第46話 舞踏会当日

 舞踏会当日……、


 シャンボール城の侍従達はドレスやアクセサリーの準備に忙しかった。

 ヴィクトリア王太后、ペネロペ王姉、ジャンヌ、千代の順番に、侍従達が豪華なドレスを着付けしていく。


「こんな高価なドレスを……私などが着て良いのでしょうか?」


 高級シルク製の華やかなドレスに、千代が気後れして言った。


「シャンボール城の者として、恥ずかしくない格好をしなくては成りません。時間が有ればもっと高価なドレスをオーダーメードしたのですよ」


「そのとおりです、お母様。来年は4人ともオートクチュールにいたしましょうね。おほほほほ」


 と、ペネロペが言った。




 千代はドニロとカシオの事も心配している。

 2人は護衛騎士として舞踏会に同行する事に成っているのだが。服装は近衛騎士団の制服を着ているが、武器が冒険者時代から使っている安物のブロードソードだったのだ。



 以前カタランヌのダンジョンを攻略した時に、


「死霊系の魔物には物理攻撃が効かないから、ミスリル製の装備を作ってあげましょうね」


 と、アダモと約束していた。



 千代はシャンボール城に落ち着いて余裕ができたので、採掘して保管していたミスリルを使って武器を作る事にした。ミスリルは魔法付与がしやすいので、魔導武器としても最適だと言われている。


「アダモちゃん。ミスリル製のアイアンクローと、手の甲の部分にミスリルびょうを付けたグローブと、つま先とかかとにミスリル板を張り付けた革ブーツを作りましたよ」


『御嬢様ありがとうございますぅ。これで安心して幽霊とも戦えますぅ』



 それから千代は、レイピアとブロードソードもミスリルで製作することにした。

 貴族学院の授業で、上級貴族はレイピアを使うのが通常だと教わっていたし、ドニロとカシオは始めて会った時からブロードソードを装備していたからだ。


 千代はそれらの武器が出来上がると【命中補正+5】【重量軽減+5】【敏捷+5】を魔法付与した。

 更に、柄も鞘も千代渾身の生産技術で素晴らしいデザインに仕上げる事が出来た。


「舞踏会には、各国の上級貴族が護衛騎士を連れて来るでしょうが、この武器なら比べられても恥ずかしくないでしょう」



 ドレスを着て舞踏会の準備が調った後で、千代はジャンヌにレイピアとブロードソードを、ドニロとカシオにブロードソードを渡した。


「チヨ、ありがとう。大事に使わせてもらうぞ」


「これはどうもありがとうございますじゃ、家宝に致しますじゃ」


「チヨ、今日もハットトリックだぜ」


「喜んでもらえて嬉しいですわ」




 シャンボール城の一行は、王太后専用馬車で舞踏会が開催されるロゼワール迎賓館に向かった。

 ドニロとカシオは馬上で付き従う。


「馬術を覚えて置いて良かったのぅ、カシオ君」


「そうですね、リーダー。久しぶりだから、ちょっと怖いでしょうけどね」


 そう言うカシオの体は硬直して、顔は引きつっていた。



 一応2人が騎馬も出来ると聞いて、千代は安心した。


「馬に乗れない騎士って、おかしいですものね」


 そう言う千代は、馬に乗った事すらまだ無いが……。



 ☆ ▼ ☆ ◆ ☆



 夕刻のロゼワール迎賓館、

 華やかなドレスを来た貴族令嬢達が、ロゼワール迎賓館のダンスホールに次々と入って行くが、勇者キョウヤと魔法少女ルコは騎士控室にいた。

 2人は護衛騎士としての扱いだったのだ。

 教育係だったミヤイとタビチも申し訳なさそうに黙って控えている。




 迎賓館の正面玄関を入ると先ずロビーがあり、その先はヨーロッパの古い劇場の様な作りになっていた。


 観音開きの豪華な扉を開けて中に入ると、中央に広いダンスホールが有り、天井まで吹き抜けに成っている。

 そのダンスホールを囲むように10メートルぐらいの間隔で大理石の柱が立っていて、その外側にテーブルと椅子が並んでいる。壁際から中庭にも出れるように成っていて、そこにもテーブルが用意されていた。

