第9話 朝の採取と荷物運び

 ローリーさんの家は、こじんまりとした家だった。

 二棟の大きな工房の後ろに隠れるように建っているが、1LDKぐらいだろう。


 お父様の部屋だったのか、そこで寝かされた。

 ベッドがあるだけの小さな部屋だった。




 翌朝はしっかり5時に目が覚めた。

 習慣と言う物は素晴らしい。


 朝1番で鶏と羊に餌を上げて、畑に水を撒く。

 小さな家畜小屋と家庭菜園がある。

 どちらも自家消費分だけで、商売にする程は作って無いと言っていた。



 鶏小屋から卵を2つ貰い、スクランブルエッグとコーヒーを作る。

 昨晩と同じパンにチーズを乗せてオーブンで焼き目を付ける。


「「いただきま~す」」


 日本のパンと味が違うと思う。

 雑味が多いが、それはそれで美味しいと思えた。




 朝食後15分ぐらいで簡単に身支度をして採取に出かける。

 メークとか身だしなみには時間を殆ど掛けなかった。


 丘の麓から中腹で、ガラスの材料の石を拾い集めるらしい。

 丘と言っても標高100メートルぐらいありそうだ。


「ざっくりと説明するけど、ガラスの主な材料は石英せきえいと言う石を細かく砕いた珪砂けいしゃで、珪砂に粘土を混ぜた物で陶磁器を作るのよ」


「はい」



「この丘や向こうの山で石英が採取出来るので、父がここに工房を建てたのよ」


「そうなんですね」



「石は重いから、近くても運ぶのが大変なの」


「そうですね」



「そこで荷車を曳いてくれる、このロバのロッティが頼りなの」


「はい、ロッティよろしくね!」


 ブッルルルンッ!


「あら、気に入られたみたいだわ」


「嬉しいです」



「荷車が近くまで行けない事もあるから、その時は手で運びます」


「はい」



「石で手を挟まないように気を付けるのよ」


「はい」



 荷車一杯になるまで石英という石を拾い集める。


 私は石を運ぶ手が段々と重くなってきて、採取場所と荷車の間を行き来するのも億劫になってしまう。

 だから、取り敢えず石をインベントリに入れてから、荷車に移す事にした。


 何回かそうしてる内に、少し手から離れていても石を出し入れできる事に気付く。


「どの位まで離れていても、出し入れできるのかしら?」



 石から少しづつ離れながら、出し入れを試してみる。


「石英を【採取】」と言うと、手の上に石英が乗る。


「石英をインベントリに入れる」と言うと、石英が手の上から消えてインベントリに入る。


「インベントリから石英を荷車に出す」と言うと、2メートルぐらい離れていても移す事ができた。


 それ以上離れると、反応しない事が分かった。



 ふと考えて、「石英をインベントリ内に【採取】」と言うと。

 離れて目視していた石英が直接インベントリに入る事にも気付いた。


 私は楽しく成ってきて、石英採取場所と荷車の間2メートルぐらいの所に立って、


「石英をインベントリ内に【採取】」


「インベントリから石英を荷車に出す」


 と言いながら、石英をバンバン荷車に移動させた。



 全く手を触れずに、重さを感じる事無く運ぶ事が出来る。


「わぁ、楽しい! 私って魔法使いみたい!」


「わ~、ストップストップ。そんなに載せたら重くてロッティが可哀想よ!」


「あ、ゴメンね、ロッティ!」


 千代は適度に石英をインベントリに戻した。



「チヨ、あなた収納魔法を持ってたのね」


「えぇ」


(しまった! うっかりポンした)



「凄い! あなたがいれば工房は大繁盛するわ」


「え、そうなんですか?」


「そうよ、材料の運搬だけで無く、製品の輸送コストを削減できるし、泥棒や盗賊のリスクも軽減できるし、作業効率だって上がるわ。関税だって払わなくて済むのよ」


「関税は払った方が良いと思います。捕まりますよ」


「そうね、悪い事はよしましょうね。それでもメリットは沢山あるわ。製品が壊れる事も少なくなるでしょうしね」



「身の安全の為に、本当は秘密にしておきたかったのだけど、忘れて使ってしまいました。出来れば他の方には言わないで欲しいです」


「そうね、それが良いわね。そうしましょう」


「ありがとうございます」



「収納魔法を使うのは、2人だけの時にしましょうね」


「はい」



 腕の長さぐらい迄の小さめの枯れ木も拾いながら帰る。

 工房でも薪を使うが、家でも料理や湯あみ等で薪を使うからだ。


「ロッティはお払い箱だわね!」


 ブッヒヒイイイイインッ!

 ロッティが怒っている。



「そんな事無いです。私の【収納魔法】を秘密にする為に、今まで通りに働いて貰いましょう。でも、人の居ない所では空荷にして、楽にして上げましょうね」


 早速千代は、荷車の石英を全部インベントリに移して上げた。


 ブッルルルン、ブッルルルン!

 ロッティが喜んでいた。



 千代は帰り道で、歩きながら自分のステータスを確認する。


【ガラス細工Ⅰ】【陶磁器製作0】【採取Ⅰ】【鑑定Ⅰ】の四つのスキルが追加されている。

【インベントリⅠ】は【インベントリⅡ】にレベルアップしていた。


 陶磁器工房に入って作業場を見ただけなのに【陶磁器製作0】が追加されていたのに驚いた。



「そうそう、収納魔法手当を給金に追加するわね」


「はい。って、そう言えば給金に関してまだ何も聞いてませんけど?」


「見習い中は給料だけど。自分で作った製品が売れれば、工房にマージンを入れて貰った残りを全て自分の収入に出来るのよ」



「製品が売れなかったら?」


「私が貴方の製品を預かって、毎月給料を上げるわよ。でも売れるから大丈夫、需要があるんだから」


「そうなんですね」



「製品が売れるまでには、材料費、工房施設や道具の維持費、出荷作業費、輸送費、委託販売費等の経費が掛かるから、それをマージンとして差し引いた残りが職人さんの収入に成るのよ」


「はい」



「そして、チヨのお給金はそのマージンから払うの。だからチヨが【収納魔法】を使ってくれれば輸送費も上乗せしてチヨに払うわよ」


「はい、嬉しいです」

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