第53話 婚約と冒険
「チヨと私は義理の姉妹に成るのですか?」
「そうじゃ、帝国の皇子に姉妹で揃って嫁入りじゃ!」
「「ぇええっ!」」
「姉妹なら、今日は一緒の部屋で1つのベッドで寝よう! 1人っ子だったから、妹に寝物語りしてやるのが夢だったんだ!」
「まぁ、ジャンヌ様の関心は、そっちなんですか!? 帝国の皇子との結婚はオッケーなのですか?」
「フンッ、腑抜け六皇子などに興味は無いっ! 私を嫁にしたいのなら私より強くなってから来るがいい! そんな事よりもチヨ、憧れの姉妹イベントを消化しよう。なっ?」
「はぁ……ジャンヌ、それは成りませんよ。成人した貴族は1人部屋で1人で寝るものです!」
「そんなぁぁ、母上ぇぇ……そうだ! 元々チヨと隣り同士の部屋なんだから、黙って一緒に寝れば気付かれないだろう?」
「ジャンヌ様、皆様聞いてらっしゃいますよ! それに1人部屋と言ってもドアの外には侍従か護衛が立っているのですから、必ず見つかってしまいますよ!」
「その通りじゃ。それに婚約者が出来たのなら、尚更そういう事はダメじゃろぅ」
「う~む、私は王妃では無く国王に成りたいのですが……」
「ジャンヌ、実質的には王妃は国王より偉いのですよ。裏ボス兼ラスボスとも言われる程なんですから。ねえ、お母様」
「そうですよ。ジャンヌや、私も影の実力者とか真の国王とか陰口を言われてました。それに次期皇帝の
「確率は6分の1ですけど……」
「いいえ、ジャンヌは皇太子と結婚する事に成ると内密に窺っております」
「凄い、ジャンヌ様。帝国の実質ナンバーワンです!」
「う~ん、チヨ、何か違う気がするのだが……」
カシオが急に手を上げて話に割り込んできた。
「は~い、ジャンヌ様。ブリトニア山中にある『選定剣カリバーン』を岩から抜けば、神に選ばれた真実の王『選定王』に成れると言う話を聞いたことがありま~す」
「んにゃ、カシオ君。それを言うなら南ラフラン山中に隠されてる聖杯を手に入れて、そこから水を飲むと不死身の体で長寿を全うする『聖杯王』に成れると言う話の方が本当じゃろう」
「そんな話があるのか! それじゃあ婚約する前にそれをやってみよう」
「え? ジャンヌ様? ……そのどちらかを実行すると言うのですか?」
「チヨ、両方だ! チヨも一緒だ!!」
「わ、私も? ……ジャンヌ様は何処へ行けば良いのか分かっているのですか?」
「ブリトニア山中と南ラフラン山中の両方だろぅ?」
「広くて漠然としてますし、南北に逆方向です」
「そうか、ではまずブリトニアから行ってみよう!」
「はぁ、軽く仰るのですね。国境を越えなければいけませんし、貴族学院はどうするのですか?」
「そうだな……手遅れになってしまわない内に行きたいから。学院の休日に騎乗で進んで、日が暮れたらチヨの【転移門】でシャンボール城に帰って来たらどうだろう。一度行った所へは【転移門】を繋ぐことが出来るのだろう? 又次の日に続きの場所に転移して、少しづつ進んで行こうか?」
「そうですね、転移魔法は1度言った事がある所にしか転移できない『御約束』ですからね。野営は危険ですし、荷物も減らせますし、御風呂も着替えも寝床も心配いりませんしね」
「その通りだ! チヨが一緒なら簡単に国王に成れる気がしてきたぞ!」
「それは保証できませんが、新人護衛騎士の研修を兼ねても良いかもしれませんね」
「えっ! この者達も連れて行くのか? チヨと2人きりがいいのだが……」
「ジャンヌ、それはダメですよ。結婚前の貴族令嬢が護衛騎士無しで外出するなんて、とてもはしたない事です! 役に立たない護衛騎士でも連れて行きなさいね!」
「はい、お母様……」ショボン。
「ジャンヌ様、このカシオが御一緒すれば鬼に金棒です。安心してください、勇者ですよ!」
「ハンッ! カシオは剣術稽古で一度も私に勝った事が無いではないか。足手纏いだが、しょうがないから連れて行くのだ!」
「チェッ、もうすぐ一本取れますよ~だっ!」
カシオはジャンヌに聞こえない様に小さな声で呟くのだった。
★ △ ◆ ▽ ★
「来ちゃった!」
