第18話 ゴーレムとゴーレム

 冒険者グループ『荒鷲の爪』は4人の男で構成されている。


 中年リーダーのドニロ、小柄なカシオ、無口なリフィップ、デラックスなアンソニオで、リーダー以外の年齢は20代らしい。

 装備には、全員必ず赤色が入っている。

 それで仲間を見分けているという。


「乱戦時に同士討ちしない為なのじゃ」

 と言っていた。



 一行はオーガに遭遇した所から、その足跡を辿って山の方へと向かっていく。

 オーガは3メートルぐらいの魔物だったので、体重も結構あったらしく、土の上に大きな足跡が残っていた。


 途中、数名の犠牲者の遺骸に出くわした。

 『荒鷲の爪』のメンバー達は、その度に遺骸の登録票を回収してから穴を掘って埋め、簡単な墓標を立てては黙とうしていた。

 クラインと千代もそれに習った。

 

 優しい人達だなぁ。と千代は思った。



 オークやオーガの出現は単なる偶然では無かったようだ。

 足跡を辿って数時間行くと、谷合たにあいにダンジョンを発見した。

 どうやら、そこから魔物が湧き出てきたようだ。


 千代は、小学校の社会科見学で行った花崗岩の採石場を思い出す。

 そこでは、巨大な岩山から大きな物で1トンぐらいの四角い石を切り出していた。


 ダンジョンの入り口は採石場のような大石が幾重にも積み重なっていた。

 誰かが意図的に作ったのかな?とも思われる。


 社会科見学で、花崗岩には沢山の石英が含まれてると説明された事も思い出した。

 まさか自分で石英を採取してガラス職人に成るなんて、まったく思わなかったわ! と、千代は回想した。



 リーダーのドニロがクラインと千代に話しかける。


「ダンジョンが有るんじゃ、しばらく採取は控えた方がいいじゃろう。冒険者ギルドが対策を講じるまで我慢してもらうしかないわい」


「「はい」」



 そんな会話をしている内に、花崗岩を鳥居の様に組み上げたダンジョンの入口から、大きな魔物が出てきた。

 背を屈めながら入り口から出てくると、身をゆすりながら背伸びをする。


 ゴゴゴゴゴォォォ……


 それは4、5メートルは有ろうかという花崗岩の塊の『ストーンゴーレム』だった。



「ヒャアアアアアッ!」

 小柄なカシオが腰を抜かして尻餅をついてしまった。


 リーダーのドニロが、

「退却じゃあああっ! チヨさんを最優先で守るのじゃあ」と言った。


「ありがとうございます。皆で逃げましょう」

 と言いながら、千代はカシオを抱き起こそうとする。


「カシオくん、歩けますか?」

「チヨ、ありがとう。グスンッ」



「おチヨちゃん、早く早く!」

 そう言って、クラインがカシオに肩を貸した。



 ズズズズンッ、ズズズズンッ、ズズズズンッ……


 ゴーレムが大きな体を引き摺る様に、みんなに迫って来る。

 1歩が遅い様に見えても図体がデカいので、次第に距離が縮まってしまう。



「しょうがない、足手まといのカシオを見捨てるのじゃ!」


「そんなぁぁ、リーダー酷いですぅぅ!」



『見ぃつけたっ!』


 ゴーレムに捕まると思ったその時、何処からか女性の声が響いてきた。



 ドッカァアアアアアンッ!

 グワラガラガラガラガラァァァァァッ!


 ストーンゴーレムのお腹に大きな穴が開き、次の瞬間にはゴーレムの体が地響きを立てて崩れ落ちた。



 濛々もうもうと土煙が舞い上がる中からスレンダーな女性のシルエットが浮かび上がり、こちらへと向かって歩いてくる。

 っすらとみどりがかったクリスタルの様なアンドロイド型女性ゴーレムが立っていた。


『もぅ、何でこんなに遠くまで来てるんですかぁ! 危うく魔力が尽きかかって、又停止しそうでしたぁ』


 そう言って、女性型ゴーレムが千代に抱き付いてきた。


『はぁ、これですぅ。この魔力ですぅ、もう絶対に離しませんですぅ』



「あの、どなたですか?」


『御嬢様の護衛ゴーレムのアダモですぅ』



「えぇと、初めましてですよね?」


『いいえぇ、帝都の川底でドップーンと魔力を頂きましたぁ。その時からアダモは御嬢様のアダモですぅ。何なりとお申し付けくださいませぇ』


「そう…でしたか。 私はチヨと申します、私が主人でいいの?」


『う~ん、たぶん他の人ではアダモを維持できませんからぁ。それに可愛い御主人様で、とっても良いと思いますぅ』


 そう言うと、アダモが千代をギュウウウっと抱きしめた。


『はぁ、柔らかくてプニプニでマリエル様と同じ匂いがしますぅ。アダモは幸せですぅ』


「そう…良かったね。取り敢えずよろしくね」


『よろしくですぅ』



「チヨ、凄ぇゴーレムを手にしたな。1発でストーンゴーレムを倒すなんて、メチャクチャ強いじゃないか!」


「んにゃ、カシオくん。これはもしかして、伝説の女ゴーレムかもしれないぞ」


「リーダー、もしかして絵本物語に出てくるあのアダマンタイトゴーレムだって言うんですかぁ?」


「そうじゃ、初めて世界を統一した女帝が従えていたというアダマンタイトゴーレムかもしれないのじゃあ」



「アダモ、そうなのか?」


『アダモは御嬢様のアダモです。もう放しませ~ん』


「そ、そうか……」



 千代はインベントリから予備のワンピースを出してアダモに着せた。

 アダモは裸だったから。


「リーダー、このゴーレムが一緒なら、ダンジョン探索も出来るんじゃないですか?」


「んにゃ、ギルドへの報告が先じゃ。そしてダンジョン攻略はギルドで仕切って貰うのじゃ。ワシらの役目は現状の調査と報告だからのぅ」


「は~い」


 ドニロはカシオに近づき囁く。


「カシオくん、先ずはお漏らししたパンツを替えるのじゃ」


「そうでした……。(ショボン)」



「チヨさん、そう言う事だから、今日はもう町に帰ります。そして明日、エルレイダの冒険者ギルドに戻ります」


「はい、わかりました。町迄、帰り道を御案内致しますね」


「宜しくお願いしますじゃ」


「はい……」

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