第35話 上級クラス

 学院長室には、もう1人教師が控えていた。


 昨日まで上級クラスの担任をしていて、今日から副担任になるジュリナ・フーパー先生をラルーシアがジャンヌと千代に紹介した。

 ラルーシアは昨日も学院に来ていて、教師や職員と既に挨拶を終えていたのだ。


 ジュリナ・フーパー先生は20歳過ぎの小柄なメガネ女子で、気が弱そうな性格が話し方ににじみ出ていた。

 その副担人ジュリナ・フーパー先生に案内されて、3人は上級クラスの教室に入る。

 教室は中学・高校より広くて、大学の階段教室の様な作りになっていた。



「皆さん、おはようございます。こちらは今日からこのクラスの担任をして頂くことになった、魔導士ラルーシア・ニダヴェリール様です」


「よろしくなのじゃ」



「私は副担任として引き続きこのクラスのお手伝いをさせて頂きます」


 ザワザワザワザワ……、



「次に、転入生を紹介いたします。こちらは今日から皆さんのクラスメートになる、ジャンヌ・アルテュールさんです」


「よろしく」



「その側仕えのチヨさんです」


「よろしくお願いいたします」



「は、側仕えまで紹介してるぜ」


「「「あはははは」」」



 笑われて少し顔を赤くしたジュリナ・フーパー先生が、ジャンヌに告げる。


「ジャンヌさん、席は決まってませんから、空いてる席に座って下さいね」


「はい」



「側仕えさんは、後ろか壁際の席に座って下さいね」


「はい」



「あ、席が空いてれば、ジャンヌさんの隣に座ってもかまいませんよ」


「はい」



 どうやらこの世界の学校では、日本の様な挨拶をする習慣が無いらしい。


 ジャンヌと千代は後ろの方の空いてる席に並んで座った。

 席には余裕が有り、他の上級貴族生徒の側仕えは、主人と離れて一番後ろの席に座っている。

 そこが側仕え達の控え場所として、暗黙の了解になっているようだ。


 上級クラスなので側仕えと生徒がほぼ同じ人数だが、大学みたいな大きな教室なので全員が席に座っていた。

 生徒の数は30人ぐらいで、側仕えと併せて60人近い人数が教室にいる。


 フーパー先生は気が弱く、自分より身分が高い上級貴族の学生に上手じょうずに対処出来なかったので副担任に降格したのだった。



「それでは授業を始めます。

 引継ぎと授業の流れを見て貰う為に、きょうはラルーシア先生には見学して頂き、私がこれまでの授業の続きを致します。


 1時限目は武術の基礎の授業からですね。


 上級貴族はレイピアやブロードソードなどが基本攻撃武器となります。

 前衛で攻撃する機会が少なく、後方で指揮をする事が多いからです。

 レイピアの剣技は防御が基本です。したがって相手を殺傷するよりも自分の身を守ることが大切とされてます。

 又、盾等の防御装備を持つ方もいます。


 平時に於いては、左手にバックラーで右手にブロードソードが騎士の基本とも言われていますね。

 ただ、皆さんの場合は騎士に成る方もいるでしょうが、親御様が上級貴族なので実技では戦時の指揮官としてのレイピアの扱い方から学んで頂きます。


 レイピアとブロードソードは共に片手剣ですが。ロングソードは両手剣で主に攻撃的な前衛が使います。

 大盾を使う守備重視の前衛の場合は、戦場では槍を使う事が多いですね。ただし皆さんが、これらのような前衛に成る事は少ないと思います。


 レイピアはブロードソードより軽いので、直接攻撃をする機会が少ない指揮官クラスが持つ事が多いのです」




 1時限目は武術の基本講義だった。


 休み時間になると、早速ジャンヌは1人の女生徒から話しかけられた。


「ねぇあなた! このクラスで……いいえ、学院で1番身分の高いフィリップ第1王子に挨拶なさい」


「そうか。……ジャンだ、よろしく」


「「「……」」」



「んまぁ! 王子に対して、なんて口の利き方でしょう! ちゃんと立って最敬礼で挨拶するのよ!」


「いいんだ。……父上から聞いているよ。王姉ペネロペ様の1人娘ジャンヌだね。田舎育ちで礼儀作法が全くなんだね。貴族としての最低限のマナーを早く覚えると良いよ」


「ふん、分からんものは分からん。それを学びに来たのだ。許せ」



「王子、敬語も使えないとんでもない山猿ですね」


「いいんだ、これでも私の従兄妹だから、許してやってくれ」


「はい」



「それにしてもパンツは止めた方が良い。成人した淑女はスカートにするべきだよ」


「あんな、ひらひらした物は好かん。思うように動けないではないか」


「それにしても、もう少し、所作に於いても上品な仕草を心掛けるべきだと思うよ」


「そうか……しょさ?……」



「ジャンヌ様、女性らしいたしなみの事でしょうか……」

 と千代が囁いた。


「ははは、俺は国王に…ングッ……」

 千代が慌ててジャンヌの口を塞いだ。



「その事は人前では話してはいけないと、屋敷を出る前にペネロペ様に言われましたよ」

 千代がジャンヌの耳元で囁いた。


「そうだったな、すまぬ」



「国王様が何だと言うんだ?」


「いいや。国王様にはとても感謝している」


「ふん、まぁ良い。勉学に励むのだな」


「そのつもりだ」



 千代は、ジャンヌの王子に対する言葉使いにヒヤヒヤした。

 ジャンヌは自分より偉い者に対する言葉使いが全く出来なかったのだ。

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