第44話 千代の生存計画

 千代は計らずも貴族になってしまった。

 そして貴族の女性として、舞踏会にジャンヌと出席しなければならない。


 千代は人見知りで男性と付き合った事が無い。しかし自分では、それはそれで良いと思っていた。

 だから元の世界では、B.Lやゲームなどのオタク文化にハマっていたのだ。


「恋愛は妄想だけで十分です」

 と、いつも同志に強がっていた。



 ところが突然、異世界に勇者召喚されてしまい。次から次へとトラブルに巻き込まれていき、元の世界に戻れるか分からない。

 この世界で何とか生きていかなければいけない。という事は、いつもマイペースな千代でもヒシヒシと感じている。


 運が良かった事には魔力が多く、生産スキルを獲得してレベルも上がっている。

 シャンボール城という住居もあるし、同居者にも恵まれて、愛されてる事を感じている。

(本人談:友人や家族的な意味でですからね!)


 叔父さんや弟の様に思っているドニロとカシオも同居するようになった。



「そうだわ、皆と幸せに生活する為にスキルを活かしましょう。

 付与魔法を服や装飾品に掛けて、魔物に襲われても簡単に負けないようにしましょう。

 私がルミナに変身するチヨである事がバレない様に、先ずは舞踏会に来ていくドレスに認識阻害効果を付与しましょう」



 千代はまだ【認識阻害】の付与魔法を習得していなかったので、グリモワール(ラルーシアの所蔵書だが千代のインベントリに保管中)を見ながら練習する事にした。


「舞踏会用のドレスに【認識阻害】を付与!」


 ……スカ……



「もう一度、舞踏会用のドレスに【認識阻害】を付与!」


 ……スカ……



「はぁ、もう一度……」


 ……スカ……




 そんな千代の練習する姿を師匠のラルーシアは隠れて見ていたが、やがて焦れて声をかけてきた。


「チヨ、何をしているのじゃ?」


「はい、【認識阻害】を習得したくて練習しています」



「それは舞踏会用のドレスではないか! そんな物に【認識阻害】を付与して舞踏会に出席したら、反体制派のテロリストと疑われてしまうぞ! 各国の王族が出席するのじゃからな」


「はっ、それはいけませんね。それでは何を付与したら良いでしょう?」


「何も付与しなくてよいじゃろう。既に、お主は人類最強じゃ!」



「はぁ……物理はそれ程でも無いと思いますけど……。 でも、一緒に行くジャンヌ様やドニロさんやカシオくんの安全を確保したいのです。私の目が届かない所で魔物に襲われたら守れませんから」


「それなら、防御を強化すればよい。ほれ、ベルトに【障壁+5】を付与したであろう。あれはかなり強力じゃぞ、魔力切れさえ起こさなければ、ほぼ無敵状態じゃ」


【障壁+5】は体に当たる寸前で攻撃を跳ね返す魔法だが、その度に魔力を消費するし、魔力切れになると効果を発揮する事は出来ない。

 ドニロとカシオはマナが少ないので、千代は気が付く度に、2人のベルトの魔石に魔力を注いであげていた。



「【筋力増強】と【敏捷】と【回避】を服かアクセサリーに、剣に【重量軽減】と【命中補正】を付与しても良いでしょうか?」


「ふむ、ジャンヌとドニロとカシオに補助魔法を掛けてやるのじゃな。まぁ、良いじゃろう。じゃがドニロとカシオはマナが少ない。魔石を付けて魔力を充填してやらぬとならぬじゃろうのう」


「はい。魔石を持ってますので、付けて魔力を注いでおきます」


「過保護じゃのう。あやつらは稽古が足りぬだけなのじゃ、はぁ……」



 ◆ ☆ ▼ ◇ ★



 千代には誰にも言えない趣味がある。

 えっ、そんなこと知ってるって?

 違う違う、いや勿論それなんだが。

 異世界に来てからも、まだそれを続けてるって事が言えない趣味だった。


 メモ帳に萌えるシチュエーションを物語風に書いたり。

 アダモの顔を描いたりメイクしたりする所為で、挿絵ぐらいなら書けるようになったので、自分で薄い本を作りたくてしょうがない。

 結構忙しいが、たまに小説や挿絵をこっそり描いたりしている。


「インベントリに隠しておけば、誰にも見られないでしょう。 はぁ、もうすぐ冬コミかなぁ? 参加してみたいなぁ……」



 田舎育ちのジャンヌと平民だった千代は、学院から帰るとお城の図書室で一緒に自習する。


 図書室と言っても、ヴィクトリア王太后とペネロペ王姉とラルーシア師匠の個人所有の本が殆どだが。それでも結構役に立っている。


 2人はラフラン王国の基本的な知識が圧倒的に足りてないので、日替わりで3人が勉強を教えてくれる。



 その3人も公務が殆ど無く、日常的にほぼ暇だった。

 ただし上級貴族の夫人は、元々みずから体を使って働くことは無い。


 王太后と王姉は刺繍が趣味で、時々手編みをしながら2人に勉強を教えてくれる。

 ジャンヌも子供の頃からペネロペに刺繍を習っていて、普通に上手い。

 見た目通りと言えばそうなのだが、性格からは想像できない。

 ジャンヌが刺繍を始めると、千代も見様見真似で一緒に練習をするのだった。



 ヴィクトリアとペネロペとジャンヌの3人は、上級貴族なので流石に手ずから料理をした事が無い。だから千代が作る料理と菓子に胃袋を鷲掴みにされてしまっている。

 ラルーシアも料理や調合はするが、千代の作る物には味で勝てなかった。


 千代は子供の時から、料理と菓子作りが趣味で、専門店並みに上手く作る事が出来る。

 千代が作るピザ・パイ・ケーキの味に、あがらう事の出来る女子は異世界に皆無だ。と言っても過言では無いだろう。



「最近の私って、結構女子力高く成ってきてるから、異世界でも生きていけそうだわ」


「十分過ぎるじゃろ! お主は家事も異世界最強じゃ!」


 と、ラルーシアに突っ込まれる千代だった。

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