第27話 錬金術師の弟子になる

 ローリーは、1泊して翌朝早くに帰る事にした。



「なんだ、ロッティの馬具にも荷車にも、魔法付与が付いて無いではないか」


 ラルーシアがロッティと荷車を見て言った。



「はい、何を付与すればいいのでしょうか?」


「馬具には【筋力増強】、荷車には【重量軽減】かしらね」


「どちらも覚えてませんが、試してみますね。……馬具に【筋力増強】を付与!、荷車に【重量軽減】を付与!」


 スカッ、スカッ!


 ピンポロリン♪


 千代の【魔法付与Ⅲ】に【筋力増強+1】が加わった。



「【重量軽減】は覚えませんでした。もう1回やってみます。……馬具に【筋力増強】を付与!、荷車に【重量軽減】を付与!」


 シュィイイインッ!

 スカッ!


 ロッティの馬具に【筋力増強】効果が付与されたが、荷車に【重量軽減】効果は付与されなかった。



「やはり【重量軽減】は付与出来ませんでした」ショボン。


「人それぞれに応じた魔法やスキルの適正があるのよ。同じ属性の中でも、覚えられる物と覚えられない物があるの。威力にも効果にも差が出るのよ。ただし、経験を積む事により適性の無いスキルでも開花する事があるし。また、魔道具や特殊な素材を触媒として魔法を発動出来る事があるのよ」


「そうなんですね」



「ラルも元々は基本4属性にしか適性が無かったのだけど、この魔導書グリモワールに書かれてる術式を呪文を唱えて発動する事により、適性の無い魔法も使うことが出来るのよ。何度も魔法を発動する内には、グリモワール無しに発動できるように成る事も稀にあるの。 ルミナは魔法に特化した勇者だから、チヨには沢山の可能性があると思うわ」


「はい」



「取り敢えず【重量軽減】の魔法は、毎日1回チャレンジしましょうね」


「はい」



「それでラルは錬金術師として、魔道具やポーションや巻物を売って生計を立てているの。 チヨには明日からラルの助手として働いて貰う事になるわ。それが住み込みの条件だけどいい?」


「はい、是非よろしくお願いいたします」


 千代は荘厳で重厚な魔導書グリモワールをラルーシアに見せられて、未知の魔法にワクワクドキドキしてしまった。

 それは妖精族のエルフの里に、数千年以上も前から引き継がれてきた貴重な書物だったが。 ほとんどのエルフは、数百年前にユグドラシルの上位世界アースガルズに去ってしまい、現存する最後の一冊の魔導書グリモワールをラルーシアが持っていた。




 朝早くに、ローリーとロッティはカタランヌに帰って行く。


「週1ぐらいで、珪砂の精製と魔法付与の為に【転移】で帰る予定です、お元気で!」


「チヨも元気でね!」



 ブッルルルンッ!


「うん、ロッティも元気でね!」



 ロッティは【筋力増強】効果を付与した馬具のお陰で、鼻歌を歌いながら軽々とローリーを乗せた荷車を曳いて帰って行った。


 バッフフンッ♪ ブッヒヒンッ♪……



 千代は2人の姿が見えなくなるまで手を振って見送った。


 グッスン……、




「ゥオッホン! あ~ぁ、ラルは錬金術士じゃ。錬金とは魔法で物作りをすることじゃ。ゴールドを他の安価な物資から生成出来ないか、と言う所から始まった魔法使いの生産業なのじゃ!」



「あのぅ、急に『じゃ』が語尾に付き始めましたけど?」


「ん? 師匠とは、そういう風に話すものであろう? ラルも初めての弟子が出来たので師匠らしくするぞよ」


「……はい、そうなんですね」


 ラルーシアは年齢の割に、結構残念で痛い女子だった。



「これが錬金盤じゃ、この上に材料を置いて呪文を唱えて術式を発動させると、アイテムを精製できるのじゃ。これ自体が貴重な魔道具なのじゃ。

 誰でも使えるがアイテムの出来は人それぞれじゃ。持ってる魔法やスキル、経験などにより違ってくるのじゃが大事なのは魔力量じゃ、注ぐ魔力が足りなければアイテムは絶対に作れないのじゃ。

 マナポーションを飲みながら作る者もいるが、マナポーションもそれなりに高価なのじゃ。 せっかく作っても、使用効果に対してアイテムが高ければ、お客様は買ってくれないのじゃ。売れなければ材料費で大損じゃ」


「はい」



「ラルが主に作るのは、魔道具、ポーション、スクロールなのじゃ。 お主にも覚えて貰おうかのう」


「はい」



「まずは材料が無くては作れぬから、採取から学んでもらうぞよ。 それでは早速採取に出かけようぞ」


「はい」



 歩きながらも、ラルーシアが千代に話しかける。


「採取で大事なのは【識別】スキルじゃ、これが有るのと無いのとじゃ大違いじゃ。例えばミントを【識別】すればミントだけが表示されるのじゃ、シメジを【識別】すればシメジだけが表示されて、スグに見つける事ができるのじゃ」


「はい」

(この世界にもミントやシメジが有るんだね!)



「それじゃあ早速やってみるが良いのじゃ」


「はい、……ミントを【識別】!」


 ピンポロリン♪


 千代は【識別Ⅰ】を覚えた。


 と同時に、葉っぱの形のマークが目の前の数か所に現れて、マークと共に『ミント』という文字がフィールドに表示された。



「師匠、ミントを識別出来ました。採取しますか?」


「は~ぁ、師匠って呼ばれるのに憧れていたから嬉しいのぅ! ミントは回復薬の材料に使うから、勿論採取するのじゃ」


「はい……ミントをインベントリに収納!」


 シュィイイインッ!


「おぉ凄い! ルミナのインベントリは高性能じゃのぅ! 手で摘み取らなくて良いなんて、なんと腰に優しい収納じゃ!」



「次は何を採取しましょうか?」


「ドクダミ草がそこに見えてるから、それにしようかのぅ。効能はもちろん毒消しじゃ」



「はい。……ここら辺は薬草が沢山自生してるのですね?」


「元々、自生してるのもあったのじゃが、必要な薬草をラルがその都度植えたのじゃ」


「そうだったんですか」



「うむ、大概の薬草は近くに生えておるのじゃ。人が滅多に来ないから、野草の楽園と言ったところじゃのぅ」


「そうなんですね……素晴らしいです」



 2人は、今日使う薬草だけを採取して帰った。

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