第11話 カタランヌの町に行く

 翌日、ローリーさん家に下宿して2日目の早朝。


 日の出前の5時に、カッチリ目が覚める。

 10年以上テーマパークで働いて身に付いた良い習慣だ。


 倉庫に行って家畜の餌をインベントリに収納して、井戸に行き水を同じくインベントリに収納する。

 家畜小屋で、鶏と羊とロバのロッティに餌と水を上げた。


 ピンポロリン♪


 と音が成る。

 ステータスを確認すると、【畜産Ⅰ】と【調教Ⅰ】のスキルが追加されていた。



 次いで畑に水遣りをするが、勿論インベントリから水を出す。


 ピンポロリン♪


 と、又音が成る。

 ステータスを確認すると、【農業Ⅰ】のスキルが追加されていた。


 経験すると、ドンドンスキルが追加されていくようだ。

 これって「普通なの?」と思う。



「ルミナの持っていたスキルが覚醒してるのかな? それとも経験次第なのかな? う~ん、分からない……」


 今日はまだ手作業をしていない。全てインベントリで間に合ってしまっている。



「楽だな~、チヨ。私達はこんなに楽勝でいいのかなぁ?」


「運動不足になるかもしれませんね。せめて採掘場所迄は歩いて行きましょう」


「それはそうだろう、ロッティの荷車に乗るか、歩くかしか選択肢が無いからな」


「そうですね」


(この世界では、車も自転車も無いのかしら?……)




 昨日と同じで、朝食を取ってから石英の採取に行く。


 石英を含む石の山を、纏めてインベントリに入れて持って帰る。

 選別粉砕作業もインベントリ内で完了した。


 工房に帰ると、まだ職人さん達が出勤する前だった。

 ロッティと荷車を使った偽装をせずに、そのままインベントリからガラス釜の横に置いてある壺に珪砂を入れる。


 ちなみに、今日作るガラス細工の材料(主原料の珪砂とその他の材料を混ぜた物)は、前日の夕方にガラス釜に入れて置いたものだ。

 ガラス釜を一晩中高温で熱しておくと、次の日に赤く溶けていてガラス細工に加工出来るという。



 その日、午前中の大半の時間を掛けてする採取と粉砕の作業が、「アッ」と言う間に終わってしまった。



 出勤してきた職人さん達も、既に作業準備が出来てる工房に、目を白黒させていた。


あねさん、今日は随分と早く起きたんですね。暗い内は危険ですから、明るくなってから採取に行った方が良いですよ」


「ありがとう、その通りね。たぶん2人で楽しくやってるから、早く終わったのね」


「そうですか、優秀な人材が入って良かったですね」


「うん」



 その後、私は昨日と同じで掃除と洗濯をする。


「見える範囲の埃をインベントリに収納!」


 シュィイイインッ!


 と、職人さん達に聞こえないように呟きながら、フロアのモップ掛けをする。



 井戸端でたらいに洗濯物を入れて、


「盥の中の洗濯物を【洗浄】! ……続いて【乾燥】!」


 シュィイイインッ!


 と言うと、洗濯物が綺麗になって乾いてしまう。

 その他の雑用も、昨日より格段に早く終わってしまった。



 作業着のボタンが取れかかっているのを見付けたので、針と糸を借りて付け直した。


 ピンポロリン♪


 と、音が成る。

 【裁縫Ⅰ】と【修復Ⅰ】のスキルが追加されていた。




 千代とローリーは、早めの昼食を取って町に行くことにした。


「既に出来上がってる製品を、ついでにカタランヌ町のお店に持って行くわよ」


「はい。カタランヌ町と言うのですね」


「そうよ、知らなかったの?」


「はい、まだ町に入った事が無いので」


「そうだったんだ……」



 ガラス細工製品と陶磁器製品を木箱に入れて、あいだにわらを入れてクッションにする。

 木箱は50センチ四方ぐらいのサイズだ。


 その木箱をロッティの曳く荷車に乗せるのだが、乗せる作業にもインベントリを経由させる事で、重い積荷作業から解放された。



 工房から町迄は目視できる距離にある。およそ1キロメートルぐらいだろうか?

 高さ2メートルぐらいの石積みの壁が町を囲んでいた。


「大きな町ですね」


「あら、ここら辺では小さい方だと思うわよ」


「そうなんですね。立派な壁が囲んでるから大きな町なのかと思いました」



「外壁は、主に魔物除けが目的で、壁の無い町は少ないのよ」


「そうなんですか……、工房は魔物とか大丈夫なのですか?」


「うん。一応、魔物除けの魔道具が全部の建物に貼ってあるのよ」


「そうだったんですね」



「凄く強い魔物には効かないらしいけど、その時は町もおしまいでしょうね」


「そう成らないと良いですね」


「うん」



 千代は町に入る前から、何か怪しい視線を感じる。


 門まで来ると、千代が衛兵に停められた。


「そっちのお嬢ちゃんは初めて見る顔だなぁ。一応、身分確認させて貰おうかな?」


「あらそうなの、うちに新しく入った職人さんなのよ」



「そうかい、お嬢ちゃんは何処の出身だい?」


「はい。私はチヨと申します。生まれは長野で、最近10年程は千葉に住んでいました」



「……聞いた事の無い地名だな。身分証明出来る物はあるかい?」


「ありません」



「じゃあこれに触って、私は犯罪者ではありませんと宣言してくれ」


 門脇のテーブルの上に有る、クリスタルの様な球状の物を衛兵が指さした。



(胸がドキドキする。だって、逃げてここへ来たのだから)



 千代は両手をクリスタルボールに置いて宣言する。


「私は犯罪者ではありません」


 クリスタルが「ピカッ」と青く光った。



「よし、青だからオッケーだ。でも、早めに身分登録証を作ってくれよな。そうすれば何処の町でも身分を証明できるからな」


「はい」


 クリスタルは嘘発見器の様な物だったらしい。




 千代とローリーは、ロッティの曳く荷車と一緒に町に入った。



 50メートルぐらい真っ直ぐ進み、街角を曲がると突然に、


「暴れ牛だあああっ!」


 ドッカァアアアンッ!


 と、牛が荷車に体当たりしてきて大きく傾いたが、かろうじて倒れはしなかった。

 ガラス製品や陶磁器が積んであったなら壊れていただろうが、ロッティの負担を軽くする為にインベントリに回収しておいたので空だった。



 すぐに牛の飼い主が謝りに来た。


「すいません、普段は大人しくて、今まで1度もこんな事は無かったのですが」


「大丈夫です、心配いりません」



「でも品物が?」


「大丈夫です、安心して行ってください」


「そうなんですか? ……それでは失礼いたします」



「ちっ、どういう事だ! 完製品を積んでると思ったんだが?」


「あぁ、商売物じゃ無かったのかもな」


 建物の陰から見ていた男2人が、そんな会話をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る