第32話 シュリシュルワール城

 ラルーシアのクリスタルから魔法陣が浮かび上がり、虹色の丸いゲートが広がっていく。


 4人はゲートを潜り、ラフラン王国王都ロワールのシュリシュルワール城の近くに一瞬で移動した。



「夜の城は結界魔法が厳重に張られておるのじゃ。破って入る事も出来るが大騒ぎになるから、正面から堂々と入場するとしよう」


 ラルーシアを先頭にジャンヌ、ペネロペ、千代の順番で城門に歩いて向かう。



「うん! なんだお前達は? 面会を求めるのなら明日の昼間にでも来い。今夜は来訪の予定が入って無いのだ」


 甲冑かっちゅうまとい槍を立てて門番をしている衛兵に、そうとがめられた。



 ラフラン王国王女だったジャンヌの母ペネロペが、ラルーシアに代わって前に出る。


「わたくしは第1王女ペネロペです。門を開けなさい」


「はぁ、この城にそんな王女はおらん。みすぼらしい恰好で何を言っているのだ。せめてもっと貴族らしい服を着てくるがいい。あはははは」



 ペネロペとジャンヌの服装は、山の素材を生かした生地で作られていて、シルクで作られ洗練されたデザインの貴族服とは光沢が違っていた。


「まぁ、そう言われればそうですわね。すっかり里の生活に馴染んでしまって気付かなかったわ」



 ラルーシアが再び前に出る。


「ワシは魔導士ラルーシアじゃ、ワシの顔は分かるであろう。魔導士団長にでも確認してくれんかのぅ?」


「う~ん、俺の様な衛兵は魔導士団長に直接の面識がないのだ。魔導士団長の様な上級貴族にだって簡単に取次は出来ぬ。明日改めて正式なルートで面会してくれ」


「堅物じゃのう。強行突破するしかないかのぅ……」



 カッ、カッ、カッ……、

 ガラガラガラガラ……、


 そこへ偶然に、極めて豪華な馬車が通りかかった。



 馬車の先頭を進んできた馬上の騎士が、衛兵に呼ばわる。


王太后おうたいこうビクトリア様の帰城である。開門せよ」


「はっ」


 王太后とは前王の妃の称号である。



「うん? あ、貴方様は! もしかして、ペネロペ様では?」


「まぁ、宮廷護衛騎士のブライアンではないですか。久方ぶりですね」


「なんですって!?」


 馬車の中から女性の声がしてドアが開いた。


「ペ二ィ! ペ二ィではないですか!」



 王太后が馬車から降りてきて、ペネロペに駆け寄って抱き付いた。


「お母様、お懐かしゅうございます。お元気そうですね」


「貴方も元気そうですね、会いたかったわ。15年ぶりぐらいでしょうか?」


「はい、お母様。積もる話はありますが、取り敢えず城に入れて貰えないでしょうか?」


「勿論です。ここは貴方のお城なんですから」



「ご、御無礼を働き、申し訳ございませんでした!」


 大きな声がした方を振り向くと、門番の衛兵が地面にひれ伏していた。



「ペ二ィ、何かあったのですか?」


「いいえ、お母様。この者は職務に忠実な良い衛兵です。褒めてあげて下さい」



「御苦労様、名前は何と申しますか?」


「はっ、アンドリューと申します」



「アンドリュー、これからも仕事に励んでください。1階級昇進と金一封を褒美としましょう」


「はっ、ありがとうございます。不惜身命ふしゃくしんみょうの覚悟で城門を守る所存でございます」



「ブライアン、私は馬車を降りて、ペ二ィと一緒に歩いて行きますわ」


「はっ、畏まりました」




 王太后とぺネロぺ一行は、綺麗に整えられた豪華な王宮広場を静々しずしずと進んで行った。

 一定間隔に魔道具ランプが王道を照らしていて、色とりどりのバラが聳え立つ王城迄咲き並んでいた。


「ペ二ィ、貴方が居なくなってから、ラフラン王国中を探しましたが見つける事が出来ませんでした。 それでも諦められずに貴方のお葬式も行わずにいたのですが、10年ほど前に国王が崩御して、貴方の弟が新国王に即位したのです」


「そうですか、御心配をお掛けして、申し訳ありませんでした」



「貴方を次期国王に、と言う声も多かったのですが。貴方が居なくなってしまったので、弟がすんなりと国王に即位しましたのよ」


「それは良かったですこと。おめでとうございます」



「そちらの娘さんはペ二ィに似てますね、どなたなの?」


「この子は私の娘でジャンヌと申します」


「まぁ、それでは私の孫なのですね!」



「王太后様、初めましてジャンと申します」


「まぁまぁ、ペ二ィに似て…綺麗な顔をしていますね。……ドレスに着替えましょうね、キット素敵なお姫様になりますよ」



「それから、こちらは魔導士ラルーシア様と弟子のチヨ様です」


「はい。 ラルーシア、久しぶりですね。相変わらずちっとも年を取らずに元気そうですね。 私の大事な娘を連れ帰ってくれてありがとう、報奨は望みのままに差し上げましょう。そちらの娘さんもありがとう、先ずはゲストルームで寛いでくださいね。 それから後宮に部屋を用意しますので、今日は泊まっていってくださいませ。 それとペ二ィの部屋は、そのまま今もありますわよ」


「まぁ、嬉しいですわ」




 4人は先ずゲストルームに案内された。

 侍従達が客室やペネロペの部屋を整えているとの事だ。


「ペネロペ様、御風呂をお使いになられますか?」


「はい、お願いします。皆も御風呂を使ってくださいね」


「「「はい」」」



「用意致しますので、御案内するまでお寛ぎ下さいませ」




「ペ二ィ、夕食は食べたのですか?」


「はい、もう済ましております」



「それでは、お茶とお菓子を用意させますね」


「はい」



 ギィィィ、バタンッ!


 扉が小さくけられて、スグに閉まった。


「姉上、生きておられたのですね!」


「ルイ、元気そうですね。国王即位おめでとう」


「ありがとうございます。やむを得ず、姉上を差し置いて国王に即位しましたが。姉上に於いては、これからのち王姉おうしとして城で優雅に御暮し頂きますように。不自由があったら何なりと愚弟ぐていにお申し付けください」


「まぁ、ありがとう。貴方の治世が神に祝福されます様に!」



「報告を聞き急いで参りましたが、お疲れでしょうから、明日改めて話しを御伺いしましょう」


「そうですね」



「おやすみなさい。失礼します」


「おやすみなさい」


 千代達も最敬礼の姿勢で国王を見送った。





 その夜、千代達が安心して後宮で眠りに就いた一方で、王城では閣僚達が緊急招集されていた。


「国王陛下、深夜に緊急招集とは何事でしょうか?」


「ふむ。姉上が……ペネロペ王姉おうしが城に戻られたのだ」


「「「なんですと!」」」


 ザワザワザワ……。



 その夜、緊急閣僚会議が徹夜で行われ、千代も含めた4人の扱いが決められたのであった。


 千代が何も知らずに最高級のベッドで安眠を貪っているあいだに……。

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