第28話 錬金術士の日常

 千代はラルーシアの助手をしながら、少しずつ錬金術も教えてもらった。



 ポーションは錬金盤の上に薬草とボトルを置いて、必要な量の魔力を注げれば、誰でも作れるという。

 【錬金術】スキルを持っていなくても作成出来るそうだが、失敗したり劣化したりする事もあるらしい。

 【錬金術】スキルのレベルによって、ポーションの品質に大きな違いが出るという。



 魔術巻物スクロールは、魔木から作った魔力を帯びてる紙に、細かく擦った魔石を溶かしたインクで術式を書き込むことで、魔術の使用を可能にするものだという。

 術式は古代文字で書かなければならず、上級魔法に成ると複雑に術式が組み合わされるので、根気のいる作業となる。

 【書写】スキルのレベルにより、発動する魔法の威力に差が出るという。


 高度な錬金盤には、魔力紙と材料を置いて呪文を唱えるだけでスクロールを作れる物もあり。ラルーシアの錬金盤も勿論そうである。この場合でも製作者の【錬金術】と【書写】スキルにより完成度に違いが出るという。



 魔道具はアイテムに魔石を嵌め込んで、そこに魔法術式を埋め込む事で完成する。

 魔道具が大きければ、魔石を中心として術式を魔石インクで書き込めばいいのだが、実際には書ける場所が限られてしまう為に魔石自体に書き込むことが多い。

 その場合は、魔法を発動して現れる術式を小さくして魔石に刻み込むが、その為には【書写】スキルが必要になる。


 一方で、魔石を置いた床や地面などに魔石インクで正確に術式を書き込めば、魔力を流すだけで誰でも魔法を発動する事ができる。さらにこれを地面の上では無く魔力紙の上に書き込めば、魔法の威力や効果も高くなる。


 例として、ファイヤーボールを撃てる杖を作ろうとするならば、杖の先端に魔石を取り付けて、その魔石に術式を刻むか、魔石を中心として杖自体に術式を書き込む。そして魔力を注ぎながら呪文を唱えるとファイヤーボールが撃てる事になる。魔石か杖に魔力が溜めてあれば、魔力を注がなくても呪文を唱えるだけでファイヤーボールを撃てる。


 高度な錬金盤には、杖と材料と魔石を置いて呪文を唱えれば魔道具を作れる物もあり、ラルーシアの錬金盤がやはりそうである。


 千代は人里離れた山の中で、この様な作業をしながら暮らし始めた。






 近くの山には大理石と石灰岩が多いが、花崗岩もある。

 これらの岩は日本でもあちこちにあるメジャーな石だ。


 大理石は石灰岩が大きく凝縮した物と思っていい、見た目が良いのでビルディングのフロアや壁などによく使われている。

 石灰岩は学校の体育の授業で滑り止めに使う白いお粉の原料だ。

 建築材料のセメントは石灰岩から作られる。

 消石灰(水酸化カルシウム)は、漆喰しっくいの原料に使われる。

 石灰岩を高温で焼くと、生石灰が得られ、生石灰に水を加えると消石灰が得られる。

 土壌改良剤として、酸性に片寄った土壌を中和させるために石灰岩の粉末が使われる。

 更に即効性を求める場合には、石灰岩の誘導体で水に溶かせば強いアルカリ性となる消石灰や生石灰を使用する。

 その他、ガラスの原料や白色の顔料の素材としても使われている。


 当然、ローリー工房でも石灰を使っていたが主原料は珪砂なので序盤では割愛させて貰った。

 以上の目的等で石灰岩は現代社会で大量に採掘・使用されている。


 日本には採掘しやすい場所に高品位の石灰岩が大量に存在する。石灰岩は数少ない日本国内で自給可能な鉱物資源である。



 陶磁器の歴史は大変古く、人類は陶磁器文化と共に発展したと言ってもいいぐらいだ。

 粘土を固めて器を作って使用した事で、文化的生活を始めたと言えるからだ。


 文化が発展すると、より丈夫で美しい器が求められ、材料や焼き方が工夫されていく。

 国王や豪族などの権力者が出現すると、それらの器が力の象徴としてステータスにも成っていく。



 千代には、ガラス製品も陶磁器も既存の物より優れた物を作る事ができるようになっていた。

 インベントリ内で純度の高い材料を仕分けして、製品に魔法付与が出来た。

 権力者達は当然それを欲する事になる。


 ラルーシアも似たような立場にあった。

 彼女は優れた錬金術士であったがゆえに、世俗を離れて1人暮らしをしていた。

 権力争いに巻き込まれたくなかったのだ。


 帝国に仕えたとしても、その中で後継者や派閥を巡って常に暗躍して利権争いが生じる。

 名が売れれば、どうしても権力争いに巻き込まれるのだ。


 彼女は、ハーフエルフなので山深い森の中での1人暮らしが好きなのだろうが。

 山奥では製品が売れないので、大都市の魔道具店に委託販売をしてもらいに行く。



 そんなラルーシアが都会に納品しに出かけたある日、千代は1人で採取に出かけていた。

 薬草と珪砂を採取しながら、魔力紙を作る為の『魔木』と呼ばれる木の魔物を探して山奥へと入って行く。


 魔木の代表的な魔物は『トレント』という魔物で、枝を槍や鞭の様に使って人を攻撃してくる。

 千代はトレントが鞭の様にしならせて繰り出す枝を【風刃】ウィンドカッターで切り落として、【火弾】ファイヤーボールで胴体を燃やしてとどめをさした。トレントはファイヤーボールにとても弱く、すぐに燃えて力尽きてしまうのだった。



 千代が魔力紙の材料にする枝を回収していると、突然頭の上から声が響いた。


「おい、お前! 何処から来た? ここで何をしている!?」



 岩の上を見上げると、鉄の錫杖しゃくじょうを突いたロン毛の美男子が仁王立ちしていた。

 熊皮だろうか? 毛皮の服を着た偉丈夫いじょうふが、切れ長の鋭い眼光を光らせて千代を見据えていた。

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