジョン核の影響らしいです」
「ダンジョン核!? お主はそんな物を持っておったのか!」
「はい」
その時、ラルーシアが何かを感じて、急に西の方を遠い目で見た。
「うん!? どうやら熊獣人達が山狩りを始めたようじゃ、こっちにも向かって来ておるぞ!」
「ラルーシア様、母上は脚力に不安があります、急いでここから逃げましょう」
「そうじゃった、ラフラン王国王都に【転移門】オープン!」
ブゥウウウウウウウウウウンッ!
ラルーシアのクリスタルから魔法陣が浮かび上がり、虹色の丸いゲートが広がっていく。
4人はゲートを潜り、ラフラン王国王都ロワールのシュリシュルワール城の近くに、一瞬で移動した。
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