第12話 商業ギルド登録

 ローリーの叔父が経営する雑貨店に、ガラス製品と陶磁器を持って行く。

 その店で製品の委託販売をして貰っているそうだ。

 あまり大きな店では無かった。


「叔父さん、新しく入った職人見習いのチヨです。……チヨ、私の父の弟のショーン叔父さんよ」


「チヨです。宜しくお願い致します」


「よろしく、気長に頑張っておくれ」


「はい」



「今回は、何時いつもより商品を持って来るのが早いね?」


「はい、チヨを商業ギルドに登録するので、ついでに完成品も持って来ました」


「そうか。昨日までに幾つか売れたから、その分の売り上げをローリーのギルド口座に振り込んどいたよ」


「ありがとうございます」



 ローリーはショーンから販売済みリストを見せて貰い、流し読みで目を通した。

 店に陳列する製品には、一応販売価格を設定してあるのだが。交渉次第で値引きする事もあるので、必ずチェックして職人達の取り分に反映させる必要がある。


「そうそう、これがチヨの初作品なんだけど、見習いだから底値から様子を見て下さらないかしら?」


「分かった。お客の反応を見ておくよ」




 2人は出されたお茶を飲み終えると、サッサと店を後にした。


「可愛いお店でしたね」


「そうなの、置ける場所が限られてるから、売り上げもそこそこなのよ。町の人口も少ないしね」



「私の作品は売れるかしら?」


「チヨの花瓶は安くしておいたから、売れるんじゃないかしら。お皿やグラス等は必需品だから結構売れるんだけどね」



「私も必需品を作ってみたいです」


「そうね、そうしましょうね」


「はい」



「製品は工房を訪れる商人にもおろしてるから、そっちの方が収入は大きいのよ」


「商人さんが工房に買い付けに来るのですか?」


「そうなの、石英の採掘場所に近いから、それを知ってる商人がよく買い付けに来るの。珪砂も他の工房に売る為に買っていくわ」


「そうなんですね」



 2人と1匹は空の荷車を曳いて、商業ギルドに歩いて向かう。


 商業ギルドは大理石の建物で、町1番の立派な建物だった。

 千代の商人登録をして口座を作る。


 登録証は魔道具のプレートで、身分証明と金銭出納管理が出来るそうだ。

 日本の預貯金口座と似た働きをしてくれるという。

 ただしプレートを見ても、直接身分や預貯金額を確認出来ない。

 それを見るには専用の魔道具が必要になるそうだ。


 魔道具は魔力と魔法を封入する為の魔核(魔石や宝石等)が媒体と成っていると教えて貰った。


 職人登録だけでもプレートを使って出来るが、それだと自分の店を持つ事はできないと言う。

 お店で完成品を売るのは委託販売のみと成ってしまうのだそうだ。


 商人登録すれば、お店でも市場でも露店でも販売できるが、年会費を取られる。

 職人登録は年会費が無い。


 商人と職人はギルド登録をしていれば、商業ギルドがある町の出入税を免除されると言う。

 関税に関しては街のルールに依るそうだが、商業ギルドが代表で街と交渉してくれるので、優遇されてる事が多いそうだ。


 ローリーはギルドで製品の販売益を受け取り、それぞれの職人の口座に分配した。

 材料費や工房の維持費、販売委託費、営業経費等を引かれた職人の歩合は50%だそうだが。

 のちに、千代の珪砂精製スキルのおかげで売り上げが増えると、歩合も60%に上がり、職人達が喜ぶ事に成る。


「利潤が多い時は、ボーナスを出して職人に還元するからね」


 ローリーが千代にそう言ってくれた。



「さぁ、用が済んだから工房に帰りましょうね」


「はい」




 ギルドを出て、まっすぐ町の門へと歩いて行くと、恰幅の良い派手な衣装の中年男性が近づいてきた。


「よぅ、ローリー。最近どうよ?」


「お陰様で順調に経営させて貰っています」


「それは良かった。まぁ、経営が行き詰ったら遠慮なく言ってくれ、いつでも工房を買い取ってやるからさ」


「はい、御心配ありがとうございます」



「そっちは新人さんかい?」


「こんにちは、チヨと申します」


「ふん、頑張りなさい。工房が潰れてもワシが引き継ぐから、せいぜい腕を磨くと良い」


「はい……」




 2人は町を出て工房への道を歩いて帰る。


「さっきのおじさん、買い取るとか潰れるとか、嫌な事を言いますね……」


「そうなの。私が工房を引き継いだ時も、工房を「売れ売れ」ってうるさかったのよ」


「そうなんですか」



「まぁ、やれる所までやってみようと思ったの。でも収納魔法持ちのチヨが入ってくれたから、見遠しが明るくなったわ」


「お役に立てると嬉しいです」



「まぁ、人生って色んな事があるけど、やれるだけ頑張りましょう。行動しないと何も始まらないからね」


「そうですね」






 千代が工房に来てから1週間、2週間と経った頃。


 誰の目にも分かる程に、ローリー工房の製品の出来が良くなってきた。

 ガラス細工も陶磁器も美しい艶があり、光を反射してキラキラ輝いている。


 職人もお客にも、明らかに分かる程に製品としての価値が上がっていた。



 委託販売の製品の売れ行きが良くなり、店の製品が売り切れてしまう事が多くなった。

 商人が工房に製品を買い付けに来る頻度が増えてくる。

 貴族が工房に製品を見に訪れるようになり、注文生産を受けるようになった。


 職人達は、製品が飛ぶように売れる為に、嬉しい悲鳴をあげている。



「姉さん、珪砂の質が上がったので、製品の出来上がりが良くなってお客さんが増えましたね。もう経営状態を心配しなくても大丈夫でしょう」


「そうね、あなた達にも苦労させてきたけど、歩率を上げて、ボーナスも出せそうだわ」


「「「やった~」」」



 千代の生産スキルも上がり、【ガラス細工Ⅲ】に成って、早くも1人前のガラス製品職人と成った。

 千代の作ったガラス製品も、他の職人の物と並んで陳列されるようになり、客にも順調に売れ始めたのだった。

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