第37話 千代失踪後のローリー工房
千代が居なくなった後のローリー工房に、冒険者グループ『荒鷲の爪』のメンバー達が訪ねて来た。
カシオは魔物に受けた傷も癒えて、すっかり元気に成っている。
リーダーのドニロが挨拶する。
「こんにちは、ローリーさん。ダンジョンの魔物沸き騒動では大変お世話になりました」
「いいえ、大した事はしてませんよ、出来る事をしただけですから。 カシオくんは元気に成って良かったですね」
「はい、お陰様ですっかり元気になりました。ところでチヨは、いつ工房に戻って来るんですか?」
「……チヨは、もう戻らないと思います。帝国に見つからない様に暮らすのだと、フィレニー山脈を越えて行きましたから」
「それじゃあ、もう工房には戻らないのですね!」
「そうなの」
工房見習いのクラインも話を傍で聞いていた。
「ローリーさん、それでワシらもそろそろ拠点のエルレイダ街に帰ろうと思ってるのじゃが。リフィップはこちらの工房で雇って貰いたいと言ってるのじゃ。見習いとして雇って貰えないかのう?」
「はい、見習いはいつでも募集してますよ。売り上げが順調なので、もっと職人を増やしたいと思ってるのです。ただそうなると、冒険者は続けられないと思いますけど……」
「はい、それはそうですよね。実はアンソニオも冒険者を辞めて実家の商店を継ぐと言いだしてますのじゃ。『荒鷲の爪』はワシとカシオ君だけになってしまうので、しばらく活動休止するつもりですのじゃ」
「そうなんですか……」
「今回の事で、ワシらはやっと命拾いしたので、冒険者活動は暫く控えようと思っておるのじゃ」
「はぁ、それも良いかも知れませんね。ドニロさんとカシオくんも工房で働きますか?」
「ワシは手先が不器用だから遠慮しますじゃ。カシオくんはどうするかね?」
「オレも、ちょっと苦手だなぁ。それにフィレニー山脈を越えて、チヨを探そうかなとも思ってるんだ」
「……あのぅ、チヨの正体を聞いてるのでは?」
「うん。チヨが『魔法少女勇者ルミナ』に変身して、ダンジョン沸きを終わらせた事は聞いてます。でもその事は関係無しに、ただ『ありがとう』って一言伝えたいんだ。別に帝国に報告したりするつもりは無いんだぜ」
「そう……会えると良いね」
「うん」
「ドニロさんもカシオ君も行く当てが無くなったら、ここに戻って来てね。職人に成らなくても仕事はあるから、その内ラフラン王国内にも支店を出そうかとも思ってるのよ」
「ほぅ、国を越えて支店を出すのじゃな?」
「えぇ、ラフラン王国に親友が居るのよ。お貴族様からの注文も順調に増えてるから、華やかな芸術大国であるラフラン王国に進出するのもありかなぁと、思ってるの」
「ほほう、それはいいですなぁ。カシオ君、それじゃあワシらもラフラン王国を目指して、修行の旅にでようかのぅ?」
「はい、リーダー! そうしましょう」
アンソニオはエスタード王国(当国)内の実家の商店に帰って行き、リフィップは工房に残って陶磁器職人の見習いを始めた。
リフィップは、実は陶磁器工房のステラに惚れているらしかった。
ローリーはそれをドニロから耳打ちされたが、それはそれで良いと思った。男女の仲は他人の口出す事では無いと思っていたから。動機はどうであれ、工房の働き手が増えるのは歓迎で、ローリーは考え方が男前だったのだ。
ドニロとカシオはラフラン王国目指して、フィレニー山脈を越えて行った。
更に職人見習いのクラインが、その翌日にローリーに相談しにきた。
「ローリーさん、1度実家に帰って家族に近況報告をしたいのです。しばらくお暇を頂けないでしょうか?」
「うふふふ、勿論良いわよ。貴方もそう言うんじゃないかと思ってたわ」
「えっ、……そうなんですか?」
「実家はラフラン王国だったわよね、あなたもフィレニー山脈を越えて行くのでしょう?」
「……そうなりますけど、実家がそっちだからですよ。変な笑みを浮かべてますよね」
「うふふふ、チヨに会ったらよろしくね」
「はぁ、はいはい。わたしもおチヨちゃんがルミナに変身した事は口外しませんから安心してください。おチヨちゃんが不幸に成る事は望んでませんので」
「解ってるわよ。私は男女の中には介入しない主義だから、せいぜい頑張りなさいね」
「はい、それでは失礼します」
「あら、もう早速行くのね?」
「はい、そうさせて頂きます。お世話になりました」
「カシオ君より早くチヨが見つかるといいわね」
「うぐぅっ。そ、そのつもりで急いでいるのでは……ないつもりです」
「あはははは、いいのよ苦しい言い訳を一々しなくても。いってらっしゃ~い!」
「……いってきます」
ローリーは、ドニロとカシオに次いでクラインも見送った。
「青春っていいなぁ! 私にも素敵な男性が迎えに来ないかしら。……おっと、週末の夜に成ればチヨが工房に帰って来て作業するのだから、3人がラフラン王国に向かった事を教えてあげましょうかしらね。……それともサプライズの方が燃えるかしら? う~ん」
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