第45話 魔王の目覚め

 パインフィルド帝国の宮廷魔導士筆頭ペリノアが、カタランヌのダンジョンを確認しに来る数日前の事……。



 魔王ガリウスは夢にうなされて目が覚めた。


 彼はダンジョン核で作られた棺の寝床を千代に奪われて、千代が作った大理石の棺で横になっていた。

 ダンジョン核からの魔力が注がれてない為に、眠いし空腹である。


「う~ん、おかしいぞ。何故腹が減っておるのだ。闇の力も枯渇したままの様だぞ?」


 魔王は小脇に抱えたピンクウサギの人形を、マジマジと見ながら話しかける。

 ウサギの足の裏を見ると、「チヨ」と書かれていた。



「ウサギのチヨよ、ワシのダンジョン核は何処へ行ってしまったのかのう?」


「シラナ~イ」

 と、人形の代わりに自分で返事をしてみた。


 魔力も無く空腹なので、棺の中で人形と寝転びながら、1人で自問自答するのである。




 ガラガラガラガラッ!!


 突然棺の蓋が乱暴に開けられた。



「ガリウス起きよ! ラフラン王国の舞踏会に集まる各国の王族を殺して、世界中を恐怖のどん底に突き落とすのじゃ!」


 魔王が外の光の眩しさの中で、声のする方向に目を向けると、そこにはよく見知った老婆が立っている。



「赤い領主、魔女ハウナゴリか。……俺は空腹で気怠けだるいのだ、面倒な事はしたくない」


「魔王のくせに何をほざくか! 復活を手伝ってやるから早う棺から起きでよ」


「ダリィ……、ウゼェナァァ」



 ハウナゴリは大きな赤紫色の魔石を取り出して魔王に与えた。

 魔王がそれを大きな口を開けて一飲みにすると、


 ゴゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオッ!


 と、体から怪しい光を発しながら黒い煙を巻き上げて、棺から起き上がる。


「う~む、全然足りぬが少しだけやる気がでてきたわい」




 ☆ ▼ ☆ ▲ ☆




 ラフラン王国の王族の1人アンドーラ公爵は欲深い男で、魔女ハウナゴリの甘言に乗り、王座を狙い悪魔契約を結んでいた。

 ハウナゴリは魔王ガリウスをアンドーラ公爵に引き合わせて、公爵の15歳の跡取り息子を依り代にしてガリウスを憑依させる。

 息子は貴族学院に通うフィリップ第1王子とジャンヌのクラスメートであった。



「アンドーラ公爵よ、魔王が憑依した息子を貴族学院に帰して、舞踏会に出席させるのじゃ」


「分かりました」



「魔王に国王一家を殺させたら、息子を憑依から解放してやる。その後はラフラン王国をお主の好きにするが良い」


「はい」




「はぁ、面倒癖ぇなぁ。寝てるだけで魔力を回復できたダンジョン核が懐かしい」


 と、アンドーラ公爵の息子に乗り移った魔王ガリウスが言った。



「ダンジョン核は魔法少女勇者ルミナが奪ったらしい、見つけて取り戻すが良い」


「え、ルミナは何処に居るんだ? ラフラン王国に居るのか?」


「分からん、全く行方が掴めぬのじゃ。しかしルミナの子孫のレドケルン公爵令嬢ジェルソミーナが出席するらしいから、ルミナも助けに現れるかも知れぬな」


「ふ~む。魔女の言う事は宛に成らぬが……取り敢えずラフラン王国で、ひと暴れするとしようか」





 回復途中で魔力が少なかった魔王は、アンドーラ公爵の子息ランセロに憑依すると、ラフラン王国内で穢れた魂を持つ人間を襲い、ようやくと闇の力を取り戻してきた。


 アンドーラ公爵の息子ランセロ(魔王ガリウス)は、貴族学院に戻り舞踏会に向けて準備を始める。

 そのせいで、貴族学院周辺では行方不明者が増えていくが、貴族では無く浮浪者や孤児などの平民が居なくなっているので殆ど問題になっていない。

 むしろ、ならず者や浮浪者が減って良かったと、安直に衛兵達は喜んでいたが、舞踏会が近いので治安維持の兵士は増やしていた。


 ラフラン王国王都ロワールで居なくなっているのは、泥棒、暴漢、スリ、などの悪事を生業なりわいとする平民達だった。

 魔王は民の魂を地獄に送る事で闇の魔力を増幅して、集めた血で闇属性の魔法陣を描いていく。禁忌闇魔法の【魔界門】の魔法陣を描くには、穢れた血が大量に必要だったのだ。


 魔王は魔界召喚の魔法陣をロゼワール迎賓館を囲むように配置して、秋で沢山落ちてる枯葉を使い、魔法陣を覆い隠した。




 その昔、初めて魔王とルミナが対峙した時、魔王はルミナが好ましくて、追い詰めたが止めを刺す事をためらった。そして次の様なルミナの提案を受け入れたのだった。


「帝国に世界を統一させて、その後に2人で世界に君臨しましょう。私達は漁夫の利を得るのです。

 50年に1度、2人で筋書き通りの演技をして帝国に領土を広げさせて、最後に私達で世界を丸ごと頂くのです。

 反帝国意識の高い属国や敵国内で魔王復活をして国力を削ぎ、帝国からの勇者が魔王を封印して恩を売るのです。次々と周辺国を帝国の支配下に治めれば、容易に世界統一が出来るでしょう」


 そう約束して、数世紀にわたって茶番を演じていたのだった。

 異界からきた2人にとっては大して長い期間では無かったのだろう。

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