シャンボール城のエントランスで、ジェルソミーナ公爵令嬢が千代に会うなりそう言ったのは、舞踏会の2日後だった。
公務を全て終えて帝国へ帰る前のレドケルン公爵夫妻とパインフィルド六皇子と共に、シャンボール城を訪れたのだ。
訪問については予め連絡を受けてはいたが……。
ジャンヌと千代は客間で
勿論皇子達はそこには居なくて、別の客間で寛いで貰っている。広大なシャンボール城には、豪華な広間が沢山使われずに無駄にあるのだった。
ジャンヌに付いての皇子達の印象は、
「美しく凛として気品がある」
「言葉攻めにされたい」
「手四つに組みあいたい」
「サバ折られたい」
という事だった。
千代に付いては、
「可愛くて良い匂いがする」
「魔法少女ゴッコがしたい」
「マジカルステッキで叩かれたい」
「チッパイが可愛い」
などと言ってるらしい。
「全然バレてるじゃないですか!? 師匠、王子達に【マインドブラスト】を掛けてくださいっ!」
「あの夜、迎賓館で既に【マインドブラスト】を掛けたのじゃが、ここでもう1回掛けても効き目があるかのぅ?」
「とにかく早くやっちゃって下さいっ!」
「チヨよ、公爵が聞いておるのじゃ。落ち着くが良い」
「それなら公爵にも【マインドブラスト】を……」
「オイオイ、王子達もワシらも守りの魔道具を身に着けてるから効果は無いぞ! 多少ホンワカと影響は受けているが、ワシらは帝国の宝とも言える最上級の魔道具を身に着けているのだから、諦めるが良い」
「はぁ……申し訳ありません。……あと私の良い匂いって、何でしょうか? 私って香水とか付けてないんですよ、ハーブの匂いでしょうか?」
「チヨは魔力臭がとても良い匂いなのじゃ。全属性適性のミックスジュースの様なフルーティーな匂いがプンプンするのじゃ」
「え、そうなんですか?」
「この世界で支配者として生きていく為には魔力が最重要なのじゃ、より良い子孫を生み権力を維持する為にのぅ。
魔力臭はフェロモンの様に、鼻では無く脳で匂いを感じるのじゃ。
全属性に適性があり大量の魔力を持つチヨは、魔術師に取ってとても良い匂いがする筈なのじゃ。
それは優れた魔力を持つ子孫を作りたいと言う、この世界の魔術師の本能なのじゃ。
魔力の少ない者は感じる事が出来ないのじゃが。魔力が優れた者ほど魔力臭を嗅ぎ取り、より強い魔力を求めるものなのじゃ」
「私もチヨは良い匂いがすると前から思っていた。それが本能で求める匂いだったのだな。だからチヨを嫁にしたいと思うのかもしれないなぁ」
「ジャンヌ様、皆さんの前で女同士で嫁にしたいとか言わないで下さい! 舞踏会で踊っていて、良い匂いのする殿方はいなかったのですか?」
「チヨ程に良い匂いの男は居なかったなぁ、それに貴族は男女共に香水を付けているしなぁ。脳に匂うと言う感じはしなかったなぁ」
「そうですか……私も踊った相手が全然脳に匂わなかった気がします」
「チヨより魔力が多い男がいたら、匂いで分かったじゃろうて」
「そんな男性がいるでしょうか?」
「いないじゃろう、チヨは異常じゃ!」
「師匠! 皆さんが居る前でそんな言い方しないでくださいっ! もぅっ!」
皇子達はジャンヌと千代に惚れ込んでしまって、夕食の席で2人に男の目を向け続けていた。
並んで座ってるジャンヌと千代は、気付かれない様に内緒話を交わす。
「ジャンヌ様、このまま皇子と婚約しても良いのですか?」
「はんっ、返事を保留にしといて、カリバーンを探しに行こう。抜くことが出来なければ聖杯を探せばよい」
「上手くいくでしょうか?」
「チヨが一緒なら、どっちか上手くいく様な気がするんだ。『為せば成る為さねば成らぬ何事も』だ。 それに貴族の結婚は当人同士の意見など反映されないのが普通だと言うではないか。このままいけば2人とも間違いなく皇子と結婚させられるだろう? 結婚してしまったら自由に冒険する事など出来ないだろうから、今のうちに選定剣か聖杯をゲットするのだ!」
「はぁ、それしか無いのでしょうか?」
「無いっ!」
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