 劇場の舞台に当たる所にはオーケストラがいて、ダンスミュージックを演奏する事に成っている。


 柱の上には2階が有り、テーブルを囲んで座りながら、ダンスホールを見下ろす事ができる。主に上級貴族が2階を使う事になっていた。

 更に2階には部屋も幾つかあり、各国の王族が寛げるようになっている。




 ルコは安全確認をすると言って、パーティー会場を覗き見することにした。

 護衛騎士は踊る事は出来ないが、会場を歩いて警護任務をする事ができる。

 キョウヤもルコの後に続き、付き合うことにした。


「平民の聖属性魔法を持つ主人公に篭絡ろうらくされた王子が、悪役令嬢を婚約破棄する場面があるかしら?」


「なにそれ?」


「乙女ゲームのクライマックスじゃない! 知らないの?」


 キョウヤはスマホでクズドラとかエロゲーしかしないから、乙女ゲームの事は全く分からなかった。



 後ろから付いてきていたタビチが口を挟む。


「この国のフィリップ第1王子には、まだ婚約者は居ないらしいです」


「なぁんだ、つまんないの~」



 ☆ ▼ ☆ ◆ ☆



 千代は2階で、ヴィクトリア王太后とペネロペ王姉とジャンヌが座る斜め後ろに、隠れるように座っている。

 周りは各国の王族ばかりで場違いな感じがするのだが、一緒に居るようにとペネロペに言われたのだ。


 隣りの席には、ラフラン王国ルイ国王一家が座っていた。



 パインフィルド帝国の六皇子が一番格上と見られてるらしく、各国の王族達が最初に挨拶に行く。


 その後、上級貴族達が六皇子に挨拶をしに行った。一階の中級以下の貴族達は挨拶には来れないようだ。



 六皇子への挨拶が一段落すると、早速パインフィルド帝国のレドケルン公爵一家が、ルイ国王に挨拶しに来た。


 フィリップ第1王子とジェルソミーナ公爵令嬢の婚約話が持ち上がってるので、長々とした挨拶をしている。

 その事は既に噂になっていて、千代の耳にも届いていた。



 そしてようやくと、レドケルン公爵一家は隣のヴィクトリア王太后に挨拶しに来た。

 レドケルン公爵夫妻が挨拶をしているその横で、ジェルソミーナ・レドケルン公爵令嬢ことミーナが、


 ジィイイイッ!


 と、千代を見つめている。



 千代は、いつかミーナに助けて貰った御礼をしようとズット思っていた。

 レドケルン公爵別邸で帝国騎士団に連れて行かれそうに成っていた時に、【転移】のアミュレットでカタランヌに転移させて貰い助かったのだ。


 その御礼の為にピンクのウサギを作ったのだが、初号機はダンジョンで寝ていた魔王に添い寝させてしまった。

 しかしスグに弐号機を作りインベントリに入れて置いたのだ。ミーナの為に【転移】の代わりに、【障壁+5】【敏捷+5】を魔法付与してある。



 一連の挨拶を終えると最後にミーナが千代に近づいてきた。


「お初にお目にかかります。ジェルソミーナ・レドケルンと申します」


「御機嫌麗しゅうございます。ジョセフィーヌ・ド・ボアルネ騎士爵でございます。 わたくし自作の人形を持っておりますので、お気に召すか分かりませんが、どうか御笑納願えませんでしょうか」


 そう言って、千代はピンクのウサギの人形をミーナに差し出した。



「まぁ嬉しい。大事にいたしますね」


 ミーナは人形を受け取る為に近づくと、声をひそめてささやいた。


「……お姉様、無事な御姿を確認できて良かったです。人形に2つも魔法付与がしてあるのですね……」


「……まぁ、それが判るのですね。さすがミーナちゃんですね……」



「ボアルネ騎士爵様は、今どちらに住んでらっしゃるのですか?」


「ここから西に2キロ程の所にあるシャンボール城に住んでいます。王太后様の居城なのですよ」


「私もフィリップ第1王子と婚約して、将来この国に住むかもしれません。仲良くしてくださいね」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」



 再びミーナが近づいて、声をひそめて囁いた。


「……お姉様が居る事が分かりましたから、たった今婚約する事に決めました。私が成人して結婚するまで、何処にも行かないでくださいね……」


「まぁ、それで婚約を決めるなんて! 御自身の幸せの為に良く考えて下さいね」


「はい勿論です。決め手の1つとして、お姉さんが居るからなんです」


「まぁ、ありがとうございます」



 9歳になって少し大人びたミーナちゃんを見て、


「……子供の成長は早いなぁ……」


 と、呟く千代だった。

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