第6話 公爵家別邸
千代とミーナとルカを乗せた馬車は大きな港町に着いた。
その港町で一際豪華な屋敷に馬車が入って行って、車寄せのある白い石積みの玄関前で停まる。
そこは帝国の王族に連なるレドケルン公爵家の屋敷であった。
「ミーナちゃん、ここに住んでるの?」
「ここは別邸で、お船の出航を待つ為のお家なの。お船で帝都と公爵領を行き来しているの」
「お家は違う島にあるの?」
ミーナは首を横に振った。
「ぅうん、どっちも大きな同じ大陸の中にあるの。帝都と公爵領は大きな湾を挟んで向かい合ってるの。北からも陸路で行けるけど、お船の方が早くて荷物を運ぶのも便利なんだって」
レドケルン公爵領に帰るには、船に乗るのが効率が良いらしい。
電気やエンジンが無い世界なので、風や嵐などの天候の影響を受ける為に、港の近くに別邸を持っていると言う事だ。
公爵家の船は大きな
風が無くても魔法で進む事が出来るが、魔力を大量に消費するので、なるべく風を受けて航行したいらしい。
「明日、家族と一緒に帆船で公爵領へ帰る予定なの」
「ふ~ん、そうなんだ」
屋敷に入ると、エントランスホールで公爵夫婦が待ち構えていた。
両サイドには侍従達が並んで控えている。
エントランスホールの正面には、大きな絵画が飾られていた。
吹き抜けの二階に当たる部分の壁一面に、彫刻の施された豪華な額縁に入れられている。
千代は思わず見上げて絵画に見入ってしまった。
「お姉さん、見て見て。ほらあそこ、お姉さんそっくりだよ!」
ミーナが興奮して私の服の袖を引っ張り、絵画の一部分を指さしている。
魔法少女勇者ルミナが魔王を封印してるところが描かれていた。
そのルミナの姿が今の千代の姿にそっくりで、服のデザインも髪の色も同じだ。
マジカルステッキを持って、同じティアラまで頭に載せている。
千代の背中を汗がダラダラと流れ落ちるのが感じられた。
「ミーナお帰り、ちょっとお転婆が過ぎるようだね」
公爵らしい威厳のある男性が優しくそう言った。
「御免なさい。お父様」
「無事で良かったわ。行方不明の報告を聞いた時は心配しましたのよ」
公爵夫人がそう言った。
子供がいるとは思えない程に、若くて可愛く見える。
「はい、お母様。申し訳ありませんでした。勝手に一人で行動しないように致します」
「そうですね、貴方は公爵家の跡取りなんですから、軽はずみな行動は自重するのですよ」
「はい、お母様」
「それでミーナは、そちらのお嬢さんに助けて頂いたのね?」
「はい、お母様。こちらの方はチヨ様とおっしゃいますの」
「お初にお目に掛かります、チヨと申します」
千代は短いスカートをちょっとつまんでカーテシーで挨拶をした。
これでいいのかなぁ? 私のマナーって大丈夫かなぁ?
「まぁ、こんなに可愛いお嬢さんにゾンビから助けて貰ったのね。どうもありがとうございます。何かお礼をしましょうね」
「お母様、チヨお姉様にお洋服を差し上げると約束してお連れしたのです」
「そうですか。それならドレスルームで、どれでも好きなものを選んで貰いましょうね」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
公爵婦人が斜め後ろを振り返り、絵画に目を移す。
「うふふ、とても良く似ていますね。勇者様の真似をしてらっしゃったのね?」
「え、えぇ、申し訳ありません。……悪気があってした訳ではないのですが、こんなに似てると思いませんでした」
こめかみに汗が流れた。
掌も汗でぐっしょりだ。
「初代魔法少女勇者ブリリアント☆ルミナは当公爵家の御先祖様なのですよ。魔王を封印した功績により、当家は女系の王族として長女が代々跡取りとなっていますのよ。だから後嗣のミーナを助けて頂いた事を改めて心から感謝いたします」
「偶然に出会って、少しだけお手伝いしただけです。私の様な者がお役に立てて光栄です」
「そうですか……どうぞゆっくりと
「はい」
ドレスルームで奥様のピクニック用のブラウスとパンツを貰った。それが一番目立たなそうだったのだ。他の服は貴族の服と一目で分かってしまう物ばかりだった。靴もピクニック用の一番地味な物を頂いた、唯一ヒールが低かったから。
その後で、夕食の席に招待されたので、それに合うドレスを借りて公爵夫婦とミーナと夕食を共にした。
公爵家に相応しい素晴らしい御馳走だったのだろうが。千代は緊張して食事があまり喉を通らず、何を食べたのか殆ど覚えていなかった。
その日は泊まらせて頂く事になり、夕食後に豪華な客間に案内されたが。ミーナが後を追うようにスグに部屋に来て、
「お姉様、私のお部屋で一緒に寝ましょう」
「え、えぇ」
ミーナは強引に千代の腕を引っ張って、自分の部屋に連れて行ってしまった。
「ミーナちゃん、御両親に怒られるのではないですか?」
「大丈夫です。私は姉妹が出来たら一緒のベッドでお話をしながら寝たかったの。一人っ子なのでやっと願いが叶うの」
「そう、それなら一緒に寝ましょうね」
ミーナのキラキラ光る瞳に訴えられると、千代は断る事が出来なかった。
千代とミーナはベッドの中で色々な事をお喋りしていたが、2人とも疲れていたらしく、割と早く眠りについてしまいました。
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