第26話 逃避行再び

 ダンジョン前で貴族女子グループが千代に近づいてくる。


 彼女らの格好は騎士風で花やアクセサリー等の華やかな装飾を付けていた。

 少し耳が尖った娘が1人混ざっている、どうやらハーフエルフのようだ。

 上級貴族には、より優れた魔法力を求めて権力と金銭に物を言わせて、エルフと縁を結ぶ者もいるらしい。

 ただし、エルフは人間と比べると長命だが繁殖力が低いので、子供が出来にくいと言われている。



「ねぇ貴方、もしかして『魔法少女勇者ブリリアント☆ルミナ』なの?」


「えぇ! ルミナはこんなお子様じゃないでしょう?」


「あら、絵本にあるルミナにそっくりじゃない。見た事無いの?」


「えぇ……見たことは有るけど。……それって、ずっと年を取らないってこと?」



「たぶん、ルミナに憧れていて、真似をしているだけじゃないの?」


「「「う~ん!?」」」



「……」


 千代は何と答えていいか分からなかった。



「わたくし、取り敢えずサインして貰おうかな?」


「それならわたくしも」


「わたくしは念話のアドレスと許可を頂きたいわ」



「それより私達のパーティに入ってくださらないかしら? 攻撃魔法も回復魔法も使えるなんて、私達のパーティに是非…入れて上げますわよ」


「「「うんうん」」」



「そう言えば、『ルミナを見つけたら100ゴルド』って手配書が出てたけど……あなた、わたくし達と一緒にエルレイダに行きましょうね」


「「「そうしましょう」」」



「ごめんなさい、失礼いたします……工房に【転移】!」


 シュィイイイイインッ!



「あ、【転移】魔法を使うなんて凄い! じゃなくって、ズルイ! みんな、必ずあの子を捕まえるのよ!」


「「「はい」」」




 千代は元の姿に戻り、ローリーと住んでる家に閉じ籠る。


 しばらくして、ローリーが家に帰って来た。


「あらチヨ! 家に帰って来ていたのね。ダンジョンから帰って来た冒険者達に、貴方を見なかったか聞いてたのよ!」


「突然居なくなって、ご免なさい」



「緊急事態だったからしょうがないけど、今度から相談してよね。これでも保護者のつもりなんだから」


「はい、ご心配かけてすいませんでした」



「それで単刀直入に聞くけど、チヨは『魔法少女勇者ブリリアント☆ルミナ』なの?」


「はい。話すと長くなるのですが……」


 千代はローリーに、転生してからこれまでの経緯を話した。



「はぁ、そうだったんだぁ。大勢の前でルミナに変身して【転移】魔法を使って。しかも、ダンジョンで活躍したのも、大勢の冒険者達に見られてしまったんだよね?」


「はい」



「それじゃあ、このままここに居たら、やがて帝国に捕まってしまうでしょうね」


「……はい」 ショボン……。



「でも、チヨ本人の顔を知ってるのは、カタランヌ町の人だけだから。何処か離れた他の町で暮らせば、捕まらないかもしれないわよ」


「はい……」



「取り敢えず、カタランヌからは離れた方がいいわね?」


「深い森の中にでも、ポツンと一軒家で暮らせないでしょうか……」


「あっ……私の冒険者時代の知り合いが、森の中で1人暮らしをしてるから、そこへ会いに行ってみましょうか?」


「はい。 でも、ガラス細工と陶芸の仕事は続けたいなぁ……」



「そうだ、職人達が帰ったあとの時間帯に【転移】でここに帰って来なさいよ、窯を使わせて上げるから。 次の朝、職人達が来る前に【転移】で出かければいいのよ」


「そうですね…それはいいかもしれませんね。 珪砂の品質を保って魔法付与も出来るから、工房の売り上げに貢献し続ける事ができそうです」


「あら、工房の事も心配もしてくれるのね。それは嬉しいけど、チヨは自分のペースで自分の為に出来る事をしなさいな」


「はい……」



「さぁ、明日は一緒にチヨのこれからの居場所を探しに行きましょう」


「はい、お願いします」





 次の日の朝、職人達に告げずに置手紙だけして外に出た。

 ロッティに荷車を曳かせて、そこに2人で乗る。

 長旅でお尻が痛く成らない様に、クッションを置いて座った。


「ロッティ、ちょっと重いけど2人を乗せて行ってね。今日は荒れてない街道を走るし、石英より重くないでしょうから宜しくね」


 ブッルルルンッ!



「さぁ、昔の森の知り合いに会いに行きましょう。結構遠いのよ!」


 2人と1頭は、北のフィレニー山脈を目指して街道を北上していった。



 主街道の峠を越えると、まずエスタード王国からアンドーラ公国に入る。


 峠を下る途中で主街道から西に折れて人気ひとけの無い道を行くと、やがてアルゴレルという村落に着いた。

 家は緩やかな斜面に、まばらに5軒しか建っていない。



 その村落の山側の外れに、その家は建っていた。


「こんにちは~、ローリーですよ~」


 返事は返ってこないが、ローリーは遠慮なくドアを開けて入る。


 ギイィィィ、バタンッ!



「居ても居なくても、出直す事は出来ないのだから、入って待つしかないのよね」


「そうですね……、お邪魔致します」



「ここに住んでるのは、私が入っていた冒険者パーティのメンバーなの。ハーフエルフの魔法使いで、ラルーシアと言うのよ」



 そんな話をしていると、不意にドアを開けて家の主が帰って来た。


 ギイィィィ、バタンッ!



 小柄で若くて、三つ編みのブロンド髪をおしゃれに巻き上げている。

 採取をしていたのだろうか、リュックサックを背負っていた。


「いらっしゃい、ローリー。おひさね」


「はい、お久。 こっちは妹分のチヨよ。 チヨ、古い友人のラルーシア・ニダヴェリールよ」


「「はじめまして」」



「お茶を淹れるからちょっと待っててね。喉が渇いてるの」


「私達もよ」

「そうでしょうね」



 ローリーは、御土産に持ってきた工房産のガラス製品と陶磁器をテーブルに並べていく。


「うちで作った物だけど使ってね」


「まぁ、嬉しい。食器はありがたいわ」


「そうだと思ってたのよ」



「あら、魔法付与がされてるのね!?」


「へへぇ、この子が使える子なのよぅ」


「ヘぇ、大したものね!」



「それでね、実はこの子を預かって欲しいの?」


「ふ~ん。私はいいけど、若い子にここの生活は厳しいと思うわよ?」


「それは、この子なら大丈夫。それにややこしい事情もあるの……」


 ローリーは、そう言って千代に目配せした。



「はい、私からお話しさせて頂きます……」


 千代はここへ来るに至った経緯をラルーシアに話しだした。

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