第48話 迎賓館襲撃
「ふん、愚かな人間どもが……。
今日で人生が終わるとも知れずに、ダンスなどと浮かれおって。せいぜいアホ面して乳繰り合ってるがいい!」
アンドーラ公爵の跡取り息子ランセロ(魔王ガリウスが憑依している)は、迎賓館の2階からダンスホールを見下ろしていた。
そんなランセロが、2階のテラスに出て両手を上に広げると、東西南北4つの魔法陣が光りだす。
「
ピッカァアアアアアンッ!
それぞれ4つの魔法陣から赤紫色の光の筒が浮かび上がり、
東の魔法陣からは悪魔系のレッサーデーモン、デュラハン、バンパイア。
西からは魔神系のフォレストジャイアント、ギガントス、サイクロプス。
南からは獣系のウエアウルフ、ケルベロス、ミノタウロス。
北からは死霊系のマミー、グール、レイス、リッチ。
迎賓館は、城や砦と違って防御力が低い。城壁などは無く、2メートル程の低い石壁が囲んでいるだけだ。
その壁をいとも
実は魔王ガリウスが
外庭に出ていた貴族達は四方から魔物が迫り来るのを見て、悲鳴を上げながら慌てて迎賓館の中に逃げ込んでいく。
代わりに貴族に付き添っていた護衛騎士達が、迎賓館の中に魔物を入れまいとして外へと出てきた。
「王族の方々は、早く1階から2階に上がって下さいませ! そして、なるべく一か所に固まって下さいますように!」
宮廷騎士団長が貴族達を順番に2階へと誘導していく。1階は正面玄関以外にも中庭へ出る扉や窓もあり、防御しにくいからだ。
「続いて、上級貴族の方々が2階に上がって下さい。下級貴族の方は、その後です。 護衛騎士は階下で階段を死守してください!」
ジャンヌは、小さなピンク色のポーチ(マジックバッグ)から、千代に貰ったマジックベルト【障壁+5】を取り出して、その左わきの武器収納ホルダーから、レイピア【命中補正+5】【重量軽減+5】【敏捷+5】をそっと取り出した。
ラルーシアが、千代に近づいて来て
「チヨ、よいか、決してルミナに変身するでないぞ。お主がルミナである事が知られたら、又逃亡劇を繰り返す事になってしまうからのぅ。変身してはならぬぞ! ……ならぬぞ、ならぬぞ!」
「えっとぅ……それって、振りでは無いですよね? 熱湯風呂的な「押すなよ押すなよ」に聞こえるんですけど?」
「まぁ、どうしても活躍したいのなら、化粧室にお花を摘みに行ってもよいぞ?」
千代からはラルーシアの目がキラキラとワクテカしてるように見える。
「お師匠様、本当はルミナの魔法の力を見たいのですね、はぁ……。 ヴィクトリア王太后様、ペネロペ王姉様、ジャンヌ様、チヨはお花を摘みに行って参ります」
「まぁ、こんな時にですか。チヨ様なら大丈夫でしょうが、気を付けてくださいね」
「はい、御心配痛み入ります。 ラルーシア様、ジャンヌ様、後は宜しくお願い致します」
シュッ、ピョ~ンッ!
千代は突然手すりを飛び越えて、2階から1階に飛び降りた。
既に2階のフロアと階段は、貴族達でごった返していたからだ。
千代は1階の化粧室に駆け込むと、勢いよく右手を高く上げる。
それが、いつどこから出てきたのか本人も気づいていない。
千代はステッキをバトントワリングの要領でクルクルと回しながら体を回転させた。
『パァプルピィプルパフポップン ピィプルパァプルパフポップン 魔法少女にな~れ~!』
ピッカァアアアアアッ!
