第2話 魔法少女勇者ブリリアント☆ルミナ

 魔王を封印した後およそ45年、彷徨さまよい続けていた魔法少女勇者『ブリリアント☆ルミナ』の魂は、ようやく異世界から召喚された、穢れなき純真無垢な光属性を有する体を見つけて入り込んだ。


 本当は身も心も若い体が良かったのだが『30歳で心身共に処女』が、より魔力の大きい魔法少女の必要条件だったらしい。

 宮廷魔導士7人に召喚された30歳処女腐女子の体に、ようやく憑依したのだった。


「おぉ、45年ぶりの体だ! ……ブゴゴゴッ、ガボッ! ガハッ、ガハッ、たっ、助けてぇ!」



 千代は泳いで岸に上がった。

 泳ぎは得意だった。


「誰? 誰か居るの?」


 もしかして、誰か溺れてるのかと川を見るが、それらしき様子は無い。



「もぅ、何で川で溺れてるのよっ?」


「誰? 何処に居るの?」


「私はあなたの中に居るのよ。私は魔法少女勇者Brilliant☆luminaブリリアント☆ルミナよ。貴方の体に憑依したの」



「Brilliant☆lumina、もしかしてあなたBL(Boys・Love)なの?」


「はぁ? B・L……Brilliant☆luminaだから、B・Lと言えばB・Lだけど……」



「良かった、六つ子は居るかしら! 願いは聞き届けられたかしら?!」


「……間違った子を召喚してしまったらしい。 ねぇ、何で獣の服を着てるの? 取り敢えず被り物を取ってくれないかしら……濡れてるし、息苦しいわ」



 千代はハムスのマスクを外した。

 体は汗対策のレオタードだけなので、脱ぐ事が出来ないのであった。


 千代があらためてマスクを見ると、ルミナもマスクを見る事に成るので、


「ヒェッ、ネズミ! いやぁっ!」



「……ハムス嫌いなの?」


「ハムス? ネズミは嫌いよっ! それより、この体は何で私の思った通りに動かないの? こんな事初めてだわ、このままだったら魔王と戦えないじゃない! どうしましょう?」



「あのぅ、私の体で魔王と戦うの?」


「そうよ、その為に光属性を宿す者を異世界から勇者召喚するのよ。なのに何で川で溺れてたの?」


「あぁ、……私、お城の中に呼び出されて『魔物だあああっ!』って騎士達に襲われて、川に落ちたみたいです」


「はぁあ? ……人の大きさのネズミが現れたので、魔物と勘違いされたのね。じゃあ、早くお城に引き返しましょう」


「……嫌です」

 ボソリと呟いた。



「えっ、何て言ったの?」


「ぜえええったいに、嫌です!」

 大きな声を出した。



「えっとぅ……貴方には、勇者として名誉と栄光が約束されてるのよ。お城に帰れば、豪華で贅沢な生活が待ってるわ!」


「尚更、嫌です」


 すたこらサッサ、トットコト……。



「あっ、待って、そっちは逆の方向よ! お城はあっち。……もう、何で私の思い通りに動かないのよ、この体はっ!」


 千代は下流へと歩いて行く、城と逆の方向だ。



「キグルミがビショビショでグチョグチョだけど、脱いで乾かす事は出来ないわ」


 下はレオタードだけなので、脱ぐ事が出来ない。

 キグルミを着て大きな振り付けで踊るので、「中の人」はレオタード1枚が普通なのだ。



「ねぇ、何処かで服を乾かしましょうよ? 気持ち悪いからさ」


「……あなたも気持ち悪さを感じるの?」


「そうね……私が主導権を握れば、簡単に魔法で乾かせるのだけど……」



「そうなんだ。私は自分で魔法を使えないのかしら?」


「魔法を使うには練習と経験が必要なのよ。貴方は異世界人だから、いきなり魔法を使う事は出来ないわ。ただし魔力量は多いはずよ、そういう者を勇者召喚するのだから」


「そう……」



「魔法少女って知ってるでしょ? 貴方の世界のアニメとか言うので見てたでしょ? それに貴方が成れるのよ!」


「……」



「ねぇ、取り敢えず魔法少女に変身してみようか? そうすれば私の魔法がすぐに使えるはずだから。歴代の魔法少女は変身後に私がリードしてたのよ」


「……」



「じゃあ、私の言う通りに変身してちょうだいね?」


「嫌です」

 即答した。


「えっ?!」


「知らない人に主導権を握られたくありません!」


 素では人見知りで、コミュ障の私は彼女を受け入れられない。

 ハムスの時は、世界中の人と触れ合っても大丈夫だったが。



「ちょっと成ってみたいと思ったけど、そういうのは妄想だけで十分です。むしろ現実は妄想を越えられません。いいえ、打ち壊すのが現実です」


「はぁ……ねえねえ、でも魔法を使ってみたいと思うでしょ? 変身しないでいいから、教えて上げるからやってみよう、ね? せっかく異世界に来たんだから魔法を使ってみようよ? ……じゃあ指の先からお水を出してみようか?」



「お約束では、最初は火じゃないの?」


「水よ、先に水を出せないと火を消せないから」


「でも属性が違うでしょ? 乾かす事が目的なら火属性の練習をした方がよくないの?」


「私は全ての属性があるし、貴方もその筈だから大丈夫よ。 勇者召喚は魔力が大きい子を招くの。 ただし光属性にある程度の適正が無いと、【魔王封印】出来る光属性の上級魔法が使えなくて困るから、それが最低条件ね」



「私は出来るの?」


「その筈よ、やってみましょうね。教えてあげる」



 千代は魔法を使ってみたくなった。


 ルミナに教えて貰った通りに呪文を唱えると『ピュッ』と水がでた。

 水鉄砲みたいだ。



「じゃあ、次は火をともしてみましょう」


 呪文を唱えると、人差し指の先から『ボッ』と火が燃え上がった。

 マッチ棒に火が付いた様だった。



「上手上手、1発で成功するなんてセンスいいわ」



「乾かすのはどうするの?」


「徐々にスキルアップするから、乾かすのはまだ無理だわ」



「自分で乾かせないの? 今、キグルミを乾かしたいのに」


「だから魔法少女に変身すれば、私の魔法で乾かしてあげるわ」


「嫌です」

 即答した。


「はぁ」


 気まずいが、そのまま歩き続ける事にした。



「ねぇ、これからどうするつもり? 武器もお金も着替えも無くて、獣に襲われたらどうするの?」


「何とかなります」


「ならないと思うけど」



「なる様にしかなりません」


「自暴自棄は良くないわ!」


「……」



 やがて、川の流れが緩やかになり、平地に出た。

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