第33話 ラフラン王国閣僚会議

 その夜、緊急閣僚会議が徹夜で行われ、千代も含めた4人の扱いが決められたのであった。


 千代が何も知らずに高級ベッドで安眠を貪っているあいだに……。



 およそ17年前の事、ルイ第1王子派は次期国王の座を狙ってある計画を立てた。

 姉で第1王女のペネロペが成人して、王位継承順位第1位と成りそうだったからだ。


 彼らは熊獣人の王子だった熊吉が、ラフラン王国の第1王女ペネロペに恋してるのを知っていた。

 熊吉とぺネロぺは貴族学院付属初等学校の同級生で、熊吉はペネロペに惚れていた。属国の王子という立場的に叶わぬ恋であったが、それをルイ王子派に利用されたのだ。


 彼らは熊吉をそそのかして恋心を焚きつけて、ぺネロぺを熊獣人の里へ攫う手助けまでしたのであった。

 そして現閣僚達は、その手引きをした王子派の面々なのである。


 既にルイが国王に即位しているが、もし計画がバレでもしたら国王交代を叫ぶ者が出てくるかもしれない。 若しくは国王交代が無いにしても、次期国王の選出には影響がでるかもしれない。

 通常は国王の子息から王太子(次期国王)が選ばれるが、過去の拉致計画が明るみに出てしまったらペネロペ王姉の子供が次期国王に選ばれてしまう可能性も否定できないのだ。

 ペネロペはヴィクトリア王太后を始めとして王族達に愛されていたし、閣僚の座を失った前国王派が復権を狙って動き出す事もありえる。


 その為に、現閣僚たちは徹夜で協議したのだった。




 緊急招集された閣僚達が確認しあった事は次のようなものだった。


 王姉ペネロペは、既に王太后や近衛騎士長と会ってしまったので、今更存在を揉み消す事は難しい事。

 現閣僚と熊吉との係わりは決して悟られてはならない事。

 「王族の名を汚す事を防ぐ為」と言って、ペネロペ達4人に熊獣人との係わりを口止めする事。

 同じ理由で、ぺネロぺが行方不明中に記憶喪失であったとする事。

 偶然通りかかった魔導士ラルーシアとその弟子チヨに見つけられて戻ったとする事。

 娘ジャンヌの父は他国の上級貴族かもしれないが、はっきりしないとする事。

 褒美として魔導士ラルーシアを貴族学院の講師とする事。

 ペネロペの娘ジャンヌを貴族学院に通わせる事。

 ジャンヌに熊獣人の血が流れてる事を秘密にする事。

 秘密が漏れぬように魔導士と弟子を城に留め置く事。

 秘密が漏れぬように、魔導士の弟子をジャンヌの目付け役兼側仕えとして貴族学院に同行させる事。

 次期国王は、ルイ国王の子供から選出する事。

 以上、全てに於いて王族の名を傷つけない様に配慮する事。




 翌朝、王太后ビクトリアと王姉ペネロペと魔導士ラルーシアは、国王に呼ばれて閣僚会議に出席した。

 国王と閣僚達はテカった顔の目の下にクマを作っていて、明らかに徹夜疲れが見て取れる。


 ペネロペは元々性格がおっとりしていて野心もほとんど無かったので、ほぼ言いなりに話を受け入れた。

 ぺネロぺは母から愛情を注がれて、子供の頃から不自由なく育てられ、優しく大人しい性格だったからだ。それでいて容姿が美しく、知力と魔力も十分に高くて、誰から見ても次期国王に相応しいと思われていた。


 若い頃のぺネロぺにとってのアイドルはバレリーナや女優で、男優や身近な異性にあまり興味が無かった。

 自分に似ているジャンヌを可愛がってはいたが、野性的なジャンヌより控えめで女らしい千代の方がタイプだった。

 その為に千代をフィレニー山脈には返したくなくて、このまま城に留め置けないかとぼんやり考えていた。

 つまり閣僚会議の方針は、偶然にもペネロペの意に沿う物だったのだ。そして王太后ビクトリアも娘のペネロペと2度と離れたくないと願うばかりだったので、特に反論は無かった。



 ペネロペとラルーシアが、国王との話し合いを終えて後宮の自室に帰って来た。


「ジャンヌとチヨ様には貴族学院に通ってもらう事になりました」


「「はい……?」」


 ジャンヌと千代は首を傾げた。



「貴族学院とは成人(15歳)した貴族が、貴族としての教養を学ぶ所です」


「「はい」」



「ジャンヌには王族に相応しい人間に成って貰わなくてはなりません」


「はい」



「チヨ様にはジャンヌの専属侍従として、学院内でのジャンヌの側仕えをして頂きたいのです」


「はい……?」



「貴族学院とは、領地経営と行儀作法と武術と魔法を学ぶ所ですが。チヨ様に於かれましては、ジャンヌが熊獣人の血を引いてる事や熊獣人王に成る者として育てられた事が、皆に気付かれない様にフォローして欲しいのです」


「はい……」



「そしてラルーシア様とチヨ様は、後宮に於いて貴族待遇で私達と一緒に暮らしていただきます。法衣貴族としてお給金も出ますし、食事も私達と一緒に取って頂きますので、何不自由無い暮らしをして頂けます」


「はい……わが師ラルーシア様が宜しければ、私も謹んで従わせて頂きます」



 続いて王太后ビクトリアが、微笑みながらゆっくりと話しだした。


「私は近いうちに後宮を離れて離宮に住むつもりでいるのです。離宮は王城の敷地内に建てる予定でいますから、貴方達もそこで私と一緒に住んで頂きたいのです。

 後宮とは王の私的な空間を意味するので、前王の妃だった私は離宮に住もうと考えていたのですが。ちょうど良い機会ですので、ここにいる5人で住めるように離宮を建設いたしましょう」


「まぁ、お母様。それはとても良い計画ですわ。ルイの家族にも、その方が良いでしょうから」



「ほぅほぅ、それならラルとチヨが素晴らしい離宮を建てて進ぜよう」


「ラルーシアは屋敷の建築も出来るのですか?」


「はい、王太后様。 簡単な図面さえ用意して頂ければ、ラルとチヨの魔法でチョチョイのチョイなのじゃ!」


「まぁ、素晴らしい。それでは屋敷の建築はラルーシアに頼みましょうね」


「任せるが良いのじゃ! フンス」



(もう、アルゴレルのラルーシア様の家には帰れないでしょうから、仕方が無いのかなぁ)


 と、千代は思って諦める事にした。

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