眩しい光りの中からユルフワ衣装の魔法少女が現れた。
勿論、『ブリリアント☆ルミナ』12歳だ。
ピンクとグリーンのパステルカラーの衣装で、パープル色の頭には小さなティアラが乗っている。
アホ毛が一本立っていた。
が、女子トイレの個室にはルコが隠れていて、何と変身を見られてしまった。
「まぁ、本物の魔法少女だわ!」
彼女は碌に魔法少女の訓練をしていなかったので、勿論まだ変身する事が出来ずに逃げ回るしかなかったのだが。2階に上がろうとして貴族で無いからと拒否されて、仕方なく1階の化粧室に逃げ込んでいたのだ。
ルミナに変身した千代は、正面玄関を駆け抜けて外に出る。
外では護衛騎士達が魔物と戦っていたが、唯一ドニロとカシオだけが魔物に
「リーダー、俺達って、かなり強いですよ!」
「んにゃ、カシオくん。チヨさんの武器のお陰じゃろぅ」
「まぁ、それもありますね」
「ドニロさんカシオ君、突出すると挟み撃ちにされてしまいますよ。いくら強くても危険ですから、迎賓館の正面玄関を背にして戦って下さい、貴族を守る事が仕事なのですから。 先ず、私とアダモで召喚魔法陣を消してきます。そうすれば魔物の数は増えませんから、それ迄は専守防衛に徹してください。 魔物は次から次へと、まだ増え続けていますから」
「了解ですじゃ」
「オッケー。
……チヨは、やっぱりルミナだったんだな」
「カシオ君、それは内緒じゃぁぁぁ!」
「は~い」
「チヨは人類最強じゃ!」
そう、ラルーシアが言っていた。
ラルーシアの魔導書グリモワールを使い、魔法の訓練も十分にしている。
ダンジョンを封印した時よりも、魔法も沢山習得した。
恐らくルミナの魔法も全て覚醒しているのだと思う。
むしろ元々魔力が多いので、既にルミナを凌駕していた。
実際に物理攻撃はともかく、魔法だけなら人類最強に成っていた。
「アダモちゃん、出番ですよっ!」
『は~い。アダモ、行っきまぁぁぁっすぅ!』
ミルキーハムス姿のアダモが、魔物の中へと飛び出していく。
ズガガガガアアアアアンッ!
アダモはストファイのチャン・リーの様に、クルクルと回し蹴りを繰り出しながら魔物達を蹴散らしていった。
「アダモちゃん、魔物が多すぎます。先ず魔法陣の所まで、私を抱えて飛んでください」
『はぁあ~い』
「禁忌闇属性【魔界門】の魔法陣を【
ピッカァァァンッ!
「あそこです。アダモちゃん、あそこ迄飛んで下さ~い」
『はぁあ~い』
アダモはチヨを小脇に抱えると、小走りに助走する。
スタタタッ…タンッ!
ヒュゥウウウウウゥゥゥ……クルンッ!
空中で必要も無いのに1回転する。
「キャッ!」と、千代が声を漏らした。
ダァァァンッ!
2人は魔法陣の真横に着地した。
「魔法陣の書いてある地面を【
ゴゴゴゴゴォオオオオオッ!
魔法陣を囲むように地面が陥没して【魔界門】の魔法陣が崩れ去ると、魔物の出現が瞬時に止まった。
次の魔法陣へと、再びアダムとジャンプして、4つ全ての【魔界門】を消す事に成功すると、魔物湧きが全て止まる。
迎賓館正面ではドニロとカシオが善戦していたが、他の騎士達は既に総崩れとなっていて、中庭から迎賓館の中へ侵入を許してしまっていた。
宮廷騎士団と男性貴族達がどうにか支えているが、魔物が強すぎる。
外では騎士や貴族が居ない事を確認して、ルミナが広域魔法を使い始めた。
「【雷嵐】サンダーストォォォムッ!」
ピカッ、バリバリバリ、ドドドドドオオオオオンッ!
空から雷が落ちて、数十匹の魔物を蹂躙していく。
ミルキーハムス姿のアダモも、クルクルと回転しながら、回し蹴りを魔物にヒットさせていく。
ズガガガガアアアアアンッ!
アダモはネズミのキグルミを戦闘服と決めているのだ。
一方ルミナは引き続き、無詠唱・ノークールタイムで魔法を連発していく。
「魔物に【雷嵐】サンダーストォォォムッ!」
ピカッ、バリバリバリ、ドドドドドオオオオオンッ!
次々と空から雷が落ちて、数十匹単位で魔物を蹂躙していく。
更に、ルミナは、
「死霊系の魔物達に【レンジピュリフィケーション】(広域浄化)!」
ピッキィイイイイインッ!
シュィイイイイインッ!
清らかな青い光のドームが広がっていき、全ての死霊系の魔物を包み込むと、それらは光の粒に成って消えていった。
「アダモちゃん、嫌いなお化けは全て消しましたよ!」
『御嬢様に作って貰ったミスリル装備が有るから、もう大丈夫ですぅ。でも、ありがとうございますぅ』
「そうだったね。もう少しがんばりましょうね」
『はぁあ~い』
2階のテラスに出てきた貴族達が、ルミナ姿の千代と、ハムス姿のアダモの活躍に注目しだした。
「勇者だ! 魔法少女ブリリアント☆ルミナだ! 大鼠と一緒だぞ」
「ホントだ、ツェェェッ! ハンパないぞぉぉぉ!」
「オォォォ、頑張れ、いいぞぉぉぉ!」
「ふむ、やはりルミナの魔法力は凄いのぅ」
テラスで見ていたラルーシアが、嬉しそうに呟いていた